61.侯爵令嬢は窮地に追い込まれる
「伝説級の金属が手に入るかもしれないというから来たけれど、これ絶対無理でしょう」
北の山脈の頂にあるクレバスから下を覗くと、ドラゴンがいびきをたてて寝ていた。いびきの音は麓まで聞こえるほどなので、おかげですぐに居場所が分かったのだ。
頂まではライル様率いる『風魔法』チームは自身の操る風で登り、私とフレア様はレオンの背に乗せてもらい登ってきた。
数日前、北の山脈にドラゴンが住み着いたことをレオンが探知していたのだ。
「ドラゴンのやつが懐に抱いている虹色のインゴットが見えるか?」
吹雪の中、のん気に昼寝をしているドラゴンの懐を見ると、いくつかのインゴットを抱えているのが見えた。
「あのインゴットを精製すると、ランダムだが伝説級の金属となるのだ」
レオンの説明によると、虹色のインゴットは精製すると、アダマンタイト、オリハルコン、ミスリルなど伝説級の金属になるそうだ。どの金属になるかはランダムなので分からない。
「そこでお前たちに試練を与える。あのドラゴンが寝ているうちにインゴットを採ってくるのだ。ついでに剥がれた鱗があれば拾ってこい」
「盗っての間違いではないの?」
クリスの頬が引き攣っている。
「ドラゴンは光り物が好きだからな。あやつもどこかから盗ってきたのだろう」
「でも、レオン。降りている途中でドラゴンが目を覚ましたらどうするの?」
レオンとライル様がにやりと笑う。嫌な予感がする。
「戦え!」
「「「ええっ!」」」
クリス、お兄様、私の叫びがこだましかけたところで、ライル様が風で叫び声を散らす。
「おい! 大きな声を出すな。ドラゴンが起きる!」
トージューローさんが口に人差し指をあてて、しいとする。慌てて口を塞ぐ。そっと割れ目を覗くとドラゴンはまだ寝ている。良かった。
「ドラゴンは夜行性なのじゃ。余程のことがない限り起きないのじゃ」
フレア様がいい笑顔だ。うん、楽しんでいる。
「ドラゴンって最古の生物でしょう? 魔法が効かないと聞いたことがあるわよ」
「僕も本で読みました。万が一目を覚ましたら、どうやって戦うのですか?」
口々にクリスとお兄様が反論すると、レオンが呆れた顔をした。
「おまえたちは上位魔法を身に着けている。全く無効というわけではない」
レオンがくいと顎でドラゴンを指す。
「下にいる彼奴は下級のドラゴンだ。安心して行ってくるがよい」
「「「安心できません!」」」
全く無責任な神様たちだ。
クリスとお兄様は無音の風を操って下までそろそろと降りていく。私は『風魔法』を使えないので、『創造魔法』で丈夫な蔦を体に巻き付けて、伸ばしながら下に降りていくことにした。
「ユリエの魔法は便利だな」
ふわふわとトージューローさんが私の後ろで宙に浮きながら、サポートしてくれている。トージューローさんはヒヒイロカネの刀の柄に手をかけている。いつでも抜刀できるようにしているのだ。三人のサポート役として一緒についてきてくれた。
「そうですか? 宙を飛べる点では『風魔法』の方が便利だと思います」
「なんでも創造できるのだろう? 好きな時に必要なものを作り出すことができるじゃないか」
森にあるものに限られるのだけれどね。正確には土から生み出せるものだろうか。それを告げるとトージューローさんは顎に手を添えて、しばし考え込む。
「万物は海と大地から生まれる。海も大地と面しているからな。そう考えると『創造魔法』は最強じゃないか?」
そういう考え方もあるのだとトージューローさんに教えられた。後でレオンに聞いてみることにしよう。
時間がかかったが、ようやくドラゴンが寝ているところに辿り着く。緑色の鱗で覆われたドラゴンだ。上から見た時はあまり大きく見えなかったけれど、近くで見ると迫力がある。
ごくりと唾をのみこむと慎重にドラゴンの懐に近づく。虹色のインゴットは両手で持てるくらいの大きさだった。そっとインゴットを持ち上げる。ちょっと重い。
クリスとお兄様も頷きあうと、インゴットを持ち上げる。
トージューローさんは剥がれた鱗を探していたようだが、見つからなかったようだ。鱗は『禁断魔法』に有効かもしれないので、剥がれているものがあれば拾ってくるようにとのことだった。無理に剥がそうとするのは危険なので、自然に剥がれた鱗がなければ撤収するというのがレオンの指示だ。
鱗は私たちが無事上にあがったら、神様たちがドラゴンを退治して鱗を剥がすという作戦だ。
撤収だというトージューローさんの合図に従って、なるべく音を立てないように上にあがる。
しかし、上にあがる途中、ドラゴンの尻尾辺りに光るものが目に入る。緑に輝いているそれは剥がれた鱗だ。
私は気づかれないようにドラゴンの尻尾辺りに再び着地すると、剥がれた鱗を拾う。
背負っている蔓で作った網かごの中に鱗を入れるのに気をとられ、背後のドラゴンの気配が変わったことに気づくのが遅れた。
刹那、すさまじい咆哮が私を襲う。
ドラゴンが私の気配に気づき目を覚ましたのだ。大切な宝物を盗まれたドラゴンは激怒している。
まずい! 咄嗟に周りを見渡し、逃げ道を探す。だが、身を隠すような場所は見当たらない。
目の前のドラゴンはのそりと起き上がると、私の前に立ちふさがり、獲物を狙うような視線を向ける。ドラゴン特有の縦長の瞳孔からは私を逃すまいとしているのが、伺えた。
ドラゴンはうっそりと金色の目を細めると、大きく顎を開ける。中心に魔力が溜まっていく。
「ドラゴンブレス!?」
咄嗟に結界を張らなければと、コートのポケットから素早く符を取り出し、宙に投げて詠唱する。
「符術結界! 光陣壁!」
結界を張ると同時にドラゴンのブレスが放たれた。間一髪間に合ったけれど、ドラゴンのブレスの魔力が強い。結界が破られるのは時間の問題だろう。
「リオ!」
必死に私の元に駆けてくるレオンの姿が視界に飛び込んでくる。
「来てはダメ!」
ドラゴンブレスが弱まったのと同時に光の結界が割れた。
私の体は衝撃で後ろの氷壁に叩きつけられた。体がバラバラになりそうな感覚に襲われる。
「かはっ!」
息ができない。苦しい。
「リオ! しっかりしろ!」
レオンの声が……聞こえる。来てはダメだと言ったのに……。
「時の神! リオを頼む」
「任せろ! ピンポロリン!」
ふわりと体が何かに包まれる感覚がした。
「皆! 撤退するぞ!」
その声を聞いた後、私は意識を手放した。
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