60.侯爵令嬢は剣の稽古に夢中になる
私は今、ある訓練に奮闘中だ。
今日は少し変わった魔力の使い方を試している。
「光迅裂破!」
見様見真似でトージューローさんの必殺技を繰り出すも木刀が割れてしまった。お兄様との打ち合い稽古で見たトージューローさんの必殺技を、自分の魔力でやってみようと思いついたのだ。
光を集めて木刀に纏わせるまではできるのだが、振り下ろそうとすると木刀が割れてしまう。何回も試したが、結果は同じだ。
「また、失敗だわ」
ペタンと地面に座りこむ。
「何をしておるのだ? リオ」
「トージューロー様の必殺技を真似してみようと思ったのだけれど、上手くいかないの」
レオンとフレア様は顔を見合わせると、ふうとため息を吐く。
「あの技は普通の武器では使えぬ。魔力を纏わせても壊れない金属を媒体にする必要がある」
「例えばどんな金属なの? 剣に使う鉄ではダメなの?」
レオンは否定の意で首を横に振る。
「アダマンタイトやオリハルコンなど伝説級の金属だ。彦獅朗の刀はヒヒイロカネでできておる」
ヒヒイロカネという名称の金属は聞いたことがない。アダマンタイトやオリハルコンは物語に度々登場するので知っているが。
「どこに行けば手に入るのかしら?」
「それならば、わたくしがもっ……ふぐおっ!」
何かを言いかけたフレア様の口はレオンの大きな獅子の前足で塞がれる。力が強かったのかフレア様は後方に吹っ飛んでしまった。
「フレア様!? レオン、やり過ぎよ!」
「……力の加減を間違えた」
壁にぶつかる寸前、金の鳥の姿に変化して回避したフレア様の姿を見てほっとする。
「何をするのじゃ! レオンの乱暴者!」
レオンの頭の上でホバリングすると、くちばしでレオンの頭をつつくフレア様だ。レオンは鬱陶しそうに前足でフレア様をはらう。
「ヒヒイロカネはヒノシマ国でしか採れないと聞いておる。その他の伝説級の金属ならば、在処に心当たりがある」
「本当? どこに行けば手に入るの?」
ふむとレオンは納得したように頷くと、提案をしてきた。
「試練の成果を試すのにちょうどよい。明日、伝説の金属を探しに行くぞ。もう一つの目的もあることだしな」
「もう一つの目的?」
その夜、いつものメンバーをサロンに集めて、レオンが話を始める。
「『禁断魔法』については以前説明したと思うが、『略奪魔法』が発動した場合、一番危険なのは、『神聖魔法』を持つリオだ」
トージューローさんはキクノ様から『禁断魔法』について話は聞いたとのことだ。
「でも、魔法属性判定で私は土属性の『植物魔法』と判定されているわ。シャルロッテは私が『神聖魔法』の持ち主と知らないはずよ」
「だが、『禁断魔法』については解明されていないことが多い。用心するに越したことはない」
レオンはフレア様に視線を移す。最近、フレア様とダーク様は我が家にいることが多い。
「フレア、お前もダークのように魔法を授けたのを忘れていた人間がいたなどということはあるまいな?」
ダーク様はマリーのお母様アリアさんに『闇魔法』を授けたのを忘れていた。
「そのようなことはないのじゃ! わたくしが『光魔法』を授けたのは二百年前なのじゃ」
フレア様の話によると、二百年前、王国の南に位置する王家直轄領(当時はライオネス公爵領と呼ばれていた)の廃れた修道院に敬虔な少女がいたそうだ。魔力量は多くないが、魂がきれいな十歳の少女に惹かれたフレア様は彼女の前に姿を現した。そして『光魔法』を授けたそうだ。
生きていれば二百十歳か。フィンダリア王国には百年以上生きる人間が稀に存在する。大抵は先祖に長命種のエルフなどの種族がいた場合なので、極めて少ないが。
「フレア様。その方がまだ生きているということはありませんか?」
「長い間、人間との親交を絶っていたので、行方は探っていないのじゃ」
ポンとレオンが獅子の姿に変わると、フレア様に凄む。怒っているようだ。
「今すぐ行方を探せ!」
「ひゃっ! わ、分かったのじゃ!」
フレア様は私の後ろに隠れると、『光魔法』を授けた人間の気配を探り始めた。神様は瞑想することで自分の属性を持つ人間を特定することができるとのことだ。
「見つけたのじゃ! 二百年前、彼女と出会った修道院にいるのじゃ! まだ、存命だったのじゃ」
「その方は長命な種族の血をひいているのではありませんか?」
「そういえば、先祖にエルフがいるといっておったのじゃ」
エルフは滅多に人前に姿を現さない。人間の異性と結ばれることは極めて稀だ。推測の域に過ぎなかったが、本当に存命していた。
レオンは「やはりな」と呟くと、再び小さな獣姿に変わる。
「そうなると、やはりあれが必要になってくるな」
レオンの言葉の意味は翌日知ることになる。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)