55.侯爵令嬢は王女主催のお茶会に出席する
魔法属性判定が終わった後、王宮へ登城する。まずは伯父様に挨拶をするべく宰相執務室へ向かう。
宰相執務室をノックすると扉が開き、宰相補佐官様が出迎えてくれた。
「宰相閣下は国王陛下の元に行っておられます。まもなく戻ってまいりますので、ソファにお掛けになってお待ちください」
宰相補佐官様はジョゼフ・マーカスライトという。マーカスライト侯爵家の嫡男で次期宰相候補と言われる優秀な人物だ。
しばらくすると、扉がノックされて伯父様が宰相執務室の中に入ってきた。
「待たせてすまなかったね。皆元気そうで何よりだ」
「義兄上もお元気そうで何よりです」
伯父様はお父様とお母様と少し談笑をした後、私たちの方へ顔を向ける。
「ジークとリオも元気そうだね。二人とも背が伸びたかな。こちらの可愛らしい天使がメイだね。伯父様のところに来るかい?」
伯父様が腕を差し伸べてくる。メイを抱っこしたいのだろう。メイは「あう」と言って私から離れない。
「じゃあ、こうしようか」
結果、メイを抱っこした私ごと伯父様の膝の上に座らされた。姪二人を抱っこできてご満悦の伯父様だ。
「今回はクリスティーナ王女殿下主催のお茶会だね。ジークは招待されているのか?」
「いえ。僕は会場までリオをエスコートするだけです」
お茶会の会場までのエスコートはお兄様にお願いした。
ちなみにレオンは姿を消している。後ほどお兄様とともに王太子殿下に会う約束をしているそうだ。その時に姿を現すのだろう。
「そろそろ会場に移動しますので、伯父様失礼いたします」
伯父様の膝の上から降りると、メイをお母様に託す。
「お兄様、エスコートをお願いします。では行ってまいります」
皆にカーテシーをして、宰相執務室から退室した。
◇◇◇
お茶会の会場はクリス専用の庭園だ。
庭園に設けられた席は一席につき三、四人で配置されている。私が案内された席は四人だった。クリス、トリア、アッシュベリー侯爵家の次女アンジェリカ様と私だ。アンジェリカ様も前世で仲が良かった友人の一人だった。蜂蜜色の髪に緑の瞳は釣り目気味できつい印象を受けるが、さっぱりとした気質で付き合いやすい。彼女の魔法属性は水属性の『霧魔法』だ。
「あのオレンジ色の花は何という名前なのですか? とても良い香りですね」
「キンモクセイというの。イーシェン皇国から献上された植物なのよ」
キンモクセイの香りに惹かれたアンジェリカ様が尋ねると、クリスが答える。キンモクセイの花が放つ芳香はいい香りだ。香水にできないかと思い、クリスと研究をしている。
「ところで皆様。師事する教師は決まっているのかしら?」
クリスが皆に質問をする。こういう時は身分の高い者から答えていくのがマナーだ。まずはトリアが答える。
「わたくしは魔法院から教師を迎える予定です」
魔法属性判定の時にクリスと私はトリアとお友達になった。トリアも随分と打ち解けてきたようで、堂々と応じた。次は私の番。我が家は侯爵家の中では一番家格が上なのだ。
「私は遠い東の国からいらっしゃる『土魔法』を使う方にお願いするつもりです」
キクノ様のことだ。もちろんこれは詭弁で実際は違う。
「私は将来騎士団に入りたいと思っております。魔法の教師はつけないつもりですわ」
そういえばアッシュベリー侯爵家は武門の家柄だった。アンジェリカ様は二人姉妹でお姉様が侯爵位を継ぐことになっている。次女である彼女は嫁ぐか自分で職業を選べるので、騎士の道を選ぶと前世でも言っていた。
トリアとアンジェは前世でも友人だった。私が冤罪を着せられた時も二人は最後まで無罪を信じてくれていたと人づてに聞いたのだ。ただ彼女たちも家を守るために表立って味方をすることはできなかったのだろう。
「騎士になるということは剣の稽古をしているのかしら?」
「はい、王女殿下。毎日、姉と一緒に剣の稽古をしております」
「それは頼もしいことね。いつか『風の剣聖』と手合わせする気はあるかしら?」
クリスがいたずらっぽく微笑む。
「まあ! 王女殿下は『風の剣聖』様とお知り合いなのですか?」
アンジェリカ様の瞳が輝く。トージューローさんは剣の道を志す者にとってはあこがれの存在だ。
「ええ、リオのお兄様が『風の剣聖』の弟子なのよ」
「そうだったのですか。機会があればぜひお願いしたいと思います」
剣の話から『サンドリヨン』のドレスの話など四人で盛り上がっているところに、王太子殿下がこちらに歩いてくるのが目に入る。お兄様とレオンも一緒だ。
そして、何故か木陰で伯父様が佇んでいる。本人は隠れているつもりなのかもしれないが、このテーブル席からは丸わかりだ。切れ長の瞳が片眼鏡の向こうで優しく細められていた。
「ごきげんよう。楽しんでいるかな? ご令嬢方」
爽やかな笑顔を浮かべ紳士の礼をとる王太子殿下にご令嬢方がざわめく。前世ではこの時点で王太子殿下の婚約者は私に決まっていた。だが、今世ではまだ婚約者が決まっていないため、王太子妃の座を狙っているご令嬢もいるだろう。一斉に獲物を狙う目に変わる。私は興味ないけれど……。
「やあ、クリス。お茶会が盛況なようで何よりだ」
王太子殿下が私たちの席にやってきたので、立ち上がりカーテシーをする。クリスはふんと鼻を鳴らしていた。ご機嫌ななめになったようだ。
「そのまま座っていていいよ。ヴィクトリア嬢、カトリオナ嬢、アンジェリカ嬢」
公の場だから、愛称で呼ばれなくてほっとした。
「お兄様。わざわざ顔を出さなくても良かったのよ」
「そういうわけにはいかないだろう。可愛い妹の晴れ舞台だ」
「ねえ」と私に笑いかけてくる王太子殿下だ。曖昧に微笑んでおく。
『リオ、王太子の小僧が怖くないか?』
レオンが念話で語りかけてくる。
『大丈夫よ。今はもう何とも思わないわ』
『うむ。そうか』
レオンが心配してくれていたのが、嬉しい。
王太子殿下は次のテーブルへ挨拶に行った。ご令嬢方は、皆話しかけられて顔を染めている。顔立ちは整っているし、王太子という地位は魅力的だ。誰もが我こそが王太子妃に! と思っていることだろう。
シャルロッテがいるテーブルに王太子殿下が挨拶に行った時に事件が起きた。カーテシーをしようと立ち上がった拍子にシャルロッテのティーカップが倒れ、お茶が零れてしまった。
「まあ! なんと無作法な」
「キャンベル男爵家のご令嬢ではありませんの」
「あの成り上がりの男爵家の?」
周りのご令嬢方から非難の声が上がり、シャルロッテの顔が赤く染まる。
そして一瞬だけ非難した令嬢方を睨みつけたシャルロッテの目は憎悪を帯びていた。私はその目を見てぞくっとする。
あの目は前世で牢にいた私を訪問した時に見せた目だ。今は私に向けられてはいないが、嫌な感じがする。
お茶を零してしまったシャルロッテを咎めることなく「大丈夫?」と優しく声をかけている王太子殿下。
その光景を見ると、運命はまたしてもあの二人をつなげる予感がした。
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