54.侯爵令嬢は魔法属性判定の儀式を受ける(後編)
「それではクリスティーナ・エレイン・ヴィン・フィンダリア王女殿下! 魔法属性判定玉の前に出て手をかざしてください」
判定官に名前を呼ばれ、クリスが魔法属性判定玉の前に進み出る。
クリスが魔法属性判定玉に手をかざし魔力を通すと、鮮やかな青色に輝く。土属性も持っているのだが、二属性持ちだと魔法学院でクラスが別れてしまうからとフレア様に頼んで隠蔽してもらったのだ。
「クリスティーナ・エレイン・ヴィン・フィンダリア王女殿下は『風魔法』です」
周りから拍手があがる中、次にトリアが呼ばれる。トリアは『水魔法』と『土魔法』の二属性持ちだ。しかし、水属性が現れるのは魔法学院に入ってからなのだ。今の段階では『土魔法』のみと判定された。
「次はグランドール侯爵家令嬢。カトリオナ・ユリエ・グランドール嬢! 魔法属性判定玉の前に手をかざしてください」
いよいよ私の番だ。深呼吸をすると、魔法属性判定玉の前まで進み手をかざす。レオンに注意されたとおり魔力をそっと流した。ちなみに『神聖魔法』は魔法属性判定玉には現れないはずなので、そちらは問題ないはずだ。
魔法属性判定玉は一際大きく輝いたかと思うと『土魔法』の茶色より濃いチョコレート色に染まる。
魔力を流しすぎたのだろうか? まずい!
「これは……土属性のようですが、闇属性の可能性もあります。はっきりといたしませんので『鑑定眼』で判定させていただきます」
判定官が『鑑定眼』を使って私を鑑定している。落ち着いて! 大丈夫! ダーク様に『闇魔法』を授けてもらったわけではないので、闇属性はあり得ない。
鑑定が終わったのか判定官が私から目を離し、正面を向く。
「グランドール侯爵家令嬢。カトリオナ・ユリエ・グランドール嬢は土属性の『植物魔法』です」
良かった! 思ったとおりの鑑定結果だ。
「貴女は強力な『植物魔法』が使えそうですね。訓練次第では魔法院の環境部門からスカウトがくるかもしれませんよ」
立ち去り際、こっそりと判定官が私に呟いた。魔法院の環境部門とは魔力がある植物の調査や環境が破壊されていないか地方へ観察に行ったりする部門のことだ。
判定官に「光栄です」とにっこり微笑むと、舞台裏へと歩いていく。
王太子殿下の妃候補以外の職業なら歓迎だ。
自分の魔法属性判定は終わったが、気にかかることがあるので家族が待っているボックス席へと移動する。
「リオ、お疲れ様。魔法属性判定玉が大きく輝いたから、冷や汗をかいたよ」
お父様は本当に冷や汗をかいたようだ。ハンカチで額を拭っている。
「私も冷や汗をかいたわ」
お父様に抱かれていたメイが「あー」と手を伸ばしたので、抱っこする。
「メイ、いい子にしていた?」
「あう」と手を挙げる仕草をする。「いい子にしていた」と言っているようだ。可愛い。
ボックス席とはいえ、会話が筒抜けにならないように『遮音』というスキルが使われている。
マリーの影に隠れているダーク様のスキルだ。
神様が使った魔法なので、魔法院に探知されることはないだろう。
「あれほど言ったのに、魔力をこめすぎたのではないのか?」
「違うわ。言われたとおり少ししか流していないのに、いきなり光り出したのよ」
「思ったよりお前の魔力量は多くなりすぎたのかもしれぬな」
うむと腕を組んで考え込むレオンだ。
「シャルロッテの番はまだかしら?」
「キャンベル男爵家は貴族の序列でいくと一番後だから、あと七組は待つと思うよ」
今年は王族が一名、公爵家が一名、侯爵家が五名、伯爵家が八名、子爵家が八名、男爵家が十名、庶民が十八名の計五十一名だ。魔法属性判定を終えたのは三組で今は四組目だから、シャルロッテの番は七組目で合っている。さすが数字に強いお兄様だ。計算が早い。
シャルロッテの魔法属性が変わっていないか気にかかった私は家族に確認をしたいと、昨日からお願いしておいたのだ。
おそらくクリスも王族席から様子を窺っているはずだ。王太子殿下と目が合うのは嫌なので、王族席へ目がいかないように意識する。
ようやくシャルロッテの番がやってきた。彼女は王都で見かけた時より少し背が伸びたようだが、元々幼い顔立ちをしているので、あまり変わったようには見受けられない。だが、魔法属性はどうなのか? 彼女を鑑定してみる。
「レオン、どう?」
「うむ。変わっておらぬ」
鑑定結果は最初に見かけた時と変わらない『無属性(∞)』だ。
「良かったわ。変わっていたら、この場で彼女の心臓を凍らせてしまうところだったもの」
うふふとお母様が笑う。顔に黒い笑みが浮かんでいる。怖いです。メイがお母様に同意するように「あ~う」という。
「彼女の心臓が止まったら、僕が『風魔法』で彼女の首を切るよ」
普段と変わらない爽やかな笑顔のお兄様。変わらないだけに怖い!
「その後はお父様が『火魔法』で彼女を跡形もなく燃やし尽くそう」
そうそう。その後はバレる前に家族と使用人全員で逃亡……って! 違う! うちの家族が怖い! 貴族というか蛮族だ。いつの間にこうなってしまったのだろう?
「それで良いではないか。彦獅朗に頼ってヒノシマ国で皆仲良く暮らせばよい」
私の思考は念話でレオンに筒抜けだったようだ。
「レオンまで何を言っているの? ダメでしょう」
家族を見れば何を言っているというような不思議な顔で私を見ている。メイまで「うあ?」と首を傾げていた。私は思わず頭を抱えてしまう。
何か……ごめんなさいと誰に向けるでもなく、心の中で謝る。私が前世のことをカミングアウトしたせいかもしれない。皆新しい世界を開いてしまったようだ。
だが、前世と同じことをシャルロッテが仕掛けてくるようであれば、私も手加減はしない。今世こそは家族やレオンと穏やかに過ごしたいから……。