5.侯爵令嬢は花の名前を忘れていた
ちょうど旅行に行ってまして、第4話と第5話はスマホで執筆しました。
たぶん、行間がおかしかったり、誤字脱字があるかと思いますので、後ほど改稿します。
リチャード王太子殿下とお兄様の後について、屋敷の中を歩いていく。嫌だったけど、断れば王族に対して不敬になる。我が家の評判を落とすわけにはいかない。
幸い、屋敷の説明などはお兄様が殿下のお相手をしてくれているので、私は後をついていくだけだ。ありがとう、お兄様。そして、早く帰れ。鬼畜王子。
『リオ。顔が不機嫌そうになっておるぞ』
『え? 本当ですか』
心の中で王太子殿下に早く帰れコールをしていたので、無意識に顔が不機嫌になっていたようだ。急いで作り笑いを浮かべる。平常心。平常心。
レオンはずっと私の隣に寄り添っていてくれる。おかげで勇気が湧いてくるのだ。神様が守護してくれているのは、心強い。怖いという気持ちも吹き飛ぶというものだ。
頭の中に声を送る会話方法は、レオンに教えてもらった。念話というそうだ。もちろんレオンと私以外には聴こえない。
「ジークフリートとカトリオナの部屋を見てみたいな」
お兄様の名前はジークフリート・ユーリ・グランドールと言うのだ。
「僕たち兄妹の部屋をですか?」
それにしても、王族といえども初対面なのに、いきなりお部屋拝見ですか? いつもマリーが丁寧に掃除をしてくれるから、部屋は綺麗だけど、プライベートに踏み込まれるのは嫌だな。
「ダメかな?」
青い瞳をキラキラ輝かせて首を傾げる。うっ! 天使のような可愛さだ。精神年齢は17歳なので、お姉さんはクラっときちゃうよ。絶対、好きにはならないけど。
前世は大好きだった綺麗な青い瞳。この瞳に見つめられると嫌とは言えなかった。反則だ。
「ダメではありませんよ。構いません」
お兄様が快く頷く。お兄様ぁ。そこはプライベートはちょっと……とか言葉を濁して断りましょうよ。
「リオも構わないよね」
にっこりとお兄様が微笑む。こちらも天使だ。これは断われない。
「ええ。もちろん構いませんわ」
口元だけで微笑む。天使の微笑には程遠い作り笑いで……。
『…………』
レオン、言いたいことは分かるわ。でも貴族はこんなものなのよ。
* * * * *
まずはお兄様のお部屋探訪だ。
お兄様は読書家だ。将来侯爵家をつぐためにいろいろな勉強をしている。領地経営とかグランドール侯爵領の風土など、難しい本が本棚に所狭しと並んでいる。まだ9歳で遊びたい盛りだと思うのだけど、頑張り屋さんなのだ。
「ジークフリートは勉強家だな。将来いい領主になるだろうね」
リチャード王太子殿下は本棚を見回すと、感嘆の声をあげる。
貴方が家族を断頭台の露にしなければ、お兄様はいい領主になっていたと思います。
どうしても前世のことを思い出してしまう。レオンが寄り添って、守っていてくれるというのに、つい恨み言を言ってしまいそうになる。
『ダメですね、私。本人を目の前にすると、恨み言を口にしてしまいそうになります。彼はまだ子供なのに』
『リオはダメではない。素直な良い娘だ』
『ふふ。ありがとうございます。お世辞でも、レオンに褒められるのは嬉しいです』
私が落ち込まないよう、慰めてくれるレオンの心遣いが嬉しい。
『神は世辞は言わぬ。おまえは自分を過小評価し過ぎだ。もっと自信を持ってよい』
お兄様は王太子殿下に本棚に陳列された本の説明をしている。
「この本棚は種類別に分類しています。例えば、この辺りは経営関係で、あちらは財務関係です。こうしておくと本を探す時に分かりやすいので」
王太子殿下は「なるほど」と感心しながら、本棚を順番に目で追っている。
「王宮の図書館は購入順で並べているので、どこにどんな本があるのか分かりにくいんだ。種類別に並べると分かりやすくていいな。今度提案してみよう」
とても9歳の子供同士の会話とは思えない。そういえば、お兄様も王太子殿下も幼い頃から神童と言われていたわ。
「次はカトリオナの部屋だね」
王太子殿下が私に顔を向け、にっこりと微笑む。その天使の微笑をやめて! 私を断罪した時の鬼畜王子はどこにいった?
* * * * *
私の部屋はお兄様の部屋の隣だ。渋々扉を開けて「どうぞ」と部屋の中にとおす。もちろん顔には作り笑いを貼り付けている。
「女の子らしい可愛い部屋だね」
王太子殿下は部屋の中を見渡すと、顔を輝かせている。
可愛いでしょう? マリーが整えてくれた私の部屋は。マリーはセンスがいいのよ。もっと褒めても構いませんよ。
「カトリオナは花が好きなの?」
机に置いてある植物図鑑に目を留めたらしい。
「ええ。好きですわ」
つい最近までひまわりしか花の名前を知らなかったけど。
「どんな花が好き?」
「可愛い色をした花も好きですが、特にバラが好きですわ」
何せローズガーデンを作ろうとしているからね。
「そうか。バラが好きなんだね」
瞬間――「しまった!」と思った。前世の私は特に花に興味がなかったので、すっかり忘れていたのだが……。
ある記憶がフラッシュバックする。
* * * * *
リチャード王太子殿下との結婚式に使うウェディングブーケの花を選ぶために、殿下と私は城に取り寄せた色とりどりの花を見ていた。
「これはなんという花だ?」
殿下が青みがかった白い花を手に取り、花を取り寄せる手配をした女官長に訊ねる。
「それは新種のバラで『ブルースノーローズ』と申します。殿下」
「カトリオナのイメージに合うな。これをブーケのメインにしよう」
「リックが選んでくれたのですから、それでお願いします」
* * * * *
そういえば、あの花バラって言ってたぁ! それでお願いしちゃダメでしょう。私! 前世の自分に突っ込みをいれる。
『リオは花に対して、無頓着だからな。最近は興味が出てきたようだが』
無意識にレオンに念話を送っていたようだ。
『だって、ブーケと言われてもピンとこなかったんです。まさか花嫁のブーケにひまわりとか言えませんから』
『……本当にひまわりしか知らなかったのか。女性は花が好きなものではないのか?』
一般的な貴族令嬢はそうかもしれない。だが、私は前世では光魔法に磨きをかけることにしか、興味がなかったのだ。それに……。
『将来、王太子妃になることが決まっていましたので、妃教育が大変すぎて、花を愛でる余裕がありませんでした』
『……ひまわりは覚えていて、バラは認識していなかったのか。バラの方が目立つだろう?』
『ひまわりは強い日射しにも負けず、太陽に向かって咲いています。それにひまわりの種は美味しいんです』
『…………』
姿は見えなくても、レオンが呆れ顔をしているのが、なんとなく分かる。
王太子殿下は私の部屋探訪に満足したようで、にこにことしている。何がそんなに面白かったのだろう? 特に男の子の興味をひくものはなかったと思うのだけど。
部屋を出たところで、執事長が私たち3人を迎えに来てくれた。晩餐の用意が整ったらしい。
気が重いなあ。王太子殿下との晩餐なんて。うちの料理長の料理は絶品なのに、美味しく食べられるかな?
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)