4.侯爵令嬢は王太子に出会ってしまった
まさかの日間ランキング1位で、喜びに震えております。カタ:( ;´꒳`;):カタ
ブクマ、評価、感想ありがとうございます。
また、誤字脱字報告もありがとうございます。
すべて適用させていただきました。
読んでくださっている皆様へ感謝します。
咄嗟に近くの木陰に隠れ、座りこんでカタカタと震える私にレオンが寄り添う。
「マリー。お前は先に帰れ。リオが落ち着くまでここにいる。我がついておるゆえ、心配はいらぬ」
「畏まりました。お嬢様をよろしくお願いいたします。レオン様」
マリーはなぜ隠れたのかは問わず、一礼すると屋敷へ戻っていった。
「レ、レオン……わ、私……」
「何も言わずともよい。もふもふしても構わぬぞ。お前が落ち着くのなら」
レオンをギュッと抱きしめた。震えて芯まで冷たくなった体に温もりが伝わる。
「温かい……」
「そうか」
レオンは私が落ち着くまで、黙って身を任せてくれた。ギュッとしていたから、苦しかっただろうに……。優しい神様だ。
「落ち着いたか?」
「はい。レオンのもふもふが温かくて、とても落ち着きました」
「戻れるか?」
戻れば、リチャード王太子殿下と顔合わせをさせられると思う。でも、彼が帰るまで隠れているわけにはいかない。こんな時間に訪れてきたということは、今夜は我が家に泊まることになるだろう。日が暮れても私が戻らなければ、家族が心配する。
「戻ります。正直ついこの間、時が戻ったばかりで彼に会うのはつらいです。でも、こうなった以上、逃げるわけにはいきません」
「大丈夫か? 普通に接することができるのか?」
心配そうに上目遣いで覗き込むレオンが可愛いので、頭を撫でる。レオンは気持ち良さそうに目を細めた。ああ。癒される。
「私は厳しい妃教育を受けてきました。作り笑いは十八番です」
「そうか。リオは強いな。だが、やはり心配だ。王太子と会う時は我も同席しよう」
「でも、王族に挨拶する時には、獣は連れていってはいけないのが、しきたりです」
いかに聖獣と言えども、許しもなく王族に合わせることはできない。貴族同士のお茶会などでは、自慢するために連れてくる時もあるけど。
「心配せずともよい。要するに見えなければいいのだからな」
どういうこと?
* * * * *
屋敷に戻るとマリーがエントランスで待っていてくれた。
「おかえりなさいませ、カトリオナお嬢様。リチャード王太子殿下が当家にご訪問にいらっしゃっております。着替えて応接間に来るようにと旦那様から言いつかっております」
やはり王太子殿下に会うのは避けられないようだ。うん。分かっていた。
「分かりました」
着替えるために、自室に戻る途中、マリーが微笑みかけてくる。
「お嬢様、落ち着かれたようですね。よろしゅうございました」
「レオンのもふもふに癒されたの」
「いいですね。もふもふ」
マリーがレオンの毛をじっと見ると、レオンはビクっとした。
「お前には毎朝ブラシをかけてもらっているからな。時々、もふもふすることを許してやろう」
「まあ、嬉しいです。ありがとうございます。レオン様」
本当に嬉しかったのだろう。マリーは満面の笑みだ。
いきなり震えだした私を見た時のマリーは、明らかに狼狽えていた。いつも笑顔の彼女があんな風になるのは珍しい。だが、理由は聞かずにいてくれた。聞いてはいけないことだと、判断したのだろう。気が利く優秀な侍女に感謝だ。
「マリー。いつか本当のことを話すから待っててくれる?」
マリーはにっこりと笑顔を浮かべると「いつまでもお待ちします」と言ってくれた。
* * * * *
ドレスに着替えて応接間に行くと、家族とリチャード王太子殿下と護衛騎士が私を待っていた。
「カトリオナ。こちらはリチャード王太子殿下だ。ご挨拶を」
知っています、お父様。私を裏切ったひどい人です。
なんて言えるわけもなく、ドレスの裾をつまみ、優雅にカーテシーをする。
「お初にお目にかかります。グランドール侯爵の娘。カトリオナ・ユリエ・グランドールと申します」
会うのは初めてじゃないけどね。
「顔を上げて。カトリオナは何歳なの?」
まだ、変声期前の子供の高い声だ。私を断罪した時の青年の声ではない。
顔を上げると子供のリチャード王太子殿下が無邪気に笑う。殿下はお兄様と同じ年だ。お兄様と並ぶと天使が2人いるようだ。この頃は可愛かったのね。
「はい。リチャード王太子殿下。7歳です」
十八番の作り笑いを浮かべる。子供らしい無邪気な笑顔を見せてやる気はない。
「僕より2歳下なんだね」
「リチャード王太子殿下は兄と同じ年ですのね」
子供の時は天使のように可愛いのに、やがて悪魔になってしまうのよね。
『リオ。先ほどから王太子を貶しているようだが、気のせいか?』
レオンの声が頭に響く。レオンは姿こそ見えないが、私の隣にいるのだ。神様は普通見える存在ではないらしい。だが、私だけではなく、誰にでもレオンが見えているのは、意図的に見えるようにしてくれているからなのだ。
『そのつもりはありませんが、不快でしたら申し訳ありません』
『……不快ではない』
「リオ! 聞いているかい?」
お兄様が何か話していたらしいが、レオンとの会話で気づかなかった。
「お兄様。申し訳ありません。少し考えごとをしておりました」
お兄様は口を尖らせると私の頭を軽くコツンと小突く。
「晩餐の用意ができるまで、僕とリオで殿下に屋敷を案内してさしあげようって言ったんだよ」
え? 挨拶したら晩餐まで部屋にいようと思ったのに!?
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)
土、日は夕方に更新させていただきます。