39.侯爵令嬢はもふ神様の提案に驚愕する
今日はあと1話を18時に更新予定です。
一昨日、レオン達に語ったことと同じ話をする。ただし、メアリーアンのことは隠す。2年後に生まれてくるのだから、楽しみはとっておかないといけない。
私が前世の話をしている最中は、皆静かに聴いてくれていた。語り終えて一同を見渡すと、皆涙を流している。神様サイドと人間サイド両方だ。
レオンとマリー、フレア様とダーク様は一度聞いているにもかかわらず、また泣いている。
「よく……話してくれたね。今までつらかっただろう?」
お父様が顔をくしゃくしゃにして泣いている。美形が台無しだ。
「信じてくれるの?」
「当たり前でしょう! 我が子のことを疑う親がいるわけがないわ。それで王太子殿下が苦手だったのね。ごめんなさい、リオ」
お母様、化粧が崩れています。化粧しなくてもお母様は美人だけれどね。
「僕はリオを守れなかったのだね」
「ジーク様だけではないわ! わたくしもよ。その場にいながら貴女を守れなかったなんて!」
「お兄様……クリス……そんなことはないわ! 2人だけが私を庇ってくれたのよ。卒業パーティーの会場は魔法阻害されていたの」
卒業パーティーの会場は何者かが魔法阻害をしていたのだ。私も2人を助けようと魔法を発動させようとしたが、魔法を使うことができなかった。
「全く、俺の弟子は不甲斐ない。これからはビシビシいくからな」
「師匠が悪いからだよ。前世の彦獅朗はいい加減だったのだろう」
ライル様とトージューローさんは壁に顔を向けている。肩が震えているから、泣き顔を隠しているのかもしれない。
「フレアが手抜きしたからいけないのよ。神が直接魔法を授けた人間には、魔法阻害は効かないとリオに説明しなかったでしょう? リオが認識していなければ、魔法阻害を跳ね返すことができないのよ」
ローラ様の意外な言葉を聞き逃さなかった。神様に直接魔法を授けてもらった人間には、魔法阻害が効かないのか。
「わたくしがいけないのじゃ! すまなかったのじゃ! リオ!」
確かに今世でも魔法阻害を跳ね返す方法は教わっていないが、レオンも教えてくれなかったので、レオンも同罪だ。
「フレア様のせいではありません。どうか泣き止んでくださいませ」
ハンカチをフレア様に差し出す。受け取ろうとするフレア様からローラ様がハンカチを取り上げる。
「何をするのじゃ! ローラ!」
ローラ様がハンカチの刺繍をじっと見ている。
「この刺繍はリオがしたのかしら? 腕をあげたわね」
私はローラ様から刺繍を学んでいた。センスが皆無だった刺繍の腕が上がったのだ。ローラ様が丁寧に教えてくれたおかげだと思う。
「はい。ローラ様のおかげです」
「今までどおりローラでいいわよ。共同研究者ではないの」
にっこりと妖艶な笑顔を浮かべる。
「しかし……神様なのでしょう?」
「いいのよ。貴女にはローラと呼んでもらいたいの」
「分かりました。ローラ」
執事長とマリーから何やら怪しげな会話が聞こえてくる。
「マリー、おまえはキャンベル男爵家に行って令嬢を毒殺するのだ。私は王太子殿下を毒殺してくる」
「分かりました。お父様」
「執事長! マリー! ダメよ!」
先ほどまで泣き顔だったのに、暗殺者の顔になっている!?
「今のうちに元凶を消しておけば、お嬢様は今後穏やかに暮らすことができるのです」
「まあ、待て。そのために我ら神が顕現したのだ」
レオンが止めてくれた。でも、どういうことかしら?
「リオ、シャルロッテを鑑定したか?」
「ええ。結果は『無属性』だったけれど、なぜか変な記号がついていたわ」
(∞)と紙に書いて見せる。
「リオも鑑定眼を持っているの?」
「いいえ。このブレスレットのおかげなの」
フレア様から贈り物としていただいたとクリスに説明する。
「わたくしも鑑定できるといいのだけれど」
「お前は『探知』スキルを持っているだろう?」
レオンの言葉に反応したのは、トージューローさんだった。
「なんだ。クリス姫さんは『探知』スキル持ちなのか。だったら触覚から視覚にスキルを移動すれば鑑定できるぞ」
「どうやってやるのよ? そんな器用なこと」
呼び方がお嬢ちゃんから姫さんに変わっている。
「食べ放題パスポートをもらったし、特別に教えてやるよ」
「え! 本当? 貴方も『鑑定』か『探知』スキル持ちなの?」
「俺は味覚が発達しているんだ。『食通』という」
だから、甘いもの好きなのかしら? 食物に関してはこだわりがありそうだもの。
「話を続けるぞ。その記号は『禁断魔法』を意味するものだ」
「『禁断魔法』って何?」
再びレオンの話が始まると、聞いたこともない魔法の名前が出てくる。『禁断魔法』はロストマジックで、名のとおり禁じられた魔法だそうだ。今は失われたので、持っているものはいないが、遥か昔は『禁断魔法』を持つものがはびこり、この世界を暗黒時代に変えてしまった。怒った創世の神が『禁断魔法』を無効化して絶えたという。
「ロストマジックだが、シャルロッテが持っているのは厄介な魔法なのだ。身につけた一族に遺伝する。ただし『無属性』の者に限るがな」
「シャルロッテの先祖が『禁断魔法』を持っていたということ?」
「そうだ。『禁断魔法』の中でも邪悪な魔法で『略奪魔法』という」
『略奪魔法』は遺伝したものだけに使える魔法で、気に入った魔法を持ち主から略奪して、自分のものにしてしまうという。それが本当なら前世でシャルロッテは元々『無属性』で誰かから『光魔法』を奪ったということになる。
「それだけではない。『魔性の魅惑』というスキルも持っている。異性にしか使えないものだ」
人の心をひきつけ、理性を失わせてしまうスキルだ。
「しかし、リオの話を聞く限り、僕にはそのスキルは通じていなかったことになります」
確かにお兄様は王太子殿下やご友人たちとは違って、シャルロッテには目もくれなかった。
「それは桐十院の小童がジークに秘術を授けたか、グランドール家に流れる桐十院家の血が阻んだのだろう」
「え! 我が家とトージューロー様は親戚なの?」
レオンがトージューローさんに目を向ける。
「お主は知っておるのではないか?」
「ああ。うちのご先祖が遥か昔に大陸に渡って、グランドール家のお姫様と結婚したとかなんとか、じいさんから聞いた」
なんですと!? まさかのヒノシマグニとのつながりが判明した!
「トージューロー様の家の血が阻んだってどういうことなの?」
「桐十院家はヒノシマ国の国主なのだ。神の一族と伝えられている。邪悪な者の力を阻む秘術を持っているのだ」
「トージューローはヒノシマグニの王子ってことなの? 全然見えないわ」
クリスがトージューローさんを指差して失礼なことを言っている。
「悪かったな。俺は四男坊だから自由なんだよ。クリス姫さんも姫らしくないから、お互い様だ」
お互いにふんと顔を背けている。
「シャルロッテが『無属性』のまま何もしないで一生を過ごせばよいが、前世と同じことを繰り返せば、我ら神は黙っているわけにはいかぬ」
「『禁断魔法』は絶やさねばならぬのじゃ。だが、神が人間を殺すことは禁じられておるのじゃ」
そのわりにはこの間、殺る気満々でしたよね。皆様。
「そこで提案がある。神と人間の力を合わせて悲劇を回避するのだ」
レオンに全員の視線が集まる。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)