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32.侯爵令嬢は前世の話をもふ神様と侍女に語る(前編)

前世の話は暗いです。


長くなるので、前中後編に分けます。


ところどころ今世に戻さないとメンタルがやられそうです(汗)

 15歳になった私は社交界デビューをした。デビュタントは王宮舞踏会で、エスコート役は当然婚約者であるリチャード王太子殿下だ。


「今日の君は特別に美しいな。リオ」


「ありがとう。リックも素敵よ」


 最初のダンスを王太子殿下と踊っていると、周りが羨望の眼差しで私たちを見守っている。少し緊張気味の私は練習の時のようにかろやかに舞うことができない。王太子殿下はお兄様と同じくらいダンスのリードが上手いので、失敗せずにすんだのは幸いだ。


 1曲目を踊り終わると、喉が渇いたので飲み物を取りにいってくると、王太子殿下に断わりを入れる。彼は笑顔で頷いてくれた。


「リックの分も飲み物をもらっていきましょう」


 飲み物を2つ持って、急いで戻ろうとすると、会場がざわっとする。何事かと広間の中央を見ると、王太子殿下とシャルロッテがダンスをしていた。


「あのご令嬢はどなたなのでしょう?」


「キャンベル男爵家のシャルロッテ嬢ですわ。先日『光魔法』を授かったという……」


「カトリオナ様と比べると華やかさに欠けますけれど、愛らしい方ですわね」


「『光魔法』の保持者となりますと、王家が放っておかないのではないでしょうか?」


 貴婦人たちの噂話を聞きながら、王太子殿下とシャルロッテを見ると、2人は互いに熱い眼差しで見つめ合ってダンスをしている。私とダンスをしている時はあんな眼差しを向けてはくれなかった。


 いたたまれなくなって、広間を抜け出しバルコニーに出る。しばらく風にあたっていたかった。


「リオ、1人でバルコニーにいると危ないわよ。どこかのバカ者が貴女を狙ってくるかもしれないのだから」


「……クリス。でも、広間にいたくなかったから……」


 クリスもシャルロッテも同じ15歳なので、デビュタントしたのだ。


「お兄様のせいね。婚約者を放って別の女と踊るなんて……王太子のくせに男の風上にもおけないわね。わたくしが男で婚約者だったら、リオを放っておくなんてあり得ないわ」


 くすっと微笑む。


「そうね。クリスが殿方だったら格好良かったでしょうね。令嬢方にモテると思うわ」


「ふふ。わたくしと踊る? 実は男のパートも踊れるのよ」


「あら。私も踊れるわよ。お兄様とダンスの練習をしている時に殿方のステップも覚えたの」


 互いに顔を見ると、アハハハと笑い合う。


「ありがとう、クリス。広間に戻るわ」


「バカ兄にはわたくしから注意しておくわ」


「……バカ兄って……」


「シャルロッテ嬢に関わってから、兄は愚か者になったわ」


 ぼそっと呟いたクリスは残念そうに王太子殿下の方を見つめた。愚か者? そうかしら? 私にはそうは見えないけど……。



「と思った当時の私を殴りたい!」


 拳を握りしめる。恋は盲目とはよく言ったものだ。当時の私はなんのかんので王太子殿下に恋をしていたのだろう。今世はなんとも思っていないけれどね。


「カスだとは思いましたけれど、バカでもあったのですね。これからはバカス王太子とお呼びいたしましょう」


「それは良いネーミングだ」


 バカとカスを略してバカス王太子って……。マリー、毒を吐きすぎよ。不謹慎にも良いネーミングセンスだと思ってしまったわ。


「クリスティーナ王女殿下は前世でもお嬢様の良いご友人だったのですね。本当にバカス王太子とご兄妹なのですか?」


「同父母の兄妹よ。顔立ちは似ているでしょう?」


「だが、魂の輝きはまるで違うぞ」


 人間の魂の輝きってどんな感じなのかしら? 神様にしか見えないらしいから、形容してもらっても分からないのだろうな。


「どう違うの?」


「王女の小娘の魂の輝きは強い。あれは王者になるために生まれてきたようなものだ」


 我が国は女性にも王位継承権がある。王太子殿下に何かあれば、クリスが王位継承権第1位となるのだ。


「王太子の小僧が今のまま王になれば、平凡な治世になるだろうが、リオの話を聞いていると愚王になりそうだ」


「フィンダリア王国の未来は暗いですね。今のうちにご一家で隣国に亡命いたしますか?」


「……それは王太子殿下の婚約者に選ばれてしまった時の最終手段にしましょう」



 さらに先を語り始める。


 それからというもの、貴族の夜会に王太子殿下は私ではなく、シャルロッテのエスコートを優先するようになった。クリスやお兄様が諫めてもどこふく風だ。


 私はいつ婚約破棄をされてもいいように、覚悟をすることにした。貴族令嬢が婚約破棄されると傷物とみなされるので、次の婚約者が見つかるかは分からない。見つかったとしても良い縁組はなかなかない。年配の貴族の後妻におさまるか富裕層の庶民に嫁ぐか、もしくは修道院に入るかだ。


 家族は婚約破棄をされたら、そのまま領にとどまればいいと言ってくれた。クリスは公爵位を賜わるつもりだから、自分についてくればいいと誘ってくれた。


 王太子殿下は婚約破棄を申し出てこないまま、卒業パーティーを迎えた。


 卒業パーティーにも王太子殿下は私のエスコートはできないと前もって断ってきた。仕方がないので、お兄様にエスコートをお願いすることにしたのだ。


 王太子殿下は案の定、シャルロッテをエスコートしてきた。これは婚約破棄は確定だと思った。


 事件はその時に起きた。


 シャルロッテを狙って、何者かがパーティー会場に暗殺者を送り込んだのだ。間一髪で暗殺者は捕らえられたので、事無きをえた。


 ところが暗殺者はとんでもない自白をしたのだ。私に命じられてシャルロッテを暗殺しようとしたのだと……。


「カトリオナ! 其方はシャルロッテを殺そうとしていたそうだな。ここにいる暗殺者が真実を吐いたぞ」


 リオと愛称では呼ばす、フルネームで私を断罪しようとする王太子殿下に失望した。


「そのような事実はございません! 私はそこの暗殺者など知りませんし、シャルロッテ様を殺そうなどと、そのような恐ろしいことは考えたこともございません!」


 必死に弁明をした。本当にシャルロッテを殺そうなどとは露ほどにも思ってはいなかった。それどころか王太子殿下に婚約破棄を申し渡されたら、2人を祝福しようと思っていたのだ。


「ちょうど良い。もう少し先に申し渡すつもりだったが、この場で其方との婚約破棄を宣言する! そして、私はシャルロッテ・キャンベル嬢と婚約をする」


「婚約破棄はお受けいたします。ですがシャルロッテ様を殺そうとしたのは私ではありません。それだけは信じてくださいませ!」


 かっとなり、私に殴りかかろうとする王太子殿下の前に2つの影が立ちはだかる。


「王太子殿下! 妹はそのような恐ろしいことを企むような娘ではございません! あくまで妹を疑うのであれば、グランドール侯爵家の名において正式に裁判を起こします!」


「お兄様にはリオが暗殺者を雇うような恐ろしい娘に見えるのですか? わたくしはリオを信じております! お兄様がリオを断罪する気なのであれば、わたくしにも考えがございます!」


「お兄様……クリス……」


 2人が庇ってくれたのが嬉しくて涙が零れ落ちる。


「黙れ! 衛兵。この女を裁判まで地下牢に閉じ込めておけ。拷問しても構わん! 自白させろ!」


「妹には手出しをさせない!」


 お兄様が剣を抜刀するが、多くの衛兵に囲まれる。


「お兄様! いい加減になさいませ!」


 クリスが魔力を込めるが、魔法障壁に阻まれる。このままだと2人まで巻き込んでしまう。


「お待ちくださいませ! お願いです。私の話を聞いてください。リック。いえ。リチャード王太子殿下!」


「ジークは捕縛して牢につなげ! クリスは魔法障壁のある部屋に閉じ込めろ!」


 王太子殿下は蔑むような冷たい視線で私を見やると、ふいと顔を背け、衛兵に私を捕縛させる。


「申し開きは裁判でするが良い。連れていけ」


「いやあぁぁぁぁ! お兄様! クリス!」


 衛兵に引きずられながら、2人を呼ぶ。「リオ!」と2人が叫ぶ声はやがて遠のいていった。


まだ続きます。



ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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