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31.侯爵令嬢は前世の宿敵と再会してしまう

昨日、更新できませんでしたので、本日もう1話更新します。

 今まさに『サンドリヨン』に入って行こうとしている人物はキャンベル男爵家の令嬢であるシャルロッテだ。


 亜麻色の髪に茶色の瞳の愛くるしい顔立ちのシャルロッテは、前世で私を陥れ、王太子殿下の婚約者の座から追いやった張本人だ。


 処刑台から見た彼女の顔が忘れられない。王太子殿下の陰に隠れて、愛くるしい顔を醜くゆがめ、嘲りの笑みを浮かべていたあの顔を……。


 遠目からでも魔法属性が鑑定できるフレア様のブレスレットでシャルロッテを見ると『無属性(∞)』という鑑定結果が出た。


 やはり『無属性』なのね。隣の(∞)って何かしら?


「どうかされましたか?」


「気分でも悪いのか? 顔色が悪いぞ」


 急に足を止めた私をレオンとマリーが、心配そうに見つめている。


「……シャルロッテ」


「え?」


「今……『サンドリヨン』に……入って行った人……シャルロッテなの」


「何だと!?」




 その後は『サンドリヨン』には行かず、タウンハウスへ帰ってきた。


 レオンとマリーが言うには、今にも倒れてしまいそうな様子だったらしい。マリーが『サンドリヨン』とは反対側の街道で辻馬車を見つけ、急いで連れ帰ってきてくれたのだ。


「さあ、お嬢様。ハーブティーを召し上がってくださいませ。気分が落ち着きますよ」


「……ありがとう、マリー。心配かけてごめんなさい。レオンもありがとう」


 ハーブティーを一口飲むと少しほっとした。


「礼には及ばぬ。我らはリオが大切なのだ。当たり前のことをしたまでだ」


 私の横に寄り添ってくれているレオンを撫でる。もふもふに癒される。


「それにしてもあれが私のお嬢様を陥れた張本人なのですね。大したことありませんね。お嬢様の方が何倍も可愛らしいです」


 力説するマリーがおかしくて、クスっと笑う。そういえばマリーは執事長が爵位を捨てなければ、伯爵令嬢だからシャルロッテより格上だ。端正な顔立ちの執事長に似ているマリーの方が、ずっと美人よ。


「お嬢様がやっと笑ってくださいましたわ」


 きゃっと飛び跳ねるマリー。仕草が可愛すぎる。


「リオ……つらいかもしれぬが話せ。我はあの小娘の名前とリオを陥れた人間ということしか知らぬ」


「つらいことは吐き出してしまうと楽になりますよ」


 気分もだいぶ落ち着いてきた。意を決して2人に話をすることにする。


「長い話になるわ。マリーも座って聞いてちょうだい」


 こくと頷くとマリーは対面のソファに座る。



 前世の魔法学院時代まで話は遡る。


 13歳で魔法学院に入学した私は王都のタウンハウスから学院に通っていた。魔法学院は4年制だ。庶民から王侯貴族まで広く門が開かれている。


 学院はタウンハウスから近かったので、お兄様と毎日歩いて通ったものだ。


 学院内では常にクリスと数人の仲の良かった令嬢と行動をともにしていた。クリスと私は特進と呼ばれるSクラスで4年間同じクラスだったのだ。


 Sクラスは私のように『光魔法』という特殊な魔法を使える者や、クリスのように2属性以上の魔法を使える者を集めたいわゆるエリートクラスだった。


 今思うと、シャルロッテは『無属性』だったので、Bクラスだったのだな。魔力の弱い者や『無属性』の者が入るクラスだ。


 魔法学院は実力重視なので、途中で魔力がアップしたり、魔法属性が現れた場合はクラス替えされるシステムになっている。


 私はクラスが違うので、シャルロッテの事をよく知らなかった。彼女は『無属性』ということで、格上の貴族令嬢たちからよく嫌がらせをされていたようだ。


 嫌がらせからシャルロッテを庇っていたのが、王太子殿下だ。王太子殿下と親しかったお兄様は彼と行動をともにしていたのだ。これはお兄様から聞いた話なのだが、ある日中庭の見えにくい木陰で泣いているシャルロッテを見つけたそうだ。


 事情を聴くと数人の貴族令嬢から嫌がらせを受けていて、こっそりと木陰で泣いていたとのことだった。


 それからシャルロッテが嫌がらせを受ける度に王太子殿下は、嫌がらせをした令嬢たちを厳しく注意していたそうだ。自然と王太子殿下とシャルロッテの距離は縮まり、行動をともにするようになった。


 お兄様は私という婚約者がいるのにまずいのでは? と諫めたそうだが、「弱い者を助けるのは王族の務めだ」と耳を貸さなかったらしい。当時の私は学年が違うこともあり、学院内で王太子殿下と行動をともにすることはなかったので、特に気にはならなかった。


 週末には王宮へ登城して、妃教育の後、王太子殿下とお茶をする。婚約者と言っても接点はその程度だった。何よりクリスと遊ぶ方が楽しかった。ただ、将来を語る時に輝く青い瞳は好きだった。


 王太子殿下の親しい友人たちもシャルロッテの庇護欲をそそる愛くるしさに、彼女をちやほやするようになった。

 

 そして15歳になった時に、ついにシャルロッテに魔法属性が現れた。私と同じ『光魔法』だ。魔法判定玉を使って判定すると金色に輝いたとのことだった。シャルロッテの魔法判定に立ち会ったお兄様曰く。私と比べると金色の光は小さかったそうだ。


 シャルロッテは15歳の誕生日に光の神が自分の前に現れ、自ら魔法を授けてくれたのだとうそぶいた。神自ら魔法を授けるのはなかなかないことだ。皆シャルロッテを特別視するようになる。


 当然、シャルロッテはSクラスにクラス替えされ、3年生から2年間彼女と同じクラスで過ごすことになる。これが断頭台への道を辿る第一歩だとは思いもしなかった。


 そこまで語ったところでレオンが苦々しい顔をすると、不機嫌そうに口を開く。


「神自ら魔法を授けるのは、リオのように魂が美しい人間か、マリーのように神に気に入られた人間のみだ。あのシャルロッテとかいう小娘の魂は濁っている。フレアがいかに阿呆でも、あのような魂を持った人間に魔法を授けるわけがなかろう」


 フレア様を阿呆って……。フレア様は可愛い神様だと思うけどな。


「シャルロッテが嘘をついたということ?」


「十中八九嘘だ。ただ『光魔法』を手に入れた経緯が分からぬ」


 フレア様が自ら授けたのではないとすると、シャルロッテはどうやって『光魔法』を手に入れたのかしら?


「シャルロッテの『光魔法』はその……大した威力ではなかったけど、確かに光属性だったわ」


「ろうそくの灯火くらいの光しか出せない程度ではないのですか?」


 黙って聞いていたマリーが口を開く。貼り付けた笑みが黒い。これは静かに怒っているわね。


「喉がお渇きになられませんか? 果実水を用意してまいりますので、しばらくお待ちください」


 すっとマリーはソファから立ち上がると部屋を出て行った。そういえば、語っているうちに喉が渇いたわね。淹れてもらったハーブティーは飲んでしまった。


「リオ。前世の話は語っていてつらいか?」


 レオンがすっと膝に手を置く。気を使ってくれているのね。その仕草は可愛いだけよ。レオンの手をとると肉球をぷにぷにする。ああ。癒される。


「心配してくれているのね。ありがとう。大丈夫よ。レオンとマリーにはぜひ聞いてほしいわ」


「うむ。つらくなったら泣いても構わぬぞ。全力で慰める」


 全力で慰める? あんなもふもふやこんなもふもふをしていいってこと? それはそれで癒されるわね。


 想像しながら、にやにやしていたらマリーが果実水を入れたピッチャーとグラス2つとレオン用の浅いお皿を持って部屋に戻ってきた。


「お嬢様、何か良いことがございましたか? 嬉しそうですよ」


「レオンが全力で慰めてくれるっていうから」


 果実水をグラスにつぎながら、まあとマリーがちらっとレオンを見やる。


「……分かった。リオを慰める時はマリーも一緒だ」


「嬉しゅうございます。ありがとうございます。レオン様」


 つまりマリーに抱きしめてもらいながら、レオンをもふっていいということでいいかしら?


「楽しみね」


「はい。楽しみです」


「……そうか。良かったな」


 果実水で喉を潤すと私は再び語り始める。

ついにシャルロッテのことが明らかになっていきます。


ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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