閑話・王太子の思惑2
リチャード王太子視点です。
僕、リチャード・アレン・ヴィン・フィンダリアは10歳になった。ついに魔法属性判定の年を迎えたのだ。
明日は待ちに待った魔法属性判定の日だ。その後は魔法属性判定を迎えた貴族の子息令嬢を招いて、王宮でお茶会を開く。招待状はあらかじめ出しておいた。
グランドール侯爵家の兄妹もお茶会に招いた。まだ10歳になっていないカトリオナも招待したので、僕の妹クリスティーナも参加させる。妹のクリスはカトリオナと同じ年だ。同じ年頃の子供がいれば、カトリオナも気兼ねしなくていいだろう。
クリスは同父母の妹だが、こいつが生意気なのだ。小さな頃は「お兄様と一緒にお勉強をしたいの」と言って、僕の後をついて回って可愛かったのに。いつの頃からかクリスの方が秀でた才能を開花させたのだ。勉学も魔力も……。
僕は『鑑定眼』を持っているので、クリスを鑑定すると「魔法属性:土・風」という結果が出た。僕と同じで二属性の魔力を持っているのか。クリスに鑑定結果を教えてやる。
「お前には土いじりがお似合いだ」
少しからかってみる。泣くかな? と思いきや、にこりとクリスは微笑んだ。
「それはよかったわ。わたくし最近土いじりが好きなのよ。遠い東の国から献上された植物を育て始めたの。土属性の魔法が使えるのなら、植物がよく育つわ。教えてくれてありがとう。お兄様」
皮肉を言ったつもりなのに、お礼を言われるとは思ってもみなかった。
遠い東の国から献上されたっていうのは、何の植物か分からない種だよな。薬学に秀でた国らしいけれど、変な植物だったらどうする気だろう?
魔法属性判定の日、僕の名前は一番に呼ばれた。
魔法判定玉に手をかざし、魔力を通すと火属性の赤と風属性の青の2色が現れる。特に火属性の赤は燃えあがるように一際鮮やかに輝いていた。自分の属性は知っていたが、火属性の方が強かったのか。
ちらっとグランドール侯爵家のバルコニー席を見ると、カトリオナが拍手をしてくれていた。半年前に出会った時よりきれいになったようだ。女の子の成長は早いらしい。
僕の次はグランドール侯爵家の嫡男ジークフリートだった。彼は強力な風属性だな。魔法判定玉が鮮やかな青に輝いていた。将来は魔法院か騎士団入りができそうだ。
後の魔法属性判定も一通り見たが、やはり『光魔法』を持つ令嬢はいなかった。今年もはずれか……。
王宮のお茶会の席は妹クリスとグランドール侯爵家の兄妹と一緒にしてもらった。
カトリオナは緊張しているのか下を向いていたので、挨拶は兄のジークフリートとかわした。
今日のカトリオナは白銀の髪が輝いて、青い可愛いデザインのドレスがよく似合っている。にこりと僕が微笑むと、白い肌の頬に薄く紅色が浮かぶ。可愛いなあ。彼女が『光魔法』を持つ令嬢だといいのにな。
試しにカトリオナを鑑定してみると「魔法属性:土属性の植物魔法」という結果が出た。半年前と変わっていない。残念だ。
この先『光魔法』を持つ令嬢が現れなかったら、彼女を婚約者候補として考えようか。名門侯爵家の令嬢だし、宰相の姪でもある。家柄は申し分ない。
それはそうと、グランドール侯爵家の兄妹とは、この先仲良くしておきたい。
「堅苦しいから、僕のことはリックと呼んでほしいな。ジークフリートのことは、ジークと呼んでいいかな?」
「もちろんです。殿下のことは公の場以外では、お名前で呼ばせていただきます」
愛称で呼び合うことを提案する。ジークは快く承諾してくれた。
「うん。カトリオナのことはリオって呼んでもいいかな?」
あれ? カトリオナは迷っているみたいだ。もしかして愛称で呼ばれるのが嫌なのかな?
「お兄様。あまり無理を言ってはいけませんわ。カトリオナ嬢が困っています」
もう一押しと言葉を発しようとすると、クリスが制止する。
「ひどいな、クリス。名前を愛称で呼んでもいいか聞いているだけだよ」
「王族が同意を求めるという意味の重さがお分かりになりませんか?」
王太子の僕にそれを問うのか? 確かに王族が同意を求めるということは、臣下には重いのだろうが……。
「あ……あの! ケイトはいかがでしょうか? 私のカトリオナという名前の綴りは、ケイトリンとも読めるのです」
カトリオナが戸惑いながら、提案をしてきた。必死な様子が可愛くて、庇護欲をそそられる。ケイトもいいけれど、僕はリオと呼びたい。
突然、クリスが立ち上がるとリオをお茶会の席から連れ出してしまった。あいつめ。後で覚えていろ。
僕はリオと話せない寂しさを隠して、ジークと歓談した。
帰り際には用意していたバラの花束をリオに贈ろう。
グランドール侯爵家の馬車が出発する前に、リオにバラの花束を渡すと、バラは好きだから嬉しいと言ってくれた。残念ながら愛称では呼んでくれなかったけれど……。
よし! 明後日はグランドール侯爵家のタウンハウスを訪れることにしよう。今度こそリオとたくさん話をするんだ。
と思ったのに、クリスももれなくグランドール侯爵家のタウンハウス訪問についてきた。
「お兄様ばかりずるいわ! わたくしもリオとお話したいわ。同じ年のお友達は初めてなの」
押し切られて、仕方なく連れてきた。クリスとカトリオナの話に、僕も割り込めばいいことだ。
グランドール侯爵家のエントランスに入ると家族総出で出迎えてくれた。正面には僕が贈ったバラが飾られている。リオは自室に飾らなかったのか。
「大変美しいバラでしたので、皆にも見てもらいたくて、私がお願いしましたの」
そうだったのか。リオは優しいな。
ささやかなお茶会の場を設けてくれたので、素直に受けることにする。グランドール侯爵夫人の采配は趣味がいいと社交界では評判だ。
案内されたテラスは、庭が見渡せるさわやかな風と温かい日差しがあたる気持ちのいいところだった。
用意された紅茶とお菓子も美味しい。クリスには味オンチとバカにされたが、美味しいことくらいは分かる。
2年後のクリスとリオの魔法属性判定の時が楽しみだと告げたら、クリスが余計なことを言い出した。
「もったいつけなくてもよろしいのよ、お兄様。お兄様は『鑑定眼』持ちではないの。わたくしを鑑定したように、リオの属性も鑑定して差し上げたらいかがかしら?」
思わす紅茶を吹き出しそうになる。
「王太子殿下は『鑑定眼』をお持ちなのですか? それはすごいですね。娘の属性を鑑定してはいただけないでしょうか?」
グランドール侯爵まで期待の眼差しで僕を見てくる。
「それは……魔法属性判定まで楽しみにとっておいた方がいいと思います」
ここで鑑定をしてしまったら、楽しみがなくなるだろう。それに2年後には魔法属性が変わるかもしれない。稀だけれど、そういうケースもあるのだ。
「まあ! 王太子殿下は『鑑定眼』をお持ちですの? それはぜひ鑑定していただきたいですわ」
リオにもお願いをされるが、ここは断らないと……。
「いや……だが……」
「ダメですか?」
うっ! リオのお願いポーズが可愛い。これは断れないではないか!
「……分かった。1回だけだからね」
じっとリオを見つめる。やはり鑑定結果は「魔法属性:土属性の植物魔法」だった。リオに告げるとがっかりするだろうと思いきや、最近植物に興味が出たので嬉しいという。
そうか。嬉しいのか。クリスも自分が土属性の魔力持ちだから、魔法学院に入学したら一緒に研究したいと言い出す。
その研究とやらに僕も入れてもらおうか。今から植物の勉強でもしておくか……。
その後、2人は中座してリオの部屋に行ってしまった。ずるいぞ。クリス! 僕もリオの部屋に行きたかった。紳士として失格かもしれないが……。
僕はリオに惹かれている。認めざるを得ない。『光魔法』を持つ令嬢が現れなけばいいと思った。そうすれば、リオを婚約者にできる。2年後、彼女の魔法属性が『光魔法』に変わればいいとも思った。そうしたら、すぐにでも婚約を申し込もう。
クリスの魔法属性の(雷)がリチャードには見えません。脱字ではありませんので追記します。
(雷)が見えるのは神様の眼と神具を持つリオだけです。
次は本編に戻ります。
明日は夕方~夜の更新になるかと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)




