27.侯爵令嬢は親友から素敵な贈り物を受け取る
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タウンハウスに帰ってくると、気が緩んだのか力がどっと抜けた。
クリスとお話しながら、軽食とお菓子をたくさん食べたので、晩餐はいらないと告げて、早々に自室へ戻った。王太子殿下にいただいたバラは、エントランスに飾ってねとタウンハウスを管理する執事に渡した。
「疲れた!」
ドレスを着たまま、ベッドに倒れこむようにダイブする。
「お嬢様。ドレスを脱がないとしわになってしまいますわ」
マリーに促されてベッドから起き上がると、ドレスを脱がしてもらう。部屋着に着替えてソファに座ると、脱力感に襲われたのでクッションにもたれかかる。
「今日はお疲れ様でした。お嬢様。気分が落ち着くように、カモミールティーを淹れてまいりますね」
ドレスと髪飾りを浄化魔法で新品同様に綺麗にしてから、ケースに納めるとマリーは私の部屋から退室した。
「頑張ったな、リオ」
今まで姿を消していたレオンが小さな獣の姿で現れると、労いの言葉をかけてくれる。
「もふもふを補充!」
レオンを抱き上げると毛並みをもふもふする。1日1もふもふは欠かせない。1もふもふどころではないけれど……。ああ、癒される。
「存分にもふもふするが良い」
「今日はありがとう、レオン」
もふもふされるがままのレオンは首を傾げる。
「なんだ? あらたまって」
「レオンがいてくれたから、勇気が出たの。クリスとも友達になれたわ」
尻尾がゆらゆら揺れる。
「リオは我の眷属だ。これからもずっと一緒だ」
「うん!」
レオンがいてくれれば、なんでもできる気がする。何も怖くない。
その夜は疲れたので、湯浴みの後、気を失うように寝てしまった。
* * * * *
翌日、午後になる少し前に王宮からの使者がタウンハウスに訪れた。どうやらクリスが昨日届けると言っていた物らしい。執事にはお父様から話がいっていたようで、使者が訪れた時に自室まで呼びに来てくれた。
ちなみに両親はせっかく王都に来たからと、2人でデートに行ってしまった。お兄様は王都に親しいご友人がいるらしく、泊まりで遊びに行っている。特に予定がない私は自室で本を読んでくつろいでいたのだ。
急いでエントランスに降りていくと、使者が包みを抱えて待っていてくれた。私の姿を認めると一礼する。
「クリスティーナ王女殿下よりカトリオナ嬢への贈り物を預かってまいりました」
どうぞと私の目線に合わせて、膝を折り、包みを渡してくれた。包みは本と同じくらいの大きさだ。
「ご苦労様でした。クリスティーナ王女殿下によろしくお伝えくださいませ」
「畏まりました。それでは失礼いたします」
扉から出る前に人懐っこい笑顔を浮かべ、一礼すると馬車に乗り込んだ。人の良さそうな使者だったな。クリスの従者かしら?
自室に戻り、ソファに座ると包みを開ける。中身は封蝋に使用するシーリングスタンプと、いくつかの植物の種が入った袋と、温室の植物に関するレポートをまとめた手書きの本が入っていた。
手紙もあったので、封筒を開けるとクリスの直筆で文がしたためてあった。
『親愛なるカトリオナへ。昨日話していた検閲されない方法の道具を贈ります。見てのとおりシーリングスタンプなのだけれど、実は魔道具なの。試しに使ってみた結果、なぜか検閲されることなく宛先に届くのよ。便利でしょ? 自分で使うことはないと思っていたけれど、役に立ちそうでよかったわ』
「検閲されないシーリングスタンプ? どういうこと?」
フレア様のブレスレットをつけて、鑑定をしてみると『検閲済と認識されるシーリングスタンプ』という結果が出た。
「この魔道具には『認識変換』の魔法が使われているな。昔の魔道具職人が作ったもののようだ」
クリスからの手紙を、私の膝の上で一緒に読んでいたレオンが、より詳しく説明してくれる。国情が落ち着いていない時代に、秘密の文書を届けるため、このシーリングスタンプを押して手紙のやり取りをしていたのだそうだ。
神様の眼ってすごいのね。作った年代や目的まで分かるなんて……。
手元の手紙に視線を落とすと、続きを読む。
『それと約束していた種とわたくしが育てた植物の記録を同封します。貴女の研究の役に立つことを願って。貴女の親友クリスティーナより』
思わずクリスの手紙を抱きしめてしまった。手紙を一緒に読んでいたレオンと一緒にぎゅっと……。
「ありがとう、クリス」
前世と変わらない親友に感謝する。レオンは隙間からちょこんと顔を出すと、目を細めて笑う。
「良い友達ができたな」
「うん!」
クリスへお返事を書こう! 早速このシーリングスタンプを使うんだ。
* * * * *
王宮からの手紙はもう1通あった。クリスの包みだけ受け取って、早々に自室に引き上げてしまったので、使者が執事に渡していたもう1通の手紙には無関心だったのだ。
「リチャード王太子殿下が明日我が家に来るそうだよ」
晩餐でお父様から聞いた言葉に凍り付いた。
「まあ大変! 急いでお迎えの準備をしなくてはいけませんわね」
お母様が慌てて、最高級の茶葉はあったかしら? どんなお菓子を用意しましょうか? と執事と相談をし始める。
「短時間の訪問だそうだから、構わなくてもいいそうだ」
「そうは言いましても、王族がいらっしゃるのですよ。ささやかでいて、最高のおもてなしをしなくてはなりません!」
ささやかでいて、最高ってどんなおもてなし? って思うでしょう? お母様はそういうことに長けているのだ。侯爵夫人としての采配は貴族の中でも評判がいい。
それにしても、連絡しろと釘は刺しておいたけれど、こんなに早く来るとは思わなかった。
「王太子殿下はリオを気に入っていたようですし、まさか婚約の申し込みではありませんわよね?」
「それはないだろう。婚約の申し込みならば、正式に王家から打診があるはずだ」
もしも、そうだったならば、絶対に逃げてやろうと思う。私の緊張が伝わったのかお父様がふっと顔を緩める。
「大丈夫だよ、リオ。仮にそうだったとしても簡単にお受けする気はないからね」
「え? 本当に?」
お母様も優しく微笑むとすっと手を重ねてくれる。体温が伝わってきた。優しい母の温もりだ。
「ジークから聞いたのだけれど、お茶会で王太子殿下から話しかけられた時に、貴女の顔が青ざめていたそうよ」
今日は友人宅に泊ってくるというお兄様は今は家にはいない。敏いお兄様は妹の異変に気付いたのだろう。両親にお茶会での様子を話してくれたようだ。
あの時、私の顔色は悪かったのか。クリスはそれで連れ出してくれたのだろうか? レオンを見るとうんうんと頷いている。
「理由は分からないけれど、王太子殿下が苦手なのだろう?」
「……あのね。お父様、お母様。いずれ話したいことがあるの。それまで待っていてくれる?」
バラを贈ってきたり、わざわざ王太子殿下が私に会いにくるということは、婚約者候補として考えているのかもしれない。
魔法属性を変えたとしても、前世と同じ流れは変えられないのだろうか? そうだとすれば、家族に前世のことを黙っておくのは、そろそろ限界だと思った。
「もちろんだよ。リオが話したいと思った時に話してくれればいい。それまで待つよ」
「リオ、貴女は私たちの大切な宝物よ。ジークもね」
本当に優しい家族だ。少しだけ涙ぐんでしまったら、レオンが涙をペロリとぬぐってくれた。
守らなければ! 私の大切な家族を……。
自室に戻ってから、レオンとマリーに決意したことを告げる。
「レオン。マリー。近いうちに家族に話すわ。私が時を戻ってきたこと。未来に起こるであろうことを」
「それが良いであろうな。リオは我の眷属であるから何があっても守るが、神の干渉できない人間でしか解決できないこともある」
マリーは膝を折ると、私の手をぎゅっと握ってくれる。
「その時は私もお手伝いいたしますと以前申しました。たとえ旦那様たちが信じなくても、納得するまで援護しますから」
「ありがとう。レオン、マリー」
2人の同意を得られてほっとする。
「さあ、お嬢様。明日に備えて寝支度をいたしましょう」
「そうね。明日はまた戦場になるもの!」
「王太子の小僧と戦をするわけではないだろう?」
ふうとため息を吐くと、腰に手を当てる。
「レオン。貴婦人が公の場に出るということは、戦場に行くようなものなのよ。数多の駆け引きをこなして、勝利を勝ち取るの!」
「ドレスは戦装束ですわね。明日は気合いを入れましょう!」
ふんとマリーが腕まくりをする。
「そういうものなのか?」
人間は理解し難いことをするものだなとレオンが頭を抱えていた。
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