2.侯爵令嬢はもふ神様に癒される
連載の初日から日間ランキングに入っていまして、ビックリです!
ブクマ、評価をいただきました方々、ありがとうございました。
17歳の私がいる。ああ。これは私が冤罪をきせられた時だな。これは前世の夢だ。分かっている。分かっているけど……。
「カトリオナ! おまえはシャルロッテを殺そうとしていたそうだな。ここにいる暗殺者が真実を吐いたぞ」
「そのような事実はございません! 私はそこの暗殺者など知りませんし、シャルロッテ様を殺そうなどと、そのような恐ろしいことは考えたこともございません!」
リチャード王太子殿下は私のことを信じてはくれなかった。婚約者より新しい恋人シャルロッテ・キャンベル男爵令嬢の言葉を鵜呑みにしたのだ。
10歳の魔法属性判定の儀式の後、彼の婚約者となった私は血のにじむような思いで厳しい妃教育にも耐え、彼の隣に並んでもおかしくないように努力したというのに……。
「黙れ! 衛兵。この女を裁判まで地下牢に閉じ込めておけ。拷問しても構わん! 自白させろ!」
「お待ちくださいませ! お願いです。私の話を聞いてください。リック。いえ。リチャード王太子殿下!」
リックは蔑むような冷たい視線で私を見やると、ふいと顔を背け、衛兵に私を捕縛させる。
「申し開きは裁判でするが良い。連れていけ」
「いやあぁぁぁぁぁ!」
* * * * *
暗い。寒い。痛い。誰か助けて。ここは冷たい。誰か私をここから連れ出して……。
必死に手を伸ばす。
ふいに暗闇に一筋の光が射し、誰かが私の手を掴み、抱き寄せてくれる。暖かい。貴方は誰? リック? 違うリックは白銀の髪じゃない。
* * * * *
ハッと目が覚める。暖かいもふもふの白い毛が私を包んでいる。
「目が覚めたか? 随分とうなされていたぞ。怖い夢でも見たか?」
「レオン様?」
レオン様が獅子の姿で私を包みこむようにしてくれている。
「ふふ。レオン様の毛は獅子の姿でも柔らかくてもふもふなのですね。暖かい」
「好きなだけもふもふしていいぞ」
「ありがとう……ござい……ます」
暖かいもふもふに包まれて、私はうとうとし始める。
「朝までまだ間がある。もう少し眠ると良い。我がついている。怖いことは何もないぞ」
「は……い……」
森の神様に守ってもらえるなら、怖くはない。
「今度は良い夢が見られるよう、リオに歌を贈ってやれ。ドライアドの乙女よ」
ドライアド? 樹木の精霊だ。本当にいたんだ。ドライアド見てみたい。でも眠い。
「畏まりました。森の神よ」
レオン様に呼ばれた美しい緑の髪をしたドライアドの乙女の歌は心地が良かったようだ。次に見た夢は、レオン様とともに森の精霊や動物たちとパーティーをするという楽しい夢だった。
* * * * *
ドライアドの歌のおかげで、朝の目覚めが良く、すっきりと起きることができた。レオン様は小さな聖獣の姿に戻って、私の横にちょこんと座っている。あああああ。可愛い。どれ、朝のもふもふを堪能しよう。
「おはようございます。レオン様。昨夜はありがとうございました」
レオン様を抱き上げると耳の辺りをかく。気持ち良さそうにされるがままのレオン様。今日も良いもふもふ具合ですね。
「うむ。おはよう、リオ。それとレオンと呼び捨てにしても良いぞ」
「でも神様に対して不敬ではありませんか?」
「構わぬ。お前の家族に紹介したように聖獣でとおすつもりだからな」
昨日、レオン様を連れ帰って家族に紹介しようとしたら、頭の中に声が響いた。レオン様の声だ。
『我の事は聖獣とでも言っておけ。いきなり神を連れてきたなどと言ったら、パニックになりかねないからな』
一理ある。家族には森の入り口辺りで、レオン様が行き倒れていた設定で説明をした。
「まあ、可愛い。レオンちゃんって名付けたの? そうそう。リオとお揃いのリボンがあるのよ。レオンちゃんにも付けてあげましょう」
お母様。神様に対して不敬です。でも、レオン様は首元に巻いたリボンを気に入ったようだ。適応力の高い神様だな。
「白い獣は聖獣と言われているからな。ぜひ我が家で保護しよう」
お父様。そんな珍獣扱いは不敬です。貴族は幻獣を飼いならしたり、白い獣を聖獣として保護していたりするから珍しいことではないけれど……。
「可愛いね。リオとお揃いのリボンがよく似合っている」
お兄様。うん! お兄様は子供だ。よしとしよう。3年後に生まれる妹のメアリーアンも可愛いものが好きだから、きっとレオン様を気に入るだろう。
コンコンと扉がノックされる。
「起きているわ。マリー。入ってきていいわ」
私付きの侍女のマリーが「失礼いたします」と部屋に入ってくる。
「おはようございます。お嬢様。レオン様は今日もすこぶるもふもふですね」
8歳年上のマリーは我が家の執事長の娘で私が生まれた時から一緒にいる。15歳になった今年から正式に私付きの侍女になってくれた。
マリーは前世で父の執事長とともに、私たち家族を助けようとして、無残にも殺されてしまった。今世では絶対死なせない!
「そうなの。もふもふなの。マリー! 絶対幸せにするからね」
がしっとマリーの手を握る。
「はい。よろしくお願いいたしますね。私はお嬢様にどこまでもついていきますから」
優しいマリーの笑顔。ちょっと天然ちゃんだけど、そこがマリーの可愛いところだ。
『良い侍女だな。む? 風属性と水属性の魔法属性があるな。かなり強力だが魔法制御が良くできている』
レオン様。もといレオンの声が頭の中に響く。そのとおりだ。マリーは風魔法と水魔法を使える。器用に風魔法で掃除をして、水魔法で洗濯をするのだ。
前世で15歳になった時、王都の学園に入ったのだが、マリーにも特待生になって、魔法を学んではどうか? と提案したのだけれど。
「私はお嬢様のそばにいるだけで幸せですから」
と断られてしまった。マリーほどの才能なら、侍女でなくても良い職業に就けるのにもったいないと思った。同時にいつも一緒にいたマリーが離れるのは寂しいので、嬉しかったのだが、結婚適齢期を過ぎても仕えてくれるマリーには申し訳ないとも思ったのだ。
今度はマリーを幸せにしてくれるいいお相手を見つけてあげるのだ。
「本日はどのドレスになさいますか? 新緑が美しい季節なので若草色のドレスなどいかがですか? 髪はハーフアップにしてドレスと同色のリボンをつけて……」
「今日は朝食の後にレオンと散歩に行くから、動きやすいワンピースがいいわ」
「承知いたしました」
マリーはにこっと笑うと、クローゼットから水色のワンピースとリボンを2本出してきた。
「リボンが2本? 髪はハーフアップでいいから1本でいいわ」
「1本はレオン様の分です」
手際良くワンピースを私に着せ、髪をとかしてハーフアップにしてくれる。ついでにレオンの毛をブラシで軽く整えると、お揃いの水色のリボンを首元に結んでくれた。
「では、今日も一日健やかにお過ごしくださいませ」
マリーは一礼すると部屋を出ていく。
「手際の良い侍女だな。仕事が早い」
「そうなのです。マリーはセンスも良いのですよ」
ドレスを新しく仕立てる時もマリーに任せれば、まず間違いない。私に似合った上品なドレスが仕立て上がってくる。ちなみに私のセンスは皆無と言ってもいい。
* * * * *
朝食の後、レオンと森へ向かう。瘴気で枯れてしまった木々や花などを創造するためと、私の新しい魔法属性の訓練も兼ねている。
「まずは魔法を制御しながら、自分の好きな木か花を思い浮かべて、大地に魔力を送ってみろ」
「はい」
大きな木を頭に思い浮かべ、大地に手をかざし魔力を送る。しばらくすると思い描いていた木が大地から芽吹き、ぐんぐんと伸びていく。想像どおりだ。
「これはすごい! お前は魔法制御が上手いようだな。よし! 次は花を咲かせてみろ」
「はい」
花か? 花っていうとあれしか思い浮かばないんだけど……。大地に手をかざすと、あっという間にひまわり畑の出来上がりだ。立派なひまわりに私は大満足した。
「どうでしょうか? レオン様」
レオン様の目が半眼になっていた。あれ? 呆れた顔?
「……お前には植物図鑑が必要なようだな」
女の子が好きそうなもののセンスは皆無な私だ。女子力が低いのかな? マリーに手ほどきをしてもらった方がいいかも? そうだ! まずはお父様に植物図鑑を買ってもらおう。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)