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25.侯爵令嬢はかつての親友に再会する

リオの親友登場です。

 お茶会が開催される王宮の中庭まで、お兄様と私は王宮仕えの侍女に案内されて回廊を歩いている。


 クリスティーナ王女殿下もお茶会に参加されるという伯父様の言葉に、憂鬱な私の心が少し晴れた。


『クリスティーナ王女は前世のリオとはどういう関係だったのだ?』


 姿を消したまま、私の横にいるレオンが念話で聞いてくる。


『クリスティーナ王女……クリスは私の親友だった方よ。家族以外に私の冤罪を信じてくれた唯一の大切な友人……』


 クリスティーナ王女は王太子殿下の2つ年下の妹で、私とは同じ年だ。10歳で初めて会った時から、学園時代もともに学び遊んだ親友だった。


 正直、王太子殿下よりもクリスティーナ王女殿下の方が優秀だったのだ。才覚も魔力も……。何より王者としての器が王太子殿下よりも大きかった。それゆえに王女を女王に擁立しようとする、貴族の派閥があったのだ。王太子派と王女派では王女派の貴族が圧倒的に多かった。我が家も王女派の派閥に属したかったのだが、私が王太子殿下の婚約者だったこともあり、それは叶わなかった。


『……そうか。今世でも友になりたいのか?』


『うん。叶うことなら友達になりたい』


 人懐っこい彼女のことだ。友達になってくださいと言えば、なってくれるだろう。でも王族相手だからな。こちらから友達になってほしいとは言いにくい。


『そんなことはない。友になってほしいのならば、素直に言えばよい』


 レオンが返事したということは、念話で話していたみたい。


『そうなんだけど、貴族社会っていうのは、素直に生きられないものなのよ』


 駆け引きだの、腹の探り合いだの、本当に貴族って面倒くさい。




 中庭に用意されたお茶会の会場には、今日魔法属性判定を受けた貴族の子息令嬢も招かれていた。これで肩の荷がもう1つおりる。はい、壁の花決定!


 と思いきや――――――


 用意されたテーブルにはリチャード王太子殿下とクリスティーナ王女殿下とお兄様と私という組み合わせの席だった。気まずい……。


 せっかく軽食のサンドイッチやスコーンにケーキが美味しそうなのに、これでは食べられない。


「今日はお茶会に来てくれてありがとう。ジークフリートとカトリオナ。また会えてうれしいよ」


「恐れ入ります。王太子殿下」


 お兄様が代表して挨拶してくれる。


「魔法属性判定は疲れたね。それにしても、ジークフリートの風属性の魔力はすごかったね。鮮やかな青色に輝いていた」


「ありがとうございます。王太子殿下こそ二属性も魔力をお持ちとはさすがです。特に火属性の魔力は炎のように燃え上がった赤で美しかったです」


 にっこりと天使の笑顔で微笑み合う2人は、見ている分には麗しくていいのだけどね。


「堅苦しいから、僕のことはリックと呼んでほしいな。ジークフリートのことは、ジークと呼んでいいかな?」


「もちろんです。殿下のことは公の場以外では、お名前で呼ばせていただきます」


「うん。カトリオナのことはリオって呼んでもいいかな?」


 そこでダメとは言えないでしょうが! でも嫌だな。前世と同じ愛称で呼ばれるのは……。迷っていると助け船が入った。


「お兄様。あまり無理を言ってはいけませんわ。カトリオナ嬢が困っています」


 ティーカップをソーサーにカチャと置きながら、クリスティーナ王女が兄を諫める。


「ひどいな、クリス。名前を愛称で呼んでもいいか聞いているだけだよ」


「王族が同意を求めるという意味の重さがお分かりになりませんか?」


 私と同じ年なのにすごいな。もう王族の重みを理解している。


「あ……あの! ケイトはいかがでしょうか? 私のカトリオナという名前の綴りは、ケイトリンとも読めるのです」


 しばらく間をおいて、ぷっとクリスティーナ王女が吹き出した。そのまま手で口をおさえて下を向いている。あれは大笑いしたいのを我慢しているわね。彼女は笑い上戸だもの。


「気に入ったわ。来て! わたくしのお気に入りの温室に案内してあげる」


 私の手を掴むとクリスティーナ王女は早足で歩きだす。


「おい! クリス!」


 制止しようとする王太子殿下に振り返り、笑顔で手をひらひらと振る。


「あとはよろしくお兄様。わたくしたちは魔法属性判定にはまだ早い年ですもの」


 私はクリスティーナ王女に引きずられながら、お兄様に「ごめんなさい」と目配せをすると「いいよ」という風にウィンクしてくれた。




* * * * * 



 半ば強引に引っ張られる形でクリスティーナ王女に連れ出されたが、お茶会の場は気まずかったので助かった。彼女には感謝している。


「あー! 堅苦しかった!」


 両腕を上に向けてう~んと伸びをするクリスティーナ王女だった。ふふ。子供の頃から全然変わっていないのね。大らかで人懐っこくて、賢くて優しくて、そして強い。


「あの……クリスティーナ王女殿下。ありがとうございました」


「クリス!」


「はい?」


「クリスと呼んでほしいの。様はいらないわ。わたくしは貴女のことをリオって呼ぶから」


 ぷっと今度は私が吹き出した。やっぱり変わっていない。王族の重みって言いながら……。いいえ。貴女のそれは貴女自身の魅力ね。強引でいてなぜか憎めない。


「え? 何かおかしかったかしら?」


「いいえ。王女殿下……じゃなくてクリスが可愛いからですわ」


 むうと頬を膨らませるクリス。リスの頬袋みたいで愛嬌がある。


「可愛いかしら? いつもお兄様には生意気って言われるわよ」


 王太子殿下と同じ金色の髪に鮮やかな青い瞳。前世では王太子殿下の青い瞳が好きだったけど、今は貴女の青い瞳の方が好きよ。くるくると変わる表情と可愛らしい仕草も好きだわ。


「クリスは可愛いです」


「リオの方が可愛いわ。そのドレス『サンドリヨン』のオーダーメイド品でしょう? 見た時から良く似合っていて、可愛いと思ったのよ。ドレスもだけど貴女自身がね」


 おお! もしやクリスも『サンドリヨン』の製品が好きなのかな?


「クリスは『サンドリヨン』の品がお好きですか?」


「ええ! ドレスも髪飾りも可愛いわよね。今度からオーダーメイドをするなら、あの店にするわ」


「ローラが喜ぶと思いますわ」


「あら? 『サンドリヨン』の店主と知り合いなの?」


 クリスになら話してもいいだろう。私はローラと共同研究をしていることを語った。


「ええ!? あのバラの石鹸と香水はリオが考えたの? お母様への献上品からくすねて使ってみたけど、あれは良かったわ」


 王妃様への献上品からくすねたって……。彼女らしいといえばらしい。


「正確には私の侍女と2人でですが……」


 ふむといたずらっぽい顔をすると、クリスは人差し指を立てる。


「そういうことなら、なおさらリオを温室に案内したいわ」


 王宮の温室は見たことがない。何があるのかしら?



* * * * * 



 こぢんまりとした温室には、ハーブと見たこともない花や薬草と思われる草が所狭しと植えてあった。


「すごい! 植物図鑑に載っていない花がたくさんあるわ」


「ほとんどが遠い東の国のものなの。かの国は薬学に富んだ国らしいわ。献上品の中にあったのだけど、種なんていらないと言って捨てようとするから、私が引き取って育てたのよ」


 それはもったいない。私でもそうする。


「クリスが育てたのですか?」


「そうよ。お兄様の鑑定眼によると、わたくしは土と風の属性なんですって。お前には土いじりが向いているとバカにされたけれど、わたくしはそれでいいと思ったわ」


 そういえば、クリスも二属性の魔力の持ち主だった。フレア様のブレスレットを使って彼女を鑑定してみると「魔法属性:土・風(雷)」という結果が出た。風の隣の(雷)って何?


『レオン。クリスの風の隣に(雷)って鑑定結果が出たんだけど、それって何?』


『む! 確かに。これは珍しいな』


 今まで黙っていたレオンがクリスを神眼で見たらしい。


『珍しいの?』


『雷魔法はかつて五大属性があった頃の魔法だ。雷の神は遥か昔に異世界に行ってしまったのだ。現在は風の神が兼任している』


『だから(雷)なの?』


『うむ。(雷)付きの風属性を持つ人間はなかなかいないから珍しいのだ』


「……オ。リオ。聞いている?」


 はっと我にかえる。レオンと念話で話している間に、クリスが何か話しかけていたらしい。


「すみません。考え事をしておりました。もう1度お聞きしてもよろしいですか?」


「新商品のアイデアでも考えていたの? まあいいわ。わたくしもその共同研究とやらに協力できると思うの。この温室を提供するわ」


 それは願ってもないことだけど、王宮に来いってことかしら?

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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