24.侯爵令嬢は魔法属性判定に強制連行される(もふ神様付)
本日はもう1本七夕企画としてリオとレオンのSSを更新します。
魔法院へ向かう馬車の中で、お茶会のシミュレーションを頭の中でしていた。他の貴族の方々も参加するのかしら? そうだとしたらラッキーなのだけど。壁の花になっていれば、王太子殿下と話す機会は少ないだろう。それに彼女に会うこともできるかしら? 前世のただ1人の親友に……。
「今日のリオはいつにも増して可愛いな」
お父様がデレデレとしている。普段はキリっとしていて冷静なお父様だが、実は娘大好き残念パパなのだ。
「『サンドリヨン』のドレスが可愛いのと、マリーの腕がいいからよ。お父様」
「そんなことはないよ。リオはお母様に似ているから、将来はものすごい美人になって、モテるんだろうな。ある日『娘さんを僕にください』なんていう輩が来たら、お父様は殺ってしまうかもしれないな」
ふふふと黒い笑みを浮かべるお父様。怖いです。
「そのようなことを言っていたら、リオが行き遅れてしまいますわ。旦那様」
お母様が呆れたようにため息を吐く。
「行き遅れたら、ずっと領主館にいればいいよ」
お兄様が天使の笑顔で庇ってくれるが、仮に行き遅れたとしても、そのつもりはない。第一、お兄様の妻になる方が可哀想だと思う。うるさい小姑が同居するのだもの。うるさくするつもりはないのだけど。
「そうなったとしたら、自分でアトリエを構えるわ。やってみたいことがあるの」
「美容関係かい?」
「そんなところかな。ところでお兄様はご自分の属性は、何だとお思いですか?」
これ以上突っ込まれたくないので、話題を変えることにした。
「う~ん。風属性じゃないかなと思うんだ」
我が国では10歳の魔法属性判定の儀式を迎えるまでは、魔法を使うことを禁じられている。13歳で魔法学院に入学するまでは、家庭教師をつけて基本的なことを学ぶ。魔法学院に入学してからは属性に応じた訓練をして、将来の道を選択するのだ。
私は内緒でどんどん魔法を使っているけどね。
前世でのお兄様は強力な風魔法の使い手で、剣に魔法を付与して戦うという武術を身につけていた。魔法院や騎士団からスカウトがあったのだが、すべて断って領地経営に徹していた。愛する婚約者とともにいたいという理由でだ。残念なところはお父様に似たのだろう。
お兄様をさりげなく鑑定してみると『魔法属性:風』と出ていた。今世も残念貴公子路線まっしぐらかな?
「風魔法か。四大属性の中でも攻撃系に長けた魔法だ。そうだといいな、ジーク」
「僕は父様と同じ土魔法がいいです。我が領は資源が豊富ですし、穀物の肥料開発にも役に立ちます」
お父様は『土魔法』、お母様は『氷魔法』の魔法属性を持っている。まだ生まれていない妹のメアリーアンは前世で魔法属性判定前に亡くなったので分からない。
「本当に優秀な後継者を持ってよかったよ」
うんうんと満足気に頷くお父様。領主としては2人とも優秀なのだけどね。溺愛はほどほどにした方がいいと思うよ。
* * * * *
魔法院のゲートはあっさりとくぐることができた。姿を消して私の隣にいるレオンは、認識されずに済んだので一安心だ。
『人間の作った魔道具など大したことはないな。ふっ』
さすがは神様。余裕綽々だね。私はレオンが大丈夫だとは言っても、ゲートに探知されるんじゃないかと、内心冷や汗ものだったよ。
『もしゲートに探知されたら、どうするつもりだったの?』
『壊すに決まっておる』
良かった! 探知されなくて……。
魔法属性判定の会場は中央に、属性判定の魔道具がおいてある。大きな透明の水晶玉だ。『魔法属性判定玉』と呼ばれている。あの玉に手をかざして魔力を通すと、属性ごとに色が変わるしくみだ。
火は赤、水は白、風は青、土は茶。光は金色に輝き、闇は黒く染まる。無属性は透明なまま。二属性以上を持っているものは何色かに分かれる。色が不鮮明な場合、例えば赤っぽい朱色とか青っぽい水色などは派生魔法なので、判定官によって鑑定される。
付き添いの家族は貴族は2階以上に設けられたバルコニー席、富裕層は水晶玉の後ろに設けられた席に座り、庶民は立ち見と分けられている。
グランドール侯爵家は公爵に次ぐ位なので、見えやすい前の位置の3階席だ。今回は王太子殿下が魔法属性判定に該当するので、王族は正面にある王族専用の席に座る。国王陛下と王妃殿下と王太子殿下の妹姫クリスティーナ王女殿下が、それぞれ専用席に座っていた。
「それでは魔法属性判定を開始いたします。まずはリチャード・アレン・ヴィン・フィンダリア王太子殿下! 魔法属性判定玉の前に手をかざしてください」
判定官の儀式開始の合図で、まずは王太子殿下の属性判定から始まる。王太子殿下が魔法属性判定玉の前に進み出ると、手をかざし魔力を通す。赤と青の2色に分かれた。特に赤が一際輝く。強力な『火魔法』の使い手ということだ。
「リチャード・アレン・ヴィン・フィンダリア王太子殿下は『火魔法』と『風魔法』の二属性持ちです」
書類に判定官が書き込みをする。あれ? 『鑑定眼』は?
「おお! さすがは王太子殿下! 二属性の魔法をお持ちとは、将来が楽しみですな」
周りの貴族から拍手が上がる。
『レオン。鑑定眼って魔法ではないの?』
念話でレオンに聞いてみる。
『鑑定眼は特殊な目だ。あの水晶玉は魔力のみしか感知しないのだろう。他の身体強化系の特殊な力を持っているものも、無属性と判定されそうだな』
そういえば、王太子殿下は『鑑定眼』を持っている話をした時に「内緒だよ」って言ってたな。判定官は『鑑定眼』持ちだから、自己申告なんだろうな。きっと……。
「次はグランドール侯爵家子息。ジークフリート・ユーリ・グランドール殿! 魔法属性判定玉の前に手をかざしてください」
今年は公爵家に魔法属性判定の該当者はいないらしい。王太子殿下の次にお兄様が呼ばれた。
お兄様が魔法属性判定玉に手をかざし魔力を通すと、鮮やかな青に輝いた。強力な『風魔法』の印だ。
「グランドール侯爵家子息。ジークフリート・ユーリ・グランドール殿は『風魔法』です」
またもや周りから拍手が起きる。
「やはりジークは風属性だったな」
「ええ。鮮やかに輝いておりましたから、魔力が強力なのですね」
お父様とお母様は周りに合わせ拍手をしながら、嬉しそうに微笑みあう。
「次は……」
判定官が次の属性判定の対象者の名を読み上げる。次は伯爵家の令嬢のようだ。今年の対象者は王族貴族庶民を合わせて50人ほどで、魔法属性判定は終わった。
* * * * *
王宮に登城すると、両親は宰相に挨拶をしに行くといって、お兄様と私を宰相執務室へ連れていく。既にアポイントはとってあるようだ。
『なぜ宰相に謁見する必要があるのだ?』
『現宰相フランシス・スティアート・ポールフォード公爵はお母様のお兄様。つまり私の伯父上にあたるの』
『なるほど』
レオンと念話を交わしているうちに、宰相執務室へ到着する。扉をノックすると「どうぞ」という声が聞こえた。伯父上の声だ。
「失礼いたします。義兄上、お久しぶりです」
「おお! アレクとエリーか。久しぶりだな」
お父様の名前はアレクシス・カール・グランドール。愛称はアレク。お母様の名前はエレオノーラ・マリエ・グランドール。愛称はエリーなのだ。
フランシス伯父様はお母様によく似た面立ちで、白金色の髪に緑の瞳にモノクルをかけた知的な美形だ。結婚前は数多のご令嬢を泣かせた貴公子だったとか……。
伯父様は執務机から立ち上がると、お父様とお母様に駆け寄り、それぞれにハグをした。
「そちらはジークフリートか? 大きくなったな。今日の魔法属性判定はどうだったのだ?」
「お久しぶりです、伯父上。僕は風属性でした」
「そうか。四大属性の中でも強力な魔法だ。良かったな、アレク。優秀な後継者に恵まれて」
お兄様にもハグをして、頭を撫でる。次は私に目を向けると、腹部に左手をあてて、右手は後ろに回し、紳士の礼をする。淑女扱いをしてくれているので、カーテシーをした。
「こちらの素敵なレディはカトリオナかな? 3歳の時に会った以来だ。エリーに似て可愛いな」
伯父様はハグをすると頬をスリスリしてくる。出たよ。姪っ子大好き攻撃……。前世でも伯父様は登城する度に仕事を放り出しては、私のところに顔を出した。そして冤罪をきせられた時にも、必死に無罪の証拠を集めてくれた人だ。
『リオの周りはお前を溺愛する人間が多いな』
『……そうみたい』
見えないけど、レオンが呆れた顔をしているのがなんとなく分かる。
「今日は王太子殿下主催の茶会に招待されたのだったな?」
やっとスリスリをやめてくれた伯父様が、本題を切り出す。コの字型のソファに座る家族の対面で、私はなぜか伯父様の膝の上に乗せられている。伯父様には娘がいないから可愛がってくれるのは分かるんだけど……。
「ええ。ジークとリオが招待されております。私たちは控室で待つように言われているのですが、心配です」
「そういうだろうと思って、茶会がよく見える部屋を用意したぞ。無論私も同席する」
伯父様。職権乱用です。
「茶会にはクリスティーナ王女殿下も参加されるそうだ」
え? クリスティーナ王女殿下が!?
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)