23.侯爵令嬢はもふ神様たちの企みに驚愕する
王都編です。
王都のタウンハウスは領の屋敷と比べるとこぢんまりとしている。それでも他の貴族のタウンハウスと比べると規模は大きい。
「今世では初めてね。それとも前世ぶりといった方がいいのかしら?」
前世では10歳から住んでいたタウンハウスの自分の部屋を眺める。ここから王宮に通って妃教育を受けたのだ。懐かしいというよりは嫌な思い出があまりにも多すぎた。
「お嬢様。お部屋の模様替えをいたしましょうか? それともお部屋を変えますか?」
沈んだ顔をしていたのだろうか? マリーが気遣うように提案をしてくれる。
「大丈夫よ、マリー。嫌な思い出が多かったとはいえ、そればかりではないの。いい思い出もあるのよ」
10歳の時に初めてできた友達。彼女が私の部屋を可愛いと褒めてくれた。この部屋でよく一緒に遊んだな。家族以外で私を最後まで信じてくれた親友だった。私が処刑された後、彼女はどうなったのかしら?
「やはり部屋を変えてもらった方がよいのではないのか? リオ。浮かない顔をしている」
私の膝に手をかけてくるレオン。猫が撫でてほしい時にする仕草よね。
「レオン、ありがとう。でも本当に大丈夫よ」
額を撫でてやるとレオンは目を細める。
「窓とベッドの天蓋のカーテンは変えましょう。ローラ様が研究熱心なお嬢様に贈り物をということで預かっているのです」
マリーが荷物の中からカーテンを取り出した。窓用のカーテンはパステルカラーのピンクだ。縁どりにはドレスにも使われているバラのレースが縫われている。天蓋用は白のオーガンジーにやはり縁どりにバラのレースが使われていた。
「ローラがこれを私に? バラのレースは決して安くはない代物でしょう」
「このレースをお嬢様がとても気に入ってくれたので、ぜひお使いくださいとのことでした」
「それにしてもサイズがよく分かったわね? ローラはタウンハウスの窓枠やベッドサイズなんて知らないでしょう」
「父に聞いて私がお伝えしました」
さすがは執事長だ。タウンハウスの間取りや窓枠サイズなんかも全部把握済みなのだ。
「それにしても素敵ね。インテリア用の雑貨も取り扱えば、あちこちから注文が殺到しそうね」
カーテンを広げて手触りを確かめる。どちらもいい品物だ。新しい物を見るとワクワクする。嫌な思い出なんて吹き飛びそうだ。ローラの心遣いに感謝する。
「ローラに何かお土産を買っていかないとね」
「またこっそりと買い物にでかける気だな。リオ」
胡乱な目をしたレオンに見つめられる。そんな顔したって可愛いだけだからね。
「もちろんレオンとマリーも付き合ってくれるよね?」
「当然です」
「無論だ」
王都でも3人でデート決定だ。ふふふ。楽しみ。
明日はお兄様の魔法属性判定の日だ。しかもその後に王太子主催のお茶会か。ああ、憂鬱……。
その夜、フレア様とダーク様がタウンハウスに遊びにやってきた。
「ここがリオの部屋なのじゃ? 可愛いのじゃ!」
「マリー、おやつをくれ」
「お前たちは何をしにきたのだ? 帰れ」
マカロンと紅茶を運んできたマリーは、ソファにちゃっかり座っているフレア様とダーク様の前にお出しする。私はハーブティーにしてもらった。夜に甘いものを食べるのは厳禁だ。
明日着るせっかくの新しいドレスがはいらなくなったなんてことになったら、ローラに申し訳ない。ドレスは王都に旅立つ1週間前に出来上がった。最後の調整の時にはジャストサイズだったので、この体形を維持しなければと夜にもストレッチをしていた。
最悪コルセットでギリギリに締め上げる手もあるけど、それは奥の手だ。コルセットは苦しいのであまり好きではない。好きな貴婦人はいないだろうけど……。
「明日はいよいよお茶会なのじゃ。リオにエールを送りに来たのじゃ」
「リオ大丈夫か? こっそりマリーの影に隠れてついていってやろうか? 王宮の菓子は美味いかもしれないしな」
お気持ちはありがたいですが、本音はマリーの影に隠れてこっそりお茶菓子を狙っているのですね? ダーク様。
「大丈夫ですわ、ダーク様。お嬢様は私がお守りいたします。カス王太子が何かしようとしたら、私が黙っておりません」
「我が姿を消してついていくゆえ、お前たちの手助けはいらぬ」
何やらマリーの笑みが黒い気がする。
「マリー。まさかと思うけど、王太子殿下のお茶に下剤を入れたりしないわよね?」
「まあ、お嬢様。そのようなことをしたら王宮の使用人の方々が罰せられてしまいます」
ほっと胸をなでおろす。
「そうよね。マリーがそんなことをするわけがないわよね」
「無味無臭の証拠が残らない弱毒で3日ほど寝込んでいただくくらいですわ」
「王太子に嫌がらせか? 面白いな。俺が影から王太子の足を掴んで転ばすってどうだ?」
「わたくしは鳥の姿でくるみを王太子の頭に投下するのじゃ!」
皆さん、物騒なことはやめてあげて! 王太子殿下は子供ですよ。9年後の彼ならともかく……って! 何考えているの。私!
「レオン! 黙ってないで皆さんを止めて!」
「何故だ? どれも面白い提案だと思うが。我は王太子の小僧にどのような罰を与えればよいかな?」
可愛い獣姿のレオンが口端を吊り上げて不敵に笑っている。
「ダメです! 絶対! 皆さん王太子殿下には何もしないでください!」
必死に止める私に不満そうな神様たちだったが、一応何もしない方向で話はまとまった。肩入れしてくれるのは嬉しいのだけれど、現時点で王太子殿下に何かされているわけではないからね。
* * * * *
翌日、タウンハウスは朝から大騒ぎだった。お兄様の魔法属性判定とその後のお茶会出席のための支度で、タウンハウスの使用人たちは、朝から忙しく動き回っていた。もちろんマリーも例外ではない。
「みんな忙しそうね。何かお手伝いすることはあるかしら?」
階段の踊り場からレオンを抱えて、様子を眺めていた。
「何を他人事のように言っているのです。リオ、貴女も早く支度をしなさい」
上からお母様の声が降ってくる。振り返るとお母様が仁王立ちしていた。
「え? 私はお茶会のみ参加なので、後から王宮に行けばいいのではないですか?」
「貴女1人で王宮に行かせるわけにはいかないでしょう。一緒に魔法属性判定の付き添いに行くに決まっています」
ええ! 聞いてない。てっきりお茶会だけ出席すればいいと思っていた。
「早くお部屋に戻って支度をしなさい。マリーを手伝いに行かせるわ」
「……はい。お母様」
すごすごと自分の部屋に帰っていく。
部屋に戻るとマリーがドレスの準備をして待っていてくれた。
「まさかお兄様の魔法属性判定についていくことになるとは思わなかったわ」
「そうですわね。でも王宮に登城されるのは、許可された御方だけです。お嬢様はまだ社交デビューをされておりませんし、王族と謁見なさっていらっしゃいませんからね」
そうだった。失念していたけれど、今世の私が王宮に登城するのは初めてだった。
「魔法属性判定は魔法院の会場で行うから、魔道具の持ち込みは禁止なのよね。はっ! 姿を消したレオンが魔法院のゲートで引っかかってしまわないかしら?」
魔法院は入り口に魔力を帯びたものがないかチェックするゲートがあるのだ。ただし、人が生まれつき持っている魔力には反応しないようになっている。
「心配せずともよい。そのゲートとやらは人間が作った魔道具だろう? 我ら神にはそのようなものは通じぬ」
「フレア様からいただいたこのブレスレットも?」
腕につけているブレスレットを指差す。
「無論だ。それは神具で魔道具とは違う。神の持つ神気がこめられておるのだ」
確信を持ったレオンの言葉に安心した。鑑定眼と同じ効力を持つブレスレットをつけていきたかったのだ。私も約2年半後に魔法属性判定を受ける。魔法属性判定に使う魔道具の正確さを確認しておきたい。
「おまたせいたしました、お嬢様。お支度が整いましたよ。鏡をご覧になってくださいませ」
全身が映る鏡の前に移動すると、私じゃない誰かがいた! 青い生地にバラのレースがたっぷり使われた可愛いデザインのドレス。ハーフアップにされた髪にはドレスに合う髪飾りをつけた少女が立っている。
「これ、私? マリーの腕ってすごいのね。とても可愛くみえるわ」
「お嬢様が元々可愛らしいのですよ」
鏡の前でにこっと笑って、くるくると回ってみる。うん。満更でもない。レオンを見るとじっと私を見つめていた。
「どう? レオン」
「う……うむ。可愛らしいぞ、リオ。どこの姫君かと思ったぞ」
「一応、貴族の娘だけどね」
さて、行きますか! 気合いを入れるように両頬をパンと叩く。
「いざ! 出陣だ!」
「戦に行くわけではないぞ」
レオンの突っ込みはスルーする。私にとっては戦場に行くようなものなのよ。
明日は本編と七夕企画に考えたリオとレオンのSSを更新します。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)




