22.侯爵令嬢は魔道具を手に入れてご機嫌だが、もふ神様が拗ねた
いよいよ王都に向かいます。
ついに王都に旅立つ日がやってきてしまった。
ツリーハウスで運動をしたり、ローラとマリーと3人で石鹸や香水の共同研究をしたり、レオンをもふもふしていたりと、忙しい日々を過ごしていたら、あっという間に3ヶ月が経ってしまった。楽しい日々ってあっという間に過ぎてしまうものなのね。
そして、ただいま私は王都に向かう馬車の中だ。グランドール侯爵領から王都までは3日ほどかかる。我が領はフィンダリア王国の北部に位置するので、ちょうど国の真ん中にある王都までは遠いのだ。
いやいやながら王都に行くのは、王族からの招待ということもあるが、お兄様の晴れ舞台だし、何より王立図書館で調べものをするという目的がある。王立図書館には詳しい歴史書もあるし、建国以来の貴族名鑑があるはずだ。そこでマリオンさんのことが少しでも分かればいいなと思う。歴史の先生にそれとなく尋ねてみたり、我が家の歴史が載っている本を読みつくしたけど、結局詳しいことは分からなかった。
「リオ、考え事をしているの?」
隣に座っているお兄様が顔を覗き込んでくる。
「ううん。領とは違う景色を楽しんでいたの」
「リオは領から出るのは初めてだからね」
馬車はグランドール領内を抜けて、今日の宿泊地である隣の領内を走っていた。隣の領は魔法院の直轄領で、魔道具店がたくさん立ち並んでいる。店頭に並んだ魔道具の魔石がきらきらと光っていて綺麗だ。
魔法院とは名のとおり、魔法に関するものを管理する国の機関で、魔法属性判定するのも魔法院所属の判定官だ。
「防腐が付与してある器とか売ってないかしら?」
「それは美容品に使うのかしら?」
向かい側に座っているお母様が訊いてくる。その隣にはお父様が座っていた。子供の魔法属性判定には両親の付き添いが必要なので、お父様とお母様も社交シーズンではないけれど、お兄様の付き添いでともに王都に行く。ちなみにレオンも連れてきている。今は私の膝の上で丸くなって眠っていた。マリーはもう一台の使用人用の馬車に乗っている。
「そうなの。特に化粧水は傷みやすいから」
「リオが美容品の研究をしたいと言った時は驚いたよ。でも、ローラさんが共同でというのならば安心だ」
ローラが経営する『サンドリヨン』は王都にも店を構えていて、王族からの注文もある人気店なのだそうだ。前世で『サンドリヨン』はなかった気がする。あんなに素敵な店なら貴族に人気があるはずだもの。やはり私が時を戻ったことで歴史が変わってきているのかもしれない。時の神様は「問題ない。ピンポロリン」って言っていたけど、本当に大丈夫なのかしら?
「ローラさんは若いのにしっかりした方だから、安心してリオを任せられるわ」
ローラはうちの両親の信頼が篤い。共同研究の話を切り出した時に、真っ先に賛成してくれたのはお母様だった。完成したら広告塔になってくれるという。社交界の華と呼ばれるお母様が使っているといえば、いい宣伝になる。
日が暮れる前に、宿泊場所についた。魔法院が経営する貴族や富裕層が利用する立派なお宿だ。
「グランドール侯爵家ご一同様がお着きになられました」
馬車が宿の前に着くと、ローブを纏った魔法院の職員が出迎えてくれた。魔法院の職員は紺色のローブを纏うのが決まりだ。
「これはグランドール侯爵閣下ならびに侯爵夫人とお子様方もようこそお越しくださいました。まずはお部屋にご案内いたします」
「うん。今夜一晩世話になるよ」
出迎えてくれた職員はこの宿の責任者のようだ。誘われるまま後についていくと、最上階のロイヤルスイートに案内された。一応侯爵家だから待遇はいいみたい。
部屋は居間と続きで寝室が3部屋あった。部屋割りはお父様とお母様が2人で一部屋、お兄様、私がそれぞれ一部屋ずつ使う。レオンはもちろん私と一緒だ。
しばらくすると屋敷から伴ってきた侍女3人が荷物を持ってきてくれた。その1人がマリーだ。
自分が使う部屋にレオンとマリーとともに入る。部屋には品の良い調度品が並んでいた。
「調度品が凝っているわね」
「さすがは魔法院のお宿ですわね。明かりとお風呂にもいいランクの魔石が使われています」
我が家も魔石を使っているが、ランクはここほどいいものを使っていない。明かりの光度が段違いだ。
「魔石って鉱山から掘るんでしょ?」
今まで猫型の聖獣のフリをしていたレオンが口を開く。
「魔物の中に稀にだが、高ランクの魔石を持ったものがいるぞ。その魔石の効力は衰えることがない。ずっと使い続けることができるぞ」
それはすごい! 鉱山から掘り出された魔石は効力が短いので、取り替える必要があるのだ。贅沢品なので所有できるのは王族と貴族か富裕層くらいだ。
「ところで2人にお願いがあるの」
ちょっと可愛くお願いをしてみる。レオンとマリーは顔を見合わせると深くため息を吐いた。
夕食の後、こっそりと宿を抜け出して、魔道具が売られている店が立ち並ぶ場所へと向かう。魔石のおかげで色とりどりの色がキラキラと輝いている。まるで宝石の街のようだ。
「この街を見た時から嫌な予感がしていたのだ」
「お嬢様が大人しくしているわけがありませんよね」
夜の街は危険なので、レオンには青年姿になってもらった。女2人と可愛い獣よりは、男の人がいた方が威嚇になるものね。レオンの素顔は目立つので、メガネをかけてもらった。
「せっかく魔道具がたくさんあるのよ。見てみたいじゃない」
魔道具を鑑定できるようにフレア様からいただいたブレスレットをつけてきた。何かいいものがあったら購入しようと思う。
店を一軒一軒物色していく。ふと一軒の店の前で目をひくものがあった。防腐付与つきの小瓶だ。これは化粧水や香水を入れるのに使える! 値段は銀貨3枚か。大きさの割には値がはるのは、魔道具だから仕方ない。
「すみません。この小瓶を3つ下さい」
店主が出てきて小瓶を包んでくれる。
「どうして3つだけにしたのですか? お嬢様」
「まとめて買う前に試してみたいの。液状の石鹸と香水と化粧水にね。いい結果が出たら、まとめて取り寄せるわ」
「それと大金はちらつかせない方がいいだろうな。そうでなくても身なりがいいから狙われやすい」
どういうこと? と思ったら、ちょっと悪そうな男の人たちに囲まれた。
「へへへ。お嬢ちゃんたちいいところの子供だな。大人しく金を置いていったら何もしないぜ」
テンプレどおりの悪者たちのセリフにため息が出た。もう少しひねりがないものかしら?
「お金が欲しかったら働きなさい!」
言うが早いかマリーが風魔法で悪者たちを吹き飛ばした。
「お見事! さすがマリー」
「我の出番がなかった」
「レオンは神様だから人間に手出ししてはダメよ」
しゅんとうなだれるレオン。耳が垂れているように見えるのは幻かな?
翌日、朝食の後、魔法院のお宿から出立した。鼻歌が出てしまいそうなほど機嫌がいい私に家族は訝し気だ。
「ご機嫌だね、リオ。何かいいことでもあったのかい?」
「うん。ちょっとね」
レオンは不貞腐れて寝ている。昨日活躍できなかったから拗ねているのかしら?
あと1泊したら、いよいよ王都に到着だ。
ひねりのない悪者が出てきたのに、出番がなくて拗ねてしまったレオンです(笑)
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)