20.侯爵令嬢はツリーハウスに登る
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ツリーハウスに使う金具を手に入れた私は園芸店の店主に教えてもらったとおり、ハーネスを装着してカラビナと滑車をツリーハウスの綱に固定する。
服は動きやすいように、トマスからお古の作業着をもらった。金具を教えてもらったお礼も兼ねて、可愛くラッピングされた剪定用のはさみをプレゼントすると、感激したトマスは泣き出してしまった。
「ありがとうございます、お嬢様。我が家の家宝にさせていただきます」
「……いえ。ちゃんと使ってね」
園芸のお店で買ったはさみで宝石とかついていないから、普通に使ってほしい。
作業着はマリーにサイズを合わせて繕ってもらった。着やすいし、体を締め付けないし、作業着っていいわね。ただ屋敷の中では着れないので、森に行ってから着替えた。屋敷の中で着ていたら、お母様に怒られそうだ。
準備が完了したので、ツリーハウスに登りはじめた。設置した梯子を登るだけなのだが、ツリーハウスの位置を高くしてしまったので、高揚感がすごい。最悪足を滑らせても命綱があるのだが、緊張する。
どうにかツリーハウスに辿り着いて、周りを見渡すと北部の山が見えた。頂上はまだ雪をかぶっているが、山肌とのコントラストが綺麗で絶景だ。
「うわあ。すごい! いい眺めだわ。ツリーハウスを作ってよかった」
「お前はするすると猿のように登っていくな。我の出番がなかったではないか」
落ちそうになったら、助けてくれるつもりだったらしいレオンがツリーハウスに着地すると翼をたたむ。
「猿じゃないもん! レディに対して失礼だわ」
「レディは作業着を着て、木登りしたりはせぬぞ」
レオンが意地悪く、口端を吊り上げる。淑女教育でこれ以上教えることはないって褒められたのに。うきぃ!
「なかなかスリルがあって、楽しかったですわ」
後ろからマリーが登り切ったというさわやかな笑顔を浮かべて、ツリーハウスに入っていく。背中にリュックを背負っている。何が入っているの?
マリーが背負っていたリュックの中にはスコーンと紅茶が入っていた。これを背負いながら、登ってきたマリーは強者だ。
設置しておいたテーブルにスコーンと紅茶を手際よく並べていくマリーを横目に見ながら、床に座っているレオンをもふもふしている。
ツリーハウスは少し大きめに作ったので、獅子姿のレオンでも悠々と入れる設計だ。素材は檜を使ったので、木のいい匂いがする。
しばらく感慨にふけっていると、突然、金色の鳥が入り口から舞い込んでくる。あれ? この鳥はもしかしてフレア様? 鳥は女性の姿にぽんと変わる。
「リオ、遊びに来たのじゃ!」
「帰れ」
遊びに来たらしいフレア様に対して、レオンが冷たく言い放つ。
「レオンがいけずなのじゃ~」
フレア様が抱き着いてきたので、背中をよしよしする。
「レオン。せっかくフレア様がいらしてくれたのに、その態度はよくないわ」
「ふん!」
ふいとレオンは顔を背けてしまう。
「いい匂いがする」
フレア様の影からダーク様がぬっと姿を現わす。このパターンも最初のうちは驚いていたけれど、もう慣れた。
「スコーンの香ばしい匂いですね」
「マリーの手作りか?」
ダーク様が無表情のまま、首を傾げる。表情はなくても仕草が可愛い。
「そうですわ。マリーが朝スコーンを焼いてくれたようです」
「ふむ。楽しみだ」
スコーンを食べる気満々のダーク様だ。マリーのことだから、こういう事態に備えて予備のスコーンを用意しているとは思うけど。
「お待たせいたしました、皆様。おやつの準備が整いましたよ」
テーブルには山盛りのスコーンとクローテッドクリームとイチゴジャムが添えられている。人数分の紅茶もしっかり用意されていた。さすがはマリー。できる侍女は違う。
「さくさくとして美味しいのじゃ!」
「このクロテッドクリームも絶品だ」
「我にはクロテッドクリームとイチゴジャムをたっぷりとつけたものをくれ」
マリーの手作りのお菓子は神様たちに好評だ。たくさんあったスコーンはあっという間になくなってしまった。私はというと、自分用に確保しておいたスコーンをゆっくりと味わった。ダイエット中なので2つだけにしておいた。
食後の運動に木で造った遊具で遊ぶことにする。フレア様とダーク様も興味があるようで、ツリーハウスから遊具で遊ぶ私をじっと見ていた。
木から木に渡した吊り橋を上に張っておいた綱に金具をつけて、渡ってみる。バランスをとるのが難しい。全身の筋肉がぷるぷると震える。
ツリーハウスの向こうには着地しやすいように、木の周りに丸い板をつけておいた。今度は反対側を向きツリーハウスへ向かう。カラビナから手を離してバランスをとりながら歩いていく。吊り橋の板は細めに作ってある。踏み外しても命綱つきなので、落ちることはないが緊張した。
「はー! なんとか往復できた。結構いい運動になるわ、これ」
「おい、リオ。このツリーハウスからあの下の木まで綱を渡すことはできるか?」
何かを思いついたのかダーク様が下の木を指差す。
「できますけど、どうするのですか?」
「あと、その格好いい金具を貸せ」
え? 格好いいかな? 私もハーネスはちょっと格好いいと思ってたけど。
ダーク様の言うとおり綱を下の木に渡すように創造する。上手い具合にツリーハウスから綱を張ることができた。ダーク様は金具を装着すると、綱に金具を通す。
「よし! いくぞ」
まさか!? ダーク様が下の木に向かって滑り降りていく。木にぶつかる! 危ない! と思ったら木に激突する寸前にダーク様が着地して影に潜り込んだ。素晴らしい反射神経だ。
「ずるいのじゃ! ダーク。わたくしもあれをやってみたいのじゃ!」
「では、私の金具をお使いになりますか?」
マリーが着脱した金具をフレア様に渡す。
「お待ちください! フレア様。あのままでは危ないので、木に緩衝材を巻いて下に木のチップを敷きます」
そうすれば、激突する前に木のチップがクッションになるし、最悪ぶつかっても緩衝材があれば大けがをしなくてすむと考えた。
木の下にチップをブレーキになるように敷き、木には風船のような緩衝材を巻くイメージで『創造魔法』を発動させる。イメージどおりに創造できたので、ダーク様に確認をお願いした。
ダーク様は影にとぷんと潜るとフレア様の影から姿を現す。便利な魔法だな。
「あれなら運動音痴の姉ちゃんでも大丈夫だ」
「わたくしは運動音痴ではないのじゃ! あとお姉様と呼ぶのじゃ!」
ふんとダーク様に背を向けると、金具を装着して綱にカラビナと滑車を通す。「ほっ!」と掛け声を発すると、下に滑り降りていく。
「ひゃっほうー! なのじゃ!」
楽しそうに滑り降りていくフレア様。目論見どおり下に敷いた木のチップはブレーキ役を果たしてくれた。ただフレア様は途中から体が反転しちゃったけどね。
「運動不足のせいで体幹がしっかりしていないんだ。リオの機転で姉ちゃんは木に激突しないで済んだな」
「どうせ、あやつは神界にいる時もダラダラとしているのだろう?」
レオンが呆れたようにふんと鼻を鳴らす。
「最近は異世界のおとめげーむとかいうやつにハマっているぞ」
おとめげーむ? カードゲームみたいなものかな?
「リオもやってみるか?」
金具をダーク様が返してくれた。
「はい。おもしろそうです」
再び、ハーネスを装着するとカラビナと滑車を綱に通し、滑り降りる。風が気持ちいい。レオンとした空中散歩のようだ。
しかし、私の体は小さくて下のチップに足が届かず、このままだとブレーキがかからず木に激突する。でも、風船のような緩衝材があるから大丈夫!
覚悟を決めて木に突っ込んでいく。だが、緩衝材にぶつかる直前に柔らかい何かが私を抱きとめる。その後ろには白いもふもふが見えた。
抱きとめてくれたのはマリーで、木とマリーの間に立ちふさがってくれたのはレオンだった。
「リオ! 無事か?」
「お嬢様! お怪我は?」
「ああ。うん。大丈夫。2人ともありがとう」
私が木にぶつかると分かって助けに来てくれたのだろう。あれ? レオンは飛べるからともかくマリーはどうやって?
「ダーク様に教えていただいた影渡りの魔法を使ったのです」
私の疑問に答えるようにマリーがにっこりと笑う。いつの間に習得したの!? マリー凄すぎでしょ!
「全く、寿命が縮まる思いだったぞ」
こつんとレオンが私の頭を小突く。肉球だから痛くないけど。
「神様にも寿命ってあるの?」
「例えだ。お前はもう少し大きくなるまで、あの遊具は使用禁止だ!」
「ええ! おもしろかったのに!」
むむとレオンが眉を寄せる。
「空を飛びたければ、我がいつでも乗せてやる」
「う……分かった……」
ツリーハウスから降りる時に使えると思ったのにな。残念……。
下に滑り降りる遊戯は実際あります。
ジップスライドというらしいです。
作者も体験してきました。面白かったです♪
詳しくは活動報告に書きました。よろしければ覗いてみてください。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)