閑話・ローラの秘密
番外編なので、短めです。
三人称です。
リオとマリーが園芸の店に入っていった後、レオンは店の入り口で待つことにした。表向きは金物の匂いが苦手ということにしておいたのだが、どうしても気になることがあったのだ。
最近出会ったある人物のことなのだが、その当人は表通りに出る道の角の壁にもたれて、こちらを窺っていた。レオンの意図をくんだようだ。
気になった人物『サンドリヨン』の店主であるローラはふっと微笑む。
「久しぶりね、森の神。瘴気のせいで、引きこもりになっていたと聞いていたけれど、無事に開放されたみたいじゃない?」
赤く艶やかな唇が弧を描く。なんとも妖艶な様だ。レオンはローラに歩みよる。
「まさかとは思ったが、やはりお前か。火の女神よ。人の中で暮らしているとはな」
「ローラと呼んでくれるかしら?」
火の女神に名前があることに、レオンははっとする。
「まさかとは思うが、人の眷属がいるのか? 王太子の小僧ではあるまいな?」
「王太子? この国のリチャード王太子のことかしら? 確かに強力な火魔法の使い手だけど、生意気で傲慢だし、嫌いなタイプなのよね」
嫌悪感を隠そうともせず、ローラは顔を露骨に顰める。レオンは内心ほっとした。神が王太子を眷属にすると、リオの脅威になりかねないからだ。彼女を危険な目にあわせたくはない。
「では、誰を眷属にしたのだ?」
「眷属なんていないわよ。名前は自分でつけたの」
神は好んで自分に名前はつけない。眷属とした人間のみが神を好きな名前で呼ぶことを許される。
「酔狂なことだ。人間の世界に興味があるのか?」
「さっきから質問攻めね。そうよ。人間というよりは服飾に興味があるの。人間の作る服や飾りは綺麗だわ」
そういえばとレオンは思い出す。神は決まった姿を持たないゆえか、衣装はシンプルなものだ。服にも飾り物にも無頓着だ。ところが火の女神は美しいものに興味があった。人間の衣装を真似て、鮮やかな赤いドレスを纏っていた。
「貴方は彼女の代わりを見つけたようね。あのお嬢様はマリオンと同じ魂の輝きを持っているもの」
「代わりなどではない! リオは……」
ローラは途中まで言いかけたレオンを手で制する。
「彼女のことは私も気に入ったわ。火魔法の属性を持っていたら、眷属にしたいくらいよ」
「たとえ火魔法属性を持っていたとしても、お前にリオは渡さん!」
ぶいと顔を背けるレオンを微笑ましく見つめるローラはとても楽しそうだ。
「真剣なのね。今度こそは彼女を守りぬきなさい」
じゃあねと手を振ると、ローラは表通りへと姿を消した。
「絶対に離しはせぬ。誰にも彼女を渡すつもりはない」
誰にともなくレオンは呟く。
店からリオとマリーが出てきた。買い物を終えたようだ。レオンに向かって手を振っている。
「今度こそは必ず……我の愛しいリオ」
その声はリオには届かなかった。
明日はまた本編に戻ります。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)