159.侯爵令嬢はかつての宿敵と戦う(後編)
後編です。
シャルロッテはいまだ気を失ったままだったが、私たちが彼女の下に辿り着くと起き上がった。
「創世の神だと? おまけに神が勢ぞろいしているな。憎き神々ががん首を揃えている。くくく……。今こそ積年の恨みが晴らせる。復讐をする時がきたのだ!」
シャルロッテは白目を剥いている。彼女自身はまだ目覚めていないが、シャルロッテの体を操っている始祖は目覚めたのだ。
「復讐だと? お前たち一族は禁断の魔法を生み出して人間の世界を恐怖で支配した。罪を犯したのであれば、それ相応の報いがある」
「人間に魔法を与えたのはお前たち神だぞ。我々は魔法を進化させる過程で、偶然編み出したに過ぎん。それこそ神の奢りではないのか?」
何という傲慢さだろう。
「人間に転化した今なら分かる。それは貴方たち一族の勝手な言い草ね。神の人間への愛を利用した愚かな行いだわ」
「……リオ」
始祖は私に虚ろな目を向けると、くくくと笑う。
「人間に転化? ああ、お前は天空の女神の片割れだな? 輪廻の帯に仕掛けた罠に引っかかった愚かな女神。よくも神の記憶を取り戻したものだ」
私が輪廻の帯で神の記憶を無くしたのは、この始祖の仕業だったのだ。
「ふん! 神というものはしぶといっ!? ぎゃあああああ……!!!!!」
突然始祖が悲鳴を上げて蹲る。どうしたのだろう?
「私のお嬢様を傷つけるとは万死に値します」
「マリー!?」
マリーはにっこりと微笑むと、カーテシーをする。
「遅れて申し訳ございません、お嬢様」
その手には血まみれの暗器が握られている。
ふとシャルロッテを見ると、手を押さえていた。
よく見れば指がちぎれかけている。
「マ、マリー。あれはシャルロッテの体なのよ。やりすぎではないかしら?」
「何を仰るのですか!? お嬢様。本当は首を掻き切ってやりたいところを手加減したのですよ」
女性にあれは気の毒だ。後で指をつなげてあげることにしよう。
「くっ! ぐっ! よくも……。カトリオナぁぁぁぁぁ! あんたさえいなければ、私は王子様の花嫁になれたのに!」
「シャルロッテ?」
始祖を押しのけてシャルロッテが目を覚ました?
「小さな頃からの夢だったのよ! 私はお姫様になりたかった! もう少しで叶うはずだったのにあんたが邪魔をするから!」
「……何ですって? それが目的なの?」
私は拳を握りしめる。
「そうよ! 悪いの!」
許せない!
「そんなことのために貴女は私を貶めたの? 私の家族を巻き添えにしてまで?」
私だけであればともかく、家族を処刑する必要なんてなかったのに!?
「何を言っているのよ! あんたの家族なんて巻き込んでないでしょう」
そう。このシャルロッテはまだ家族は巻き込んでいない。
だが、人間というものは不便だ。
どうしても感情に任せてしまう時がある。
気がついたら私はシャルロッテを殴っていた。
平手打ちではなく、拳で思い切りだ。
シャルロッテは吹っ飛び、壁に叩きつけられた。
「やりすぎたかしら? でも大丈夫よ」
私は普通の貴族令嬢より力が強い。本気で殴ればシャルロッテのような女の子は吹っ飛んで当たり前だ。
「『神聖魔法』癒しの手」
鼻の骨が折れたであろうシャルロッテの顔は元通りに戻った。ついでにマリーが切った指も治してやった。
「なっ! なんであんたが癒しの手を使えるの? それは『光魔法』の癒しの力よ」
ふっと私は微笑む。
「それはね。私も光属性の魔法が使えるからよ!」
もう一度、シャルロッテを殴る。家族の分と執事長、マリーの分。一気に五発をシャルロッテの体に叩き込む。
「かっ! はっ!」
肩で息をしているシャルロッテに止めの一言を囁く。
「あのね。断頭台は苦痛を感じないから安心して」
私にこんな残酷な一面があるとは知らなかった。
もう一度、シャルロッテに癒しの手を使うと、私は踵を返す。
「カトリオナ!」
シャルロッテが光の剣を使おうとしている。
治癒がメインと思われている『光魔法』だが、実は攻撃をすることもできるのだ。
「リオ!」
レオンが私を庇うように抱き寄せる。
「レオン!」
だが、シャルロッテの光の剣は一向に発動しない。
シャルロッテの手を止める者がいたのだ。
『ロッティー。もうお止めなさい』
あの人は亡くなったはずだ。なぜ?
「テ、テレーズ……様?」
テレーズ様がシャルロッテを抱きしめているのだ。
『愛しい娘。貴女は本当は優しい子』
優しい? シャルロッテが?
テレーズ様は一度だけこちらを振り向くと、にっこりと微笑む。
「メイ。シャルロッテの魔法を無効化して」
「よろしいのですか? あの方を引き離さなくて……」
「いいの。それがテレーズさんの意志だから……」
自分ごとシャルロッテの魔法を消せと言っているのだ。
頬に熱いものが伝わる。
「分かりました」
魔法無効化は『禁断魔法』なのだ。
『禁断魔法』は『禁断魔法』を以て制す。
「『天空魔法』断罪の剣!」
メイの頭上から光り輝く剣が降りてくる。
剣はゆっくりとシャルロッテの体を貫いていく。
彼女は抵抗しない。
「お母様……」そうテレーズさんを呼んで、涙を流した。
シャルロッテが奪った『光魔法』はテレーズさんとともに消えていく。
同時にキャンベル一族の怨念も、シャルロッテの体を操っていた始祖も消えていったのだ。
役目を終えた断罪の剣が消えると、シャルロッテは糸が切れたマリオネットのように地面に倒れ伏した。
「シャルロッテはテレーズさんを慕っていたのかしら?」
「さてな。だが、テレーズを母と呼んだ時に流した涙は嘘偽りがないように思えた」
シャルロッテは最初『光魔法』を奪うためだけにテレーズさんに近づいた。
だが、ともに過ごすうちに情が生まれたのかもしれない。それこそ肉親への愛情に近いような……。
それを知る術は私たちにはない。
「シャルロッテは死んだの?」
クリスが木の枝でシャルロッテをつついている。ひどい。
「いいえ。『略奪魔法』を発動してから日が浅いようですし、テレーズという女性がシャルロッテの魂を守っていたようです」
メイが説明すると、クリスは口をとがらせる。
「そうなの。ではシャルロッテを裁くのは国の仕事ということになるわね。どうしようかしら? リオがシャルロッテを殴るのを見ていたら、気分がすっきりしたのよね」
「えっ! やだ! 見ていたの?」
「ふふふ。当然見ていたわよ。かっこよかったわ、リオ」
一時の激情に駆られてシャルロッテを殴ってしまったが、後悔はしていない。
後悔はしていないが、見られていたと思うと何とも言えない恥ずかしい気持ちになる。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)




