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冤罪で処刑された侯爵令嬢は今世ではもふ神様と穏やかに過ごしたい【WEB版】  作者: 雪野みゆ
第三部 魔法学院編

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151.侯爵令嬢はかつての処刑執行人と対峙する(後編)

後編です。

 私はウィル卿に王太子殿下はシャルロッテのスキルによっておかしくなってしまったことを、かいつまんで説明する。


「なるほど。シャルロッテ嬢は魅了系のスキルを持っていたのですか」


「ウィル卿はシャルロッテ嬢のスキルにかかっていないようですね?」


 お兄様がウィル卿に疑問を投げかける。


 そういえば、ウィル卿は大丈夫なのだろうか?


 常に王太子殿下に付き従っているので、シャルロッテといる時間が長いはずだ。


 私はこっそりとウィル卿を鑑定してみる。


『魔法属性:身体強化魔法、特殊スキル:状態異常自動解除』


 ウィル卿は特殊スキル持ちだ。『状態異常自動解除』? 初めて聞くスキルだ。


 おそらく、名のとおりありとあらゆる状態異常を解除してしまうのだろう。


「私は特殊スキル持ちですので、魅了系のスキルは効きません。ジークフリート様もシャルロッテ嬢のスキルにはかかっていないようですが、耐性をお持ちなのですか?」


「まあ、そんなところです」


 お兄様は笑ってごまかしている。


 実際は私たちに流れる桐十院家の血のおかげだが……。


「そういえば校章が魔法学院の生徒全員に配られた日、殿下の様子がおかしかったのです」


 校章が配られた日、いつもどおりシャルロッテが王太子殿下の教室へ訪ねていくと、王太子殿下は「シャルロッテ嬢。私に何か用事が?」と言ったそうだ。


 シャルロッテは何かを察したようで、王太子殿下をいつものガゼボまで引っ張っていった。


 そしてわざと自分の校章を途中で池に落として、王太子殿下の校章をくれとねだったのだ。


 急いで二人の後を追ったウィル卿は一部始終を目撃していた。


「殿下は校章を外された後、またシャルロッテ嬢のことを愛称で呼ぶようになりました」


 シャルロッテは、校章がテレーズさんのペンダントや王太子殿下のタイピンと同じ魔道具だと気づいたのだ。


「ウィル卿。シャルロッテはペンダントを身に付けていますか? 貝殻のような光沢を持った白いペンダントトップがついたものなのですが……」


「ペンダントですか? いいえ。見たことがありません」


 制服の下に身に付けているか、袋に入れてポケットに忍ばせているのだろうか?


「ウィルとやら、そのペンダントを見かけたら奪ってこい」


 ロン様が命令口調でウィル卿を脅す。


「えっ!?」


「ロン、無茶をいうな。騎士が困っている」


「しかし、シルフィ。あれは元々お前の物だ」


 ロン様の無茶ぶりをシルフィ様が窘めている。


「よく分かりませんが、シャルロッテ嬢が持っているペンダントは盗んだ物なのですね。分かりました。やってみましょう」


 ふんすとウィル卿が鼻息を荒くしている。


「あの……ウィル卿。無理をなさらなくてもいいのですよ」


「いいえ。人から物を盗むのは犯罪です!」


 うわあ。この方、熱血騎士だ。


「シャルロッテといえば、王宮舞踏会で彼女に『アントレー』を与えろと王太子殿下が仰ったそうよ。ベアトリスが激怒していたわ」


 お母様が思い出したように切り出した。


『アントレー』というのは優先的に入場することができる特権のことだ。


 本来は外国の特使、閣僚とその配偶者、王家の縁者に与えられる特権なのだが、なぜシャルロッテに?


「それはシャルロッテが王太子殿下の婚約者になるからだろうな」


 伯父様が答えるが、それは衝撃的なものだった。


「伯父様。王太子殿下とシャルロッテが婚約するのですか? 正式に決まったのですか?」


「うむ。またもや手順をすっ飛ばそうとするので今回は諫めたのだが、王命であれば文句はないだろうと。まあ国王陛下からの裁可が下りていないので、正式に決まってはいないがね」


 凝りもせず、王家からの打診をすっ飛ばしてキャンベル男爵からの了承を得た王太子殿下は、ご両親を説得しようとしたのだが、国王ご夫妻は難色を示したそうだ。


「お兄様が『光魔法』を持つ令嬢と婚約するのは王家の義務だとか訳の分からないことをわめき散らすものだから、お父様もお母様もカンカンに怒っていらしたわよ」


 クリスが呆れたような様子で王太子殿下を非難する。


「今度国法を捻じ曲げるようなことをすれば廃嫡だと、国王陛下に釘を刺されたはずなのだがね。困った方だ。王女殿下。立太子のご準備をされてはいかがかな?」


「考えておくわ」


 伯父様が冗談交じりにクリスをからかうが、冗談に聞こえない。



 ウィル卿は口実をつけて一時的に護衛の任を抜けてきたらしいので、王太子殿下の下に戻ることになった。


 彼がタウンハウスを去った後、レオンとお兄様が何やらこそこそと話していた。


「ジーク。あれで良かったのか?」


「彼に全てを話す必要はありませんよ。僕は完全に信用しているわけではないですから」


 そう。ウィル卿には全てを明かしたわけではない。


 彼には時戻り前のこととシャルロッテのスキル以外は明かさないことで、あらかじめ打ち合わせてあったのだ。


 つまり本番はこれからだ。


「シャルロッテの魔法を無効化します。チャンスは一度きりです。失敗は許されません」


 創世の神であるメイがついに決断を下す。


「王宮舞踏会で実行をするつもりか? 勝算はあるのか?」


 勝ち目はあるのかと問うレオンをじろりとメイは睨む。


「創世の神であるお姉様と私。ついでにもふもふもですが、三柱が揃っているのです。分は我々にあります」


「我をついで扱いするのか?」


 額に青筋を浮かべるレオンをメイは無視してふいと顔を背けてしまう。


「ええと。シャルロッテをまずは一人にしないといけないのだけれど、きっと王太子殿下にべったりよね?」


 場を取り繕うように私は二人の間に割って入る。


「あいつら二人をまとめておびき出せばいいんじゃないか? 王太子を押さえているうちにとっととシャルロッテの魔法を無効化すれば問題ないだろう」


 いかにもトージューローさんらしい作戦だ。


「そんなに上手くいくと思いますか? 相変わらず彦獅朗は単細胞ですね」


「何だと!?」


 トージューローさんがキクノ様を睨む。キクノ様は意にも介さないが。


 意見が食い違う人たちが続出だ。


「舞踏会場の方は私たちに任せておくれ」


 両親と伯父様はオブザーバーを決め込みだした。


「必ずしも上手くいくとは限らないから、何パターンか作戦を練ろう」


 最終的にはお兄様とクリスの三人で作戦を考えるハメになった。


 皆には後で伝えればいい。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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