表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冤罪で処刑された侯爵令嬢は今世ではもふ神様と穏やかに過ごしたい【WEB版】  作者: 雪野みゆ
第三部 魔法学院編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

173/186

150.侯爵令嬢はかつての処刑執行人と対峙する(前編)

前後編です。

 王宮舞踏会を明後日に控えた日、我が家で内輪だけのお茶会が開かれた。


 だが、これは表向きだ。


 実際はシャルロッテの魔法を無効化する作戦会議だった。


 協力者全員が集まる中、一人だけ飛び入りの参加者がいた。


「ようこそ。ウィル卿。本日は忙しいところ、ご足労いただきありがとうございます」


 王太子殿下の護衛騎士ウィル卿をお兄様が招待したのだ。


「お招きいただきありがとうございます。ジークフリート様」


 エントランスでウィル卿を迎えたお兄様を階上から隠れて様子を窺うレオンと私だ。


「お兄様。ウィル卿を説得したのかしら?」


「さてな。だが、よくやったと言うべきか?」


「ウィル卿。驚くのではないかしら?」


 何せ、王女であるクリスや宰相である伯父様だけでなく、神様までお茶会に出席するのだから……。


「そうかもしれぬが、時戻りをしているくらいだ。少なくとも否定はせぬだろう」


 ウィル卿が時戻りをしていることはお兄様が突き止め、すでに報告を聞いている。


 もしも、最初に会った時に処刑執行人が彼だと知っていたのであれば、私は怯えただろう。


 だが、時戻り前の時間軸で彼の善意を見た。それに人となりはお兄様から聞いている。


 とても真面目な騎士だと……。


 今の王太子殿下の在り様に心を痛めているという。


 王太子殿下が元に戻るのであれば、ウィル卿は協力してくれるのではないかとお兄様が言っていた。お兄様の言葉を信じてみたい。


「リオ、そろそろ行くぞ。あの騎士が応接室に行く前に待機しておかねばならぬ」


「分かったわ」


 お兄様はこう付け加えていた。


『協力してくれないのであれば、記憶を消せばいいよ』と……。


 そうならないことを祈ろう。


 私はレオンと手をつなぐと『転移魔法』で応接室へと移動した。



 ウィル卿は応接室に入るとまずは型通りの挨拶をしたが、明らかに困惑の表情を浮かべていた。


「ジークフリート様。これは一体……ご家族だけのお茶会ではないのですか? 王女殿下と宰相閣下をご招待されたのは分かります。ですが……」


 クリスは私の親友で伯父様は親戚だ。


 その辺りはウィル卿も納得したらしい。


「ご紹介しましょう。師匠とキクノ様はご存じですね?」


 壁際で腕を組んでいるトージューローさんと付き従っているキクノ様を、お兄様はにこやかに紹介する。


「はい。『風の剣聖』殿とヒノシマ国の大使殿ですね。グランドール侯爵家とご懇意にされていると伺っております」


「ですが」と神様たちを一瞥いちべつする。


 我が家とどういった付き合いがあるのか探っている様子だ。


「驚かないでいただきたいのですが、この方々は我が国の守護神様です」


 飄々として告げるお兄様だが、驚くなと言う方が無理というものだろう。


 ウィル卿は一瞬呆然とした後、はっと我に返る。


「守護神? 神々だと仰るのですか!? いや! まさか!?」


 その後は二の句が継げないようだ。


「すぐには信じられないと思いますが……」


 それは信じられないと思う。


 神がいることは信じているだろう。だが、神に会える人間は稀なのだ。


 とりあえずはウィル卿が落ち着くのを待つ。


「申し訳ございません。取り乱してしまいました」


 ウィル卿はほんの数分で落ち着きを取り戻した。さすがは王族の護衛騎士に選ばれるだけのことはある。


「それは驚くわよね。わたくしも驚いたもの」


 クリスはあまり驚いていなかったように思うのだが、気のせいだろうか?


「はい。驚きました。王女殿下はすでにご存じだったのですね。しかし、神々が姿を現されているということは、私に罰をお与えに来られたのでしょうか?」


「なぜ、そう思う?」


 聞いたのはレオンだ。


「……それは……私は時間を戻って人生をやり直しています。しかも前とは全く違う人生を……。ですので、そのことをお怒りになられているのかと……」


 ウィル卿の顔色がどんどん悪くなっていく。


 神様たちが自分に罰を与えると思っているのだ。


「そういう理由で罰を与えられるのであれば、私も同じように罰を受けないといけません」


 ウィル卿は驚きの表情を再び浮かべて、私に視線を移す。


「カトリオナ嬢が……ですか? 時戻りをしたのはジークフリート様では?」


 お兄様は首を横に振る。


「僕は一言も自分が時戻りをしたとは言っていませんよ」


「お待ちください! ではなぜ私が以前王国騎士団所属だと分かったのですか?」


「それを答える前に伺いたいことがあります。ウィル卿、貴方は時戻り前に王太子殿下の婚約者を処刑しましたか?」


 私は毅然とウィル卿と対峙する。


「……それは……。まさか!? カトリオナ嬢。貴女がそうなのですか? では『光魔法』を持つもう一人の令嬢は……」


 察しがいい人のようだ。私は首肯する。


「そうだった……のですか。私は何ということを……」


 ウィル卿はその場にくずおれる。


「ウィル卿は私のことを覚えていなかったのでしょうか?」


「……覚えておりませんでした……雷に打たれたショックでどうしても思い出せなかった。もう一人の『光魔法』を持つ令嬢を……顔も……名前すらも……忘れてしまったのです」


 顔を覆いながら、ウィル卿はぽつぽつと語り始めた。


 時戻りをした後、王太子殿下の護衛騎士になり彼に真実を話したことを。二度と悲劇を繰り返さないようにと……。


 ウィル卿の話を聞き終えた後、ちっと舌打ちをした者がいた。レオンだ。


「余計なことをしてくれたものだ。お主が王太子の小僧に余計なことを吹き込まなければ、リオは心穏やかに過ごせたかもしれぬものを……」


 時戻り前とは違い、王太子殿下がわざわざ領地まで赴いてきたのはそういうことだったのかと納得する。


 確かにウィル卿が王太子殿下の護衛騎士にならなければ、私は王太子殿下とは関わらずに家族やレオンと楽しく暮らせていたかもしれない。


「申し訳ございません。私はまた過ちを犯してしまいました。時戻り前にカトリオナ嬢の命を奪ってしまった罪悪感から、余計なことをしてしまった……」


 土下座して謝るウィル卿は声が震えている。


 彼は彼なりに王太子殿下に過ちを犯してほしくない一心だったのだろう。


「罪悪感というよりはお主の自己満足に過ぎぬ!」


 なおもウィル卿を非難するレオンを私は止める。


「もうやめて! レオン。ウィル卿は王命で仕方なく処刑執行人を務めたのよ。時戻りだって私の巻き添えになったに過ぎない。ウィル卿を責めるのは間違っているわ!」


「リオ!」


「あのね。ウィル卿には感謝しなければいけないこともあるのよ。だって、私がこういう状況に陥らなければ、ここにいる皆と会えなかったかもしれないじゃない。それは嫌なこともあったけれど、楽しいことだっていっぱいあったのよ」


 クリスと早い段階で親友になれた。神様たちと会えた。家族との絆が深くなった。本来、経験できないようなことを学べた。何よりもレオンと両想いになれたことが嬉しい。


 これらは私の宝物なのだ。


「ウィル卿。顔を上げてください。そしてお願いがあります」


 そろそろとウィル卿は顔を上げる。その顔は涙に濡れており苦悩の表情をしていた。彼はずっと苦しんでいたのだ。


「……お願いとは何でしょう?」


「私たちに協力をしてくれませんか? これは王太子殿下を元に戻すことにもつながります」


 意を決してウィル卿に願いを告げると、彼は逡巡した後、頷いた。


「私はこの手で命を刈りとってしまった令嬢にずっと償いをしたかった。私が協力することでカトリオナ嬢への償いになるのであれば、喜んで協力いたします」


「ありがとうございます。ですが償いなどと言わないでください。貴方はもう十分に罰を受けたではありませんか?」


「わたくしが雷を落として巻き添えにしたみたいだから、それでいいんじゃない?」


 あっけらかんとクリスが言い放つ。実にクリスらしい。


「えっ! あの雷は王女殿下の魔法だったのですか!?」


 ウィル卿はまたもや衝撃を受けたようだった。

本日は18時にもう一話更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ