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15.侯爵令嬢は自国の歴史に興味を持つ

フレア「また朝更新できなかったのじゃ」

ダーク「作者が遅筆なせいだな」

 塔の入り口は狭く、獅子の姿のレオンでは入ることができない。レオンはなんとか獅子の姿で中に入ろうと、顔を突っ込んでいたりしていたが、諦めたようだ。ふわっと風が吹くと青年の姿になって中に入ってきた。


「急にいなくなったから、心配したぞ。リオ」


 私の方に向かってくるので、指先の光を強くする。顔色が悪く見えるけど、光のせいかしら?


「レオン。よくここが分かったわね」


「お前の魔法の痕跡を辿ってきたのだ」


 なるほど。私が魔法を使った辺りだけ枯れ木がなくなって、草木が青々としているから、道しるべになったのね。


「我が元の姿に戻ったとはいえ、まだ瘴気が満ちているのだ。1人で行動するのは危険だ」


「『創造魔法』と『神聖魔法』が使えるから大丈夫よ」


「そういう問題ではない!」


 びくっと体が震えた。レオンがこんなに声を荒げるなんて、今までになかったことだ。怒っているのね。この森はレオンの神域だもの。本来は人間が侵してはいけない領域なのだわ。


「……ごめんなさい。レオ……」


 謝りかけた刹那、ふわりと温かいものに包まれる。レオンに抱きしめられたのだ。


「黙って我のそばからいなくならないでくれ」


 青年姿のレオンに抱きしめられるなんて初めてのことで、心臓がドキドキする。どうして? いつももふもふに包まれて一緒に寝ているのに……。


 ドキドキするけど同時に安心感もある。おずおずとレオンの背中に手を回す。私に合わせて屈んでくれているから手が届く。


「ごめん……ごめんなさい、レオン。もう黙っていなくならないから。ずっとレオンと一緒にいるから」


 レオンは抱きしめたまま、しばらく放してくれなかった。



* * * * *



 ようやく、放してくれたレオンとともにローズガーデンに戻ることにする。レオンは塔から出たら、獅子の姿に戻った。こちらの姿だと別の意味でドキドキする。もふもふしたくて……。


「リオ。森の中で何をしようとしていたのだ?」


「ローズガーデンの他にも季節ごとの花が咲く庭園が造れないかなと思って……。でも、レオンの神域を勝手にうろついたらダメだよね?」

 

 レオンはふうと安堵したように、ため息を吐く。


「ダメではない……が、1人で行動はするな」


「うん。分かった。レオン……あのね……」


 あの尖塔は何? 肖像画の女性は誰? と聞こうとしてやめた。なんとなく踏み込んではいけないと思ったのだ。


「ううん。何でもない」


「何か聞きたいことがあるのではないのか?」


「えと……この森って広いのね」


 咄嗟に別の話題に切り替える。


「……それなりには広いな。この森を元に戻すのは大変だ。手伝ってくれるか? リオ」


「もちろんよ。私はレオンの眷属だもの」


 ごまかせたかな? とりあえず、屋敷に帰ったら我が家の歴史を調べよう。お兄様が家系図とか持っているかもしれない。


 

* * * * *



 ローズガーデンに戻ると、神様たちに心配されたので、季節ごとの庭園を造りたいから、場所を探していたと説明した。


 神様たちは賛成してくれて、庭園造りを手伝ってくれるそうだ。


 日が傾く寸前に花見という名の酒宴はお開きになった。


「リオの家で二次会をするのじゃ」とフレア様はごねていたが、晩餐は家族とともに食べる約束をしているからとお断りした。



 

 晩餐の後、お兄様を呼び止める。


「お兄様、本をお借りしたいので部屋に行ってもいいですか?」


「構わないよ。でも、僕の部屋にはリオの好きそうな本はないかもしれないよ」


 後に続くマリーの方を振り向く。


「マリーはレオンを連れて、先に湯浴みの準備をしておいてくれる」


「畏まりました。お嬢様」


 マリーはレオンをひょいと抱き上げると私の部屋に向かった。手が微妙に動いているのが後ろからでも分かる。もふもふを堪能しているのね。


 お兄様の部屋に着くと本棚に駆け寄り、食い入るように見つめる。


「何か探しているものがあるのかい?」


「お兄様。我が家の歴史の本か家系図をお持ちですか?」


「写しでよければあるよ。ちょっと待ってて」


 お兄様は分類別に整理された本棚から黒い表紙の本を取り出すと、手渡してくれた。パラパラとめくると、ところどころに書き込みがある。お兄様の字だ。おお! さすがは未来の当主です。しっかり勉強されていますね。


 本を冒頭からめくると、最初に家系図が載っていた。


「お兄様。マリオン・リリエ・グランドールという方はこの家系図に載っていますか?」


「よく知っているね。二百年前のご先祖様なのに。ここだよ」


 お兄様が指差したところを見ると、確かにマリオン・リリエ・グランドールという名前があった。名前の横に当主の印がある。


「この方は女侯爵だったのですか?」


「男の後継ぎに恵まれなかったようで、2人姉妹の姉が侯爵位を継いだんだ。でも若くして亡くなってしまったから、結局、妹が生んだ男の子が次期当主になったようだね」


 我が国は女性が当主の座に就くことが、認められている。男子に恵まれなかった家は女性が継いで婿養子をとるのだ。


「この本と我が国の歴史の本をお貸しいただきたいのですが?」


 本棚から国の歴史書を取り出すと我が家の歴史書の上に載せてくれる。


「歴史に興味があるのかい? 今度、授業を一緒に受けてみる?」


「考えておきます」


 実は前世での妃教育の1つに歴史があったのだが、漠然としか覚えていない。教え方が下手な教師で、授業が苦手だったからだ。今世ではお兄様と一緒に勉強するのもいいかもしれない。


「ありがとうございます、お兄様。おやすみなさい」


「おやすみ、リオ」



 自室に戻ると、マリーが湯浴みの用意をして待っていてくれた。


「遅かったな。面白そうな本はあったか?」


「ええ。お兄様のおすすめを借りてきたの」


 本は革のブックカバーがかかっているので、内容は分からないだろう。


「さあ、お嬢様。今日もレオン様をもふもふにしましょう」


 マリーが腕まくりをして「ふん!」と気合を入れると、レオンがビクリとする。しかし観念したように浴室にすごすごと入っていく。


「もちろんよ。『もふもふを愛でる会』会員としては、毎日レオンにはもふもふでいてもらわないとね」


 私も気合いを入れると浴室に入っていった。


 猫足のバスタブにレオンを入れて、液体状の石鹸をスポンジに含ませる。ふと、いつもの石鹸と違う匂いに気づく。


「この石鹸、バラの香りがするわ」


「摘んできたバラから汁を抽出して、石鹸に混ぜたんです」


「そうなの? いい匂いだわ」


 ふふとマリーが微笑む。


「お気に召しましたか? 明日もローズガーデンでお花を分けていただきましょう」


「ええ。そうね」


 バラのジャムも作りたいし、バラの石鹸も作ってみたい。


 まずはレオンを徹底的に洗うことにしよう。きらんと私とマリーの瞳が輝き、手がわきわきすると再びレオンの体が揺れた。



「う~ん。いい匂い」


 レオンの毛並みに鼻を寄せてくんくんと匂いを嗅ぐ。バラがとてもいい香りを醸し出している。


「確かにいい香りだ。リオの髪からも同じ匂いがする」


 私もバラの石鹸を使って髪と体を洗ったのだ。髪のつやを出す香油にもバラの汁が混ぜられていた。マリーのアイデアはすごい。


「レオンとお揃いの匂いね」


 香水にも使えないかな? お母様が喜びそう。


「うむ。お揃いだ」


 湯浴みをして、ブラッシングしてもらったレオンは目を細めている。くわ~と欠伸をしているので眠いのだろう。


「そろそろ休むか?」


「少し、本を読みたいの。レオンは先に寝ていてもいいわ」


「そうか。あまり夜更かしはするな」


「分かっているわ。おやすみなさい、レオン」


「おやすみ、リオ」


 ベッドにぴょんと飛び乗ると、枕元でくるくると寝床作りをして丸くなる。すぐにすぴ~と寝息が聞こえた。早い! 今日はいろいろあって疲れたのね。


 塔の中でのことを思い出して、顔が赤くなる。青年姿のレオンに抱きしめられて、しばらく放してくれなくて……。恥ずかしさを払拭するように、ぶんぶんと顔を振ると、ソファに座る。


 マリーが用意していってくれたレモン水を飲みながら、本を読みだす。


 まずは国の歴史の本からだ。二百年前の歴史の項を開く。へえ。当時のフィンダリア王国は国情が不安定だったのね。諸国から国土を狙われて国境で小競り合いが起きていたのか。


 そういえば、グランドール侯爵領の北部は隣国と接しているわね。険しい山脈があるから、超えるのに苦労したでしょうね。今は隣国とは友好国だから戦なんて起こらないだろうけど。


 妃教育を受けていた時は、建国した時と百年前くらいの歴史しか教えてくれなかった。あの教師、手抜きをしていたわね。やっぱりお兄様と一緒に歴史の授業を受けようかしら?


 もう少し読もうと思ったけど、眠くなってきたので本を机に置くと、レオンを起こさないようにそっとベッドに潜りこんだ。


レオン「明日は朝更新できるのか?」

リオ「明日も夜更新みたい。土日に頑張るって」


ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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