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冤罪で処刑された侯爵令嬢は今世ではもふ神様と穏やかに過ごしたい【WEB版】  作者: 雪野みゆ
第三部 魔法学院編

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146.侯爵令嬢は宰相補佐官の人柄を知る

 翌日、本当に飛んでやってきた。


「伯父様……お仕事は大丈夫なのですか?」


 心配になって伯父様に尋ねると、伯父様はカラカラと笑っている。


「大丈夫だ! 優秀な補佐官がいるからな」


「大丈夫なわけがないでしょう」


 後ろから宰相補佐官であるジョゼフ・マーカスライト様がぬっと顔を出す。


「うわあああああ! ジョ! ジョ! ジョゼフ! なぜここに!?」


「朝一で決裁していただきたい書類があると昨夜申し上げたはずです。それなのに貴方ときたら、こちらにいらっしゃっているとは……」


 抑揚のない声で無表情だが、マーカスライト補佐官は怒っている。


「あ……あの……伯父様。お話はまた後日あらためてで構いませんので、お仕事を優先してください」


 マーカスライト補佐官は私に向き直ると、紳士の礼をとる。


「ご挨拶が遅くなりまして申し訳ございません。カトリオナ嬢。弟がいつもお世話になっております」


 私も慌ててカーテシーをする。


「ごきげんよう。マーカスライト補佐官様。こちらこそ、ライアン……様には、いつもお世話になっております」


 マーカスライト補佐官は無表情な顔を緩ませて、ふっと笑う。


 この方、笑った顔の方が素敵だ。


「あいつのことは呼び捨てで構いませんよ」


「ひいっ! ジョゼフが笑った!? この世の終わりだ!」


 伯父様はマーカスライト補佐官の笑みを見ると、本気で怯えていた。


「私だって笑うこともあります。失礼な!」


「しかし、お前はいつも無表情ではないか?」


「誰のせいだと思っているんですか?」


 マーカスライト補佐官が無表情なのは、伯父様のせいなのだろう。


 最初は表情が豊かだったのかもしれない。主に怒りの感情が……。


 自由奔放な伯父様に振り回されているうちに、いつしか無表情になってしまったのだと推測される。


「とにかく! 私は今日休む! 姪との話が優先だ」


 そこは仕事を優先してほしい。仮にも一国の宰相なのだから。


「誰が連れ戻しに来たと言いましたか? 書類に目を通してくださるだけで結構です。後の仕事は引き受けますので」


 マーカスライト補佐官は深くため息を吐く。


「では、さっさと書類を寄越せ」


 差し出された書類をひったくるように手にとると、伯父様は書類に目を通していく。


 書類を読むスピードが速い。


 本当に目を通しているのか心配になってくる。


「大丈夫ですよ。あれでしっかり目を通していますから不思議です。全く、あの集中力が一日持続すればいいのに……」


 疑問に思っていたことをマーカスライト補佐官が答えてくれる。


 私はそんなに不安そうな顔をしていたのだろうか?


 それともマーカスライト補佐官は心を読む力を持っているのだろうか?


「いいえ。声に出ていますから」


「えっ! 声に出ていましたか? また、やってしまった。申し訳ございません」


 私の悪い癖だ。思ったことが声に出てしまう。


 クスクスと横を向いてマーカスライト補佐官が笑っている。


「いいえ。弟が言ったとおりですね。カトリオナ嬢は思ったことが時々言葉に出るから分かりやすいと……」


「ライアンはそんなに私のことを補佐官様にお話しているのですか?」


「そうですね。よくクラスメイトのことを話してくれますよ。弟が楽しそうなので何よりです」


 弟思いのお兄様だ。ライアンがお兄様の力になりたいと言うのが分かる。


「ジョゼフ。目を通したぞ。内容はこれで良いから宰相印を押印しておいてくれ」


「承知いたしました」


 マーカスライト補佐官は伯父様から書類を受け取ると、大事そうに小脇に抱える。


「お前、今日はよく笑うな。明日は雪が降りそうだ。言っておくがリオは未来の私の娘になるのだ。お前には嫁にやらんぞ」


 伯父様が訝しそうにマーカスライト補佐官の顔を見る。


「何をバカなことを言っているんですか? 私に妻がいるのはご存じでしょう?」


「そうだな。せいぜい妻に愛想を尽かされないようにな」


「その言葉。そっくりそのまま貴方にお返ししますよ」


 二人は吐き捨てると、ふんとお互いに顔を背けた。


 仲が良いのかは知らないが、信頼関係はあるようだ。


 マーカスライト補佐官をエントランスでお見送りしてから、私は伯父様を応接室に案内する。


「マーカスライト補佐官様の奥様はどのような方なのですか?」


 結婚しているのは知っていたが、夫人にはお会いしたことがない。


「ジョゼフの魔法学院時代の同級生でな。あいつには勿体ないくらいの明るくてよく気が利く夫人だ」


「一度、お会いしてみたいです」


「そうか。社交界にデビューすれば機会があるだろう。そういえば、まもなくリオは社交デビューだな。支度は整っているのか?」


 あとひと月もしないうちに私は社交界へデビューすることになる。


「はい。お母様がいろいろと準備してくれています」


 お母様が自ら刺繍してくれた長いトレーンはすでに仕上がっている。披露されたが、それは見事な出来だった。


『サンドリヨン』に仕立てをお願いした特別な白いドレスはまもなく届くはずだ。


「エリーに任せておけば間違いはないな」


 お母様は社交界に明るい。


 きっとデビュー当日の王宮舞踏会でもあれこれとレクチャーしてくれるはずだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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