閑話・創世三神
閑話です。
遥か昔、この世界は三柱の神が統べていた。
天空の太陽の女神と月の女神、大地の神が治めていたこの世界は平穏に満ちていた。
やがて、天空と大地から派生した神々が生まれる。
光、闇、土、水、火、風、雷の七神である。
神々に守護された地には、様々な種族が住んでいたが、取り分け人間は神々を愛し、信仰した。
神々も人間を愛していたので、彼らに力を与えたのだ。
後にその力は『魔法』と呼ばれる。
力を得た人間は国を造り、神々に代わり世界を統治することになった。
そうして世界は発展していく。
人間は生まれた時から神に魔法を与えられ、神々に守護された世界は平和で美しかった。
しかし、魔法を悪い方向に使おうとする人間たちが現れる。
作り出された悪しき魔法は『禁断魔法』と呼ばれた。
だが、彼らは知らない。
『禁断魔法』を使うには代償がいることを……。
愚かな人間は、魂と引き換えになることも知らずに悪しき魔法を使い続けた。
神々の恩恵を忘れ、『禁断魔法』を得た人間たちは、平和だった世界を混沌に満ちた世界に変えてしまう。
恐怖に支配された暗黒の時代が続き、創世の神は嘆く。
人間に魔法を与えたことは間違いだったのかと……。
神は人間を直接殺すことはできない。
神々で「人間を殺してはいけない」という理を作ったからだ。
人間は愛すべきもの。神々の大切な子供たちだからと……。
そして、空を統べる創世の神々は『禁断魔法』を絶やすことを決意する。
『禁断魔法』を絶やすためには時に人間を殺めることも覚悟しなければならない。
だが、神の身ではそれは許されない。
そこで神から人間に転化することを決める。
問題はどの神がそれを成さねばならないか?
天空の月の女神は知っていた。
それを成すのは自身であると。
なぜなら、自身の姉である天空の太陽の女神は大地の神と愛し合っていた。
愛し合う二人を離れ離れにしてはならない。
月の女神は極秘裏に動く。
まずは人間を輪廻転生させるシステム『輪廻の帯』の管理を誰に託すか?
『輪廻の帯』は創世の神と呼ばれる三神にしか干渉ができないルールだ。
月の女神は考えた。
そして、あることを実行する。
この世界には、神とは別に太古から存在する種族がいた。
竜神族とハイエルフである。
特に竜神族の中には、時空間を超える能力を持つ種族がいた。
月の女神は一族から時の神として『輪廻の帯』を管理する役目を担う者が欲しいと竜神王に懇願する。
竜神王は思案した。世界が混沌としているのは、彼らとしても望むところではない。
そこで竜神王が選んだのが一人の若い竜だった。
だが、彼は幼かったので、一人補佐をつけることにする。
煌龍という名の彼の兄だ。
月の女神の最大の憂いはなくなった。
そして、人間に転化するべく、彼女は『輪廻の帯』に乗り、果てない旅を続けることになる。
残された神々は月の女神の決心を称えるとともに悲しんだ。
特に姉である太陽の女神は嘆いた。
なぜ一人で行ってしまったのか? と……。
しかし、月の女神の犠牲も虚しく、まだまだ神々の試練は続く。
『禁断魔法』でついに神の力に干渉する者が出てきたのだ。
月の女神だけでは、最早難しいと判断した太陽の女神は自身も人間に転化することを決める。
太陽の女神の決心を聞いた大地の神は、自分が『禁断魔法』を絶やす役目を担うからと彼女を止めようとした。
だが、太陽の女神は頑として譲らなかった。
「貴方は空と大地両方の神となり、他の神々と力を合わせて、自分と妹が『禁断魔法』を絶やすまで人間を見守ってほしい」と……。
しかし、彼女を深く愛する大地の神も頑として譲らなかった。
人間を何よりも愛する寛大で優しい彼女こそ、神の座に残るのに相応しいからだ。
一歩も譲らない彼に対して、太陽の神は泣く泣く大地の神から、創世の神としての記憶と自身に関する記憶を封印してしまった。
大地の神ではなく、新たに森の神としての役目を与えたのだ。
ただし、『禁断魔法』についての記憶は消さずに残した。
自身と妹、他の神々の力が奪われてしまった時の対抗手段になるからだ。
大地の神だけではなく、他の神々の記憶も封印した。
再び彼らが記憶を取り戻すとしたら、それは大地の神が記憶を取り戻した時だ。
大地の神に全てを託して、太陽の女神は人間に転化するべく、『輪廻の帯』に乗る。
ところが予期ぬ出来事が起こった。
月の女神とは別の時間軸に飛ばされ、太陽の女神としての記憶を失い、マリオンという名の人間に転生する。
おそらく、神の力に干渉することができる人間が関与しているのだろうが、記憶を失ってしまった太陽の女神には、最早知る術はない。
神の力に干渉することができたと喜んだ人間は、神というものを見くびっていた。
神の魂の核は人間とは全く異なるものなのだ。
太陽の女神は創世の神としての記憶を失ってしまったが、完全に奪うことはできない。
魂の核は覚えているのだ。
自身が遥かな昔、創世の神であったことを……。
マリオン・リリエ・グランドールは遥かな昔、創世の神の一柱であった。
それは、彼女の生まれ変わりであるカトリオナ・ユリエ・グランドールも当然そうだ。
「私は創世の神」
神の魂の核に辿り着いた時にカトリオナは覚醒する。
そして、自身が人間に転化した理由を悟った。
自身も『禁断魔法』を絶やす使命を持っているのだ。
カトリオナ・ユリエ・グランドールが創世の神の記憶を取り戻せば、もう一柱の創世の神の記憶も戻る。
「我は創世の神だったのか」
森の神として人間を見守っていた大地の神もまた覚醒した。
神でありながら一人の人間の女性を愛した理由も……。
そして、他の神々も創世の神と過ごした日々を思い出す。
長い悠久の時を超えて、彼らは再び邂逅する。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)




