14.侯爵令嬢はバラを愛でる。神様たちは酒を愛でる
昨日はお休みにさせていただきました。
今日からまた毎日更新します。
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森のローズガーデンに着くと、既に神様たちが待っていた。それぞれ好きなお酒を持ってきたようで、たくさんの酒瓶が置いてある。
「料理は宴が始まったら、出してやる。ピンポロリン」
時の神様がパタパタと飛んでくる。小さな竜の姿なので可愛い。それにしても宴って。間違いではないけど、一応お花見がメインだからね。
「リオ! 待っていたのじゃ。さあ、酒え……花見をするのじゃ!」
フレア様。今、酒宴って言いかけましたよね? 酒を飲む気満々ですね。いいですけど……。
「マリー、つまみは作ってきたのか?」
フレア様の影から既に出てきていたダーク様が期待に満ちた目でマリーに訊ねる。
「はい。たくさん作ってまいりました。料理は時の神様の空間にございます」
マリーはにこやかに時の神様へ手を向ける。
「そうか。作り立てを食べられるということだな。楽しみだ」
普段はあまり表情のないダーク様の口端が上がる。嬉しそう。
私は神様たちにカーテシーをする。マリーも倣う。
「神様方、本日はお集まりいただきありがとうございます。ささやかではございますが、料理も持参いたしました。バラを眺めながら、お楽しみくださいませ」
バラのところを強調して挨拶をしてみた。だってそうしないとただの酒宴になってしまうもの。
「じゃあ、料理を出すぜ。ピンポロリン」
できあがった状態の料理が空間から出てきた。あずまやのテーブルでは狭いので、簡易的に長いテーブルを創造して、その上に料理を並べてもらう。立食形式だ。
参加してくれた神様は、レオン、フレア様、ダーク様、トルカ様、時の神様だ。以前、突発的に現れた風の神様は来ていない。ダーク様曰く。自由気ままに旅をしているので、連絡がとれないそうだ。
「ドライアドの乙女たちよ。神々に歌を捧げよ」
レオンが命じると、ドライアドの乙女たちが木々から現れる。手を交差させ神様たちに一礼する。ドライアド式の挨拶の仕方なのだろう。
前は寝ぼけまなこでしっかりと見れなかったけど、ドライアドってきれいだな。緑の髪と瞳。裾が葉の形をした不思議な形のドレス。見惚れていると、1人のドライアドの乙女が私ににこりと微笑み、一礼する。
「リオ様。瘴気に侵されていた私を元の姿に戻していただきありがとうございました」
「ああ! 私が最初に『神聖魔法』で瘴気を払った木の……貴女はあの木の精霊だったのね」
「左様でございます」
「お前がうなされていた時に歌をうたったのも彼女だぞ」
私の隣でお座りをしていたレオンが言う。お座りしている時の腿の辺りも、もちもちしていていいのよね。おっと! もふもふタイムは後にしよう。
「あの時はありがとう! おかげでとてもいい夢を見れたの」
「お礼を申し上げるのは私の方ですわ」
ドライアドの乙女といえいえとお礼を言い合っていると、ドライアドの乙女たちの歌が始まった。彼女も慌てて歌い始める。とてもいい声だ。癒される。
ついでにもふもふもしようと思ったら、早速お酒を飲み始めた神様たちに交じってレオンもお酒を飲んでいた。器用に前足で瓶を持ってゴクゴクと水のように飲んでいる。
嗜む程度って言ってたのに。実は一番の酒豪はレオンだったりしてね。
私はせっかくバラを見るのだからと、バラの花を一枚摘むと紅茶に浮かべてローズティーにしてみた。
マリーに料理を適当にとってもらい、あずまやでのんびりとバラを愛でる。
「マリー、せっかく咲いてくれたバラたちには悪いけど、少し摘ませてもらってバラジャムを作りましょう」
「まあ! いい考えですわ。でも、バラの花は摘む時に痛みを感じたりするのでしょうか?」
「花を摘む時に痛かったかしら? ごめんなさいね」
紅茶に浮かべたバラの花に謝っていると、歌い終わったドライアドの乙女が、あずまやにやってくる。
「バラたちはリオ様のお役に立つならと喜んでおりますよ」
「バラにも精霊がいるの?」
ドライアドの乙女は頷く。
「植物には大抵、精霊が宿っております。バラの精霊は苗木に宿っておりますから、花は摘み取っても大丈夫ですよ」
「そうなのね。バラの精霊さん、ありがとう」
バラに向かってお礼を言うと、バラが答えるようにさわさわと揺れる。
「どういたしまして。と答えておりますよ」
ドライアドの乙女はふふふと笑うと、再び仲間のドライアドの乙女たちの元に戻って行く。
バラを愛でながら、レオンと作ったキッシュを食べる。野菜をたっぷり使ったので、野菜の甘みとベーコンの塩味が絶妙の味加減だ。
「うん。美味しい!」
「リ~オ~飲んでおるかなのじゃ~?」
神様たちの輪から外れて、あずまやにフレア様がやってくる。体がフラフラ揺れている。足も千鳥足だ。危ないです。
「いえ。私はまだ成人しておりませんので……」
フレア様は酔っている。酒瓶を持って、私に抱き着いてきた。顔が真っ赤になって、すっかりできあがっている。お酒くさいです。どれだけ飲んだのですか?
「今日は無礼講なのじゃ~。リオも飲むとよいのじゃ~」
私のグラスに酒を注ごうとするフレア様を止める。精神的には17歳で成人してますけど、体は7歳なのでさすがにお酒は飲めません。もっとも、成人していた前世でもお酒は苦手だった。
「やめぬか、フレア。リオが困っておる」
レオンがフレア様を私からべりっと引き離す。
「わたくしとリオを引き離すとは。嫉妬しておるのじゃろ? レオン」
「やかましい。この酒乱女神」
ぎゃあぎゃあと言い合いをしながらも、レオンとフレア様は仲が良さそうに見える。
それにしても嫉妬って? レオンが? フレア様と仲良くしている私に? レオンはフレア様が好きなのかしら?
「お前が今思っていることは違うぞ。姉ちゃんとレオンはケンカ友達ってやつだ」
後ろからダーク様がぬっと顔を出す。片手にワインの瓶を丸ごと持ち、反対の手には山盛りのおつまみが乗ったお皿を持っている。やっぱり、お酒を飲むんですね。見かけが少年なので違和感がある。
「人の心が読めるのですか?」
「心など読まずとも、お前の顔を見れば分かる」
「今、私はどのような顔をしているのですか?」
「レオンが好きって顔だ」
「もちろん、好きです。私はレオンの眷属です」
もふもふだし、いつもそばにいてくれる心優しい神様。
「…………無自覚か」
ダーク様はやれやれと肩をすくめる。チキンのハーブ焼きをもぐもぐと食べながら。
「それにしても、マリーの作る飯は旨いな。お前はあいつの主人だったな? マリーを俺の嫁にしたいと思うのだが、お前はどう思う?」
「はい!?」
驚きで素っ頓狂な声が出てしまう。いきなり、何を言い出すのだろう?
「ちょ……ちょ……ちょっと待ってください! マリーは人間ですよ。神様と人間が結婚できるのですか?」
「できるぞ。神と婚姻すれば『神の花嫁』という称号がついて、神と同じ時を生きることができる」
え? そうなの? もっと詳しく話を聞こうと口を開きかけたら、ダーク様の頭をレオンが前足でばしっと叩く。
「余計なことを言うな。ダーク」
「……痛い」
少し前のめりで躓きそうになってしまったダーク様だけど、それでも酒瓶とおつまみのお皿を手放さないからすごい。
「神の眷属になったのだから、リオは知る権利があるぞ」
「……時が来たら、我が教える。余計なことは吹き込むな」
獅子の顔でも、最近レオンの表情が分かるようになってきた。これは本気で怒っている。今はこれ以上聞かない方が得策だと思う。ダーク様も分かったと頷くとマリーの方へ行ってしまった。
* * * * *
神様たちが酒盛りで楽しんでいる間、バラを見ながら考えていたことがある。ローズガーデンだけではなく、季節ごとに花が楽しめる庭園を造ることだ。
なんとなく、レオンと気まずくなってしまったので、こっそりあずまやを抜け出し、庭園を造るのに適している場所を探しに森の中に入った。ローズガーデンの辺りは『創造魔法』で草木が青々としているが、それ以外の場所はまだ瘴気が残っているので、枯れ木でいっぱいだ。
私は『創造魔法』と『神聖魔法』を駆使して森を蘇らせながら、森の中を進んでいく。しばらくすると、開けたところに出る。
「結構、広いわね。この辺りに庭園を造るといいかも」
周りを散策していると、少し先に尖塔が見える。
「塔? 建物があるのかしら?」
尖塔が見える方向へ向かって歩いていくと、城の跡と思われる廃墟が現れた。ほとんど崩れてはいるけれど、塔だけは唯一その形を保ったまま、佇んでいた。好奇心に駆られて塔を探検してみたくなる。魔物とか住んでないよね? 魔物がいても『神聖魔法』で追い払うことはできる。前世では学園で魔法訓練があった時、魔物に遭遇してしまったことがあった。その時に『光魔法』で魔物が怯んだ隙に王太子殿下が……って! いやいや。前世のことは思い出すまい!
塔の入り口は扉が壊れていて、簡単に中に入れた。中はひんやりとしている。魔法で指先に光を灯すと、辺りが明るくなった。正面に肖像画があったので、近づいてみる。女性の肖像画だ。肖像画を見た瞬間、なぜか懐かしい感覚に捕われた。この女性を知っている? 金色の髪に紫紺の瞳。顔立ちがお父様に似ている。額の下を見ると、名前が彫ってあった。『マリオン・リリエ・グランドール』という文字が。
「グランドール? ご先祖様かしら?」
「リオ!」
私を呼ぶ声に驚いて振り返ると、塔の入り口にレオンがいた。
フレア「明日こそ朝更新なのじゃ!」
ダーク「俺は静寂な夜の方が好みだ」
ここまでお読みいただきありがとうございます(*^▽^*)