12.侯爵令嬢はあずまや(ガゼボ)を創造する
本日2度目の更新です。
トルカ様の甲羅を磨きあげた後、あずまやを創造するべく、我が家の図書室から借りてきた『建物の構造』という本を読む。
ちなみにマリーにブラッシングされたレオンの毛並みは、白銀に輝いて艶々だ。マリーは早速『浄化魔法』をブラシに付加すると徹底的にレオンをブラッシングした。もふもふを堪能しながら。
「お嬢様の御髪も明日から『浄化魔法』を付加してブラッシングいたしますね」
マリーはブラシを掲げて張り切っている。お母様譲りの白銀の髪はストレートできれいだと言われているから、私の自慢なのだ。
トルカ様の甲羅は私がブラシを創造して、マリーと一緒に綺麗に磨いた。トルカ様は喜んで水浴びしているし、レオンも毛並みが艶々になって満更でもなさそうだ。
さて、あずまやの構造は「眺望を目的とするため、壁はなく柱と屋根のみの簡素な建物である。ガゼボともいう」か。
なるほど。これなら簡単そうね。中には中央にテーブルと椅子を設置して、形は……そうね。円形にしましょう。噴水も円形だし、きっとローズカーデンに馴染むわ。
あずまや用に開けておいた区画に魔力を送りこむと、柱が円形にのび、屋根が形成される。中には丸いテーブルと囲むように椅子が並ぶ。材質は木だ。
「どうかしら?」
「素敵ですわ。お嬢様」
あずまやの中に入ると木のいい香りがする。成功だ。
「リオは刺繍などのセンスはないが、建造物にはセンスが見受けられるな」
どうせ女子力はありませんよ。刺繍をすれば、奇怪な花の刺繍になるし。でも色のセンスが求められない物づくりはわりと好きなのよね。
「ちょうどお昼ですので、昼食にいたしましょう。デザートは苺のタルトですよ」
待ってました! 苺のタルト。楽しみだな。
今日のメニューはローストビーフとレタスのサンドイッチと、卵とチーズのサンドイッチ。あとは果物とよく冷えた紅茶だ。そして苺のタルト!
創造したばかりのあずまやのテーブルに広げられた昼食はどれも美味しそうだ。苺のタルトが特に輝いて見える。
「美味しそう。いただきます!」
椅子に腰かけてから、まずはローストビーフのサンドイッチを手に取る。
「美味しそうなのじゃ! わたくしにもごちそうしてほしいのじゃ」
フレア様があずまやに入ってきた。今日も麗しいですね。
「おまえはちょくちょくではなく、毎日来ているではないか」
レオンが呆れたようにフレア様に毒づく。
「わたくしはリオに会いたいから来ておるのじゃ」
フレア様が私にぎゅっと抱き着くと、隣に座った。
「いいじゃないの、レオン。ごはんは皆で食べた方が美味しいわ」
「我の食べる分が減る」
「レオンは狭量じゃ。神のくせにケチなのじゃ」
「大丈夫です。こんなこともあろうかとたくさん用意してまいりました」
大きなバスケットを2つも持っているなとは思ったけど。さすがはマリーね。用意周到だわ。
「おい。俺にも食わせろ」
フレア様の影から闇の神様が出てくる。
「どうぞ。召し上がってくださいませ」
人数分の紅茶を用意するマリーのそばにはトルカ様もいる。
「儂にもごちそうしてほしいのだぞぞぞ」
「水の神の翁、久しぶりじゃ。海を旅していたと聞いたが、帰ってきたのじゃの?」
トルカ様は海を旅していたのか。後でお話を伺おうかな? 海は行ったことがないもの。
「うむうむうむなのだぞぞぞ。王都に行く途中、ここに立ち寄ったら、心地の良い水の気配がしたのだぞぞぞ」
トルカ様はマリーを眷属にしたこと、この噴水に住むことにしたことをフレア様に語っていた。
「リオの侍女に目をつけるとは、お目が高いのじゃ」
「この料理は美味いな。おまえが作ったのか?」
ローストビーフのサンドイッチを食べながら、闇の神様がマリーに訊ねる。
「はい。お口に合って良かったです」
「お前、俺の眷属にならないか? 毎日食事を作ってくれ」
闇の神様、それプロポーズみたいです。
「水の亀……神様……トルカ様の眷属になったので、ありがたいお話ではありますが、闇の神様の眷属になるわけにはまいりません」
「では『闇魔法』をセカンド・マナで授けてやろう。俺が人間に魔法を授けるのは三百年ぶりくらいだ」
そんなにマリーの作った料理が食べたいのでしょうか? 確かにマリーの料理は我が家の料理長直伝で美味しいけど。
「鑑定には出ないというものですね。でも『闇魔法』なんて恐ろしいものが私に扱えるのでしょうか?」
「『闇魔法』自体は怖いものではないぞ。例えば主人が危機に陥った時、影を渡って即駆けつけることができる」
またもや、マリーの耳がぴくりと動く。
「のった! 『闇魔法』をお授けください!」
闇の神様がにやりとする。確信犯だな。
「食事の後、魔法を授ける。それと俺の名前も考えておけ」
「はい。これでお嬢様が危険な時に、すぐに駆け付けられます!」
……マリー。貴女はどこに向かっているの? マリーの未来が心配になってきた。
お待ちかねの苺タルトを切り分けてもらい、一口サイズに切って口に入れた。苺とカスタードクリームの甘さと、しっとりとしたタルトの生地が見事にマッチしている。
「んん。美味しい! 苺タルト最高!」
「あの赤い実を使った菓子じゃな! 美味いのじゃ!」
「本当に美味いな。やっぱり眷属に欲しい」
「儂の眷属じゃぞぞぞ。美味いのだぞぞぞ」
「苺でこのような菓子が作れるとはな。リオ、苺をもっと創造するのだ」
神様たちは苺タルトが気に入ったようだ。今日も実をつけた状態で苺の苗を創造しよう。
* * * * *
昼食後、闇の神様がマリーに『闇魔法』を授けた。跪くマリーに闇色のオーラが漂っていたけど、大丈夫かしら?
「俺の名前は考えてくれたか?」
「はい。ダーク様はいかがでしょうか?」
「うん。いいんじゃないか。それと姉ちゃんのお気に入りの娘、リオだったか? お前にも名前で呼ぶことを許す」
ふんと胸を張って顔を反らす闇の神……ダーク様。子供が背伸びをしているみたいで可愛い。神様だから見た目どおりの年齢じゃないだろうけどね。
「ありがとうございます、ダーク様。これからよろしくお願いいたします」
マリーと揃ってカーテシーをする。
「弟! いやダークなのじゃ。姉ちゃんではなく、お姉さまと呼べといつも言っておるのじゃ!」
フレア様がダーク様の頭にげんこつを落とす。姉弟仲がよろしいですね。
「なんかいい匂いがするじゃんよ」
風に乗って声が聞こえてくる。このパターンはもしや!?
ひゅうと小さなつむじ風の中から、16歳くらいの少年が現れる。少年が顔を振ると、あちこちを向いたまとまりのない水色の髪が揺れた。
「風の神か。珍しいな。お主が足を止めるとは」
やっぱり神様だった!? どの神様も唐突に現れるよね。
「森の神? 元の姿に戻ったのか。良かったじゃんよ」
わははと豪快に笑ってレオンの背中をバシバシしている風の神様。レオンのもふもふが危機だ!
「いや。甘酸っぱい美味そうな匂いがしたから、立ち寄ったじゃんよ」
苺のことかな? 私は苺をもぎ取ると風の神様に差し出す。
「この苺の香りではないでしょうか?」
私の手に乗った苺を自らの手にとって、くんくんと匂いを嗅ぐ。
「これこれ。これじゃんよ。苺っていうのか? これ食べられるのか?」
「食べられます。よろしければ召し上がってみてくださいませ」
ひょいと口に苺を放り込むと、風の神様はかっと目を見開く。
「美味いじゃんよ! もう1つ……いや5つくらいくれ!」
急いで苺をもぐと風の神様にお渡しする。ぱくっもぐっとあっという間に完食してしまった。
「あ~美味かったじゃんよ! 馳走になった」
じゃあと手を振ると、またつむじ風が起こり、風の神様は去って行った。
「あやつは何をしに来たのだ? 相変わらず忙しいやつよ」
胡乱な目をしたレオンは、つむじ風が起こった辺りを見つめていた。
明日は夜更新となります。明後日辺りには朝更新に戻したいなあ。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)