116.侯爵令嬢はヒノシマ国へ留学する
ここからヒノシマ国編に入ります。
本日と明日は7時、12時、18時の三回更新をします。
二学年に上がる二ヶ月前のこと、私とクリスはトージューローさんとキクノ様に呼びだされた。
招かれた場所はヒノシマ国の大使館内にある貴賓室だ。
貴賓室に通されたということは対国同士の話ということだろう。
向かい側に座るトージューローさんとキクノ様は真剣な面持ちだ。
レオンは日が当たる暖かい窓際で外を眺めながら、尻尾を揺らしている。
「キクノ様、トージューロー先生、何か重要なお話があるのでしょうか?」
「貴賓室に通されたということは、ただお茶会に招待したというわけではないようね」
あまりにも二人がじっと見つめてくるので、落ち着かず視線をさまよわせる。
「察しがよろしいようで助かります。では単刀直入に申し上げます。二人ともヒノシマ国に留学しませんか?」
「「えっ?」」
クリスと声が重なる。
「実はな。うちの生徒とヒノシマ国で交換留学をしようという話が上がった。一昨日の職員会議で本決まりになったんだ」
そんな話があったのか。
「それで留学生を誰にするかということで、お前ら二人を推薦した」
「何で勝手に決めるのよ!」
クリスが抗議をするが、トージューローさんは意にも介さない。
「お前らはヒノシマ国の言葉を流暢に話せる。何せ子供の頃から俺自ら教えたからな」
トージューローさんは得意気にふふんと鼻を鳴らす。
キクノ様がこの国にやってきてからは、トージューローさんは私たちにヒノシマ国の言葉を教える役目をキクノ様に丸投げしたのだ。
ヒノシマ国の言葉が流暢になったとしたら、それはキクノ様のおかげだ。
「それにお前ら、いつかヒノシマ国に行きたいと言っていただろう?」
確かに行ってみたい。
「留学期間は一年です。一ヶ月後ヒノシマ国から交換留学生を乗せた船が到着します。あたくしたちはその船に乗ってヒノシマ国に行く手筈となっています」
「えっ! キクノ様も行かれるのですか?」
にっこりと微笑むキクノ様。そのとおりだということだろう。
「まさかトージューローも行くの?」
「俺も行っちゃいけないのかよ」
クリスが嫌そうにトージューローさんを睨むと、トージューローさんは唇をゆがめる。
「でもお仕事はどうされるのですか?」
トージューローさんは魔法学院の教師でキクノ様は大使だ。
「交換留学生と一緒に代理の者が来ますので、あたくしたちが一時帰国しても大丈夫です」
「リオ、どうする?」
「クリスこそ、どうする?」
互いに顔を見合わせる。
「「行きたいよね!」」
「じゃあ決まりだな。お前らの両親の承諾はとってある」
仕事が早い! いつの間に……。
「両親は何か言っていましたか?」
「『可愛い子には旅をさせろ』と快く承諾してくださいましたよ。クリスのご両親も同じことを申されていました。ご理解のある親御さんですね」
うちの両親は好きなように自分の人生を生きろと言ってくれていた。
「一ヶ月後に出発だ。支度をしておけ。荷物はコンパクトでいいぞ」
「キクノ様、レオンを連れて行ってもいいですか?」
以前、ヒノシマ国には八百万の神様がいると話していたのを思い出す。
キクノ様の生家が祀っている神様が『神だと知られると厄介だから神気を抑えておけ』と話してくれた。
他国の神がヒノシマ国に行くのはまずいのではないだろうか?
「構いませんよ。ダメだと言ってもレオンはついてくるでしょうから」
「無論だ!」
窓際で日向ぼっこをしているレオンから返事が返ってくる。
「あたくしが神気を抑えることができるのですから、当然! レオンもできますよね?」
当然のところを強調した。
「当たり前だ!」
レオンはキクノ様にシャー! と威嚇している。
「それとマリーも同行していただきましょう。お二人の世話をする侍女が必要です」
「えっ! マリーもですか? ありがとうございます。きっとマリーも喜びます」
ヒノシマ国の言葉は私がトージューローさんやキクノ様に教えてもらっている間、マリーも聞いていたので自然と覚えたそうだ。
マリーもいつかヒノシマ国に行きたいと言っていた。忍の者に会ってみたいそうだ。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)




