閑話・宰相の暗躍
宰相視点です。
王太子殿下に姪のリオを婚約者にと申し出られた時は正直驚いたが、彼女の幸せを考えると良い話だと思った。
私には娘がいないのでリオのことは本当の娘のように思っている。妹のエリーの子どもの頃にそっくりな素直で可愛い姪。誰よりも幸せになってほしい。
「しかし、リオの魔法属性は土属性の『植物魔法』と聞きました。殿下は光または闇属性のご令嬢を探しておられるとお聞きしておりますが?」
アレクからの便りで王太子殿下の『鑑定眼』でリオの魔法属性を鑑定してもらったことは知っている。
「確かにそうだが……。私は先日グランドール侯爵領に訪問した時に確信したのだ。私は……その……リオが好きだ。このまま光または闇属性を持つ令嬢がいなくても構わないと思っている」
それほどまでに王太子殿下がリオのことを想ってくれているのであればと、私は王太子殿下の申し出を快く引き受けた。
我がポールフォード公爵家は王族の血をひいている。エリーの子であるリオにも同じ血が流れているので、血筋は申し分ない。
むしろ、王太子殿下の婚約者として相応しいだろう。
それから二年後、リオは十歳になり魔法属性判定の儀式を受けるために王都にやってきた。
魔法属性判定の儀式の日は、国王一家が不在だった。今年はクリスティーナ王女殿下が魔法属性判定の儀式を受けるからだ。代わりに私が執務の補佐をしないといけなかったため、残念ながら出席することができなかった。
本音を言うと、姪の晴れ姿を見たかった。
優秀な宰相補佐官に任せればよかったかな?
宰相執務室を訪問してきたグランドール侯爵一家に会うのは、実に二年と少しぶりか。
アレクとエリーは相変わらず仲が良い。ジークは背が伸びて少し大人になった。リオも背が伸びて、ますますエリーに似て美しく成長している。
そして初めて会うメイは可愛い。とにかく可愛い。
堪らずメイを抱っこしたリオごと膝の上に乗せた。天使が二人、私の膝の上に乗っている。至福のひとときだ。
余談だが、なぜ私には娘が授からないのだろうか? 昨年授かった三人目の子も男の子だった。我が子は可愛い。だが、娘が欲しい。まあ、いい。その分姪たちを思う存分、愛でることにしよう。
ジークがリオをお茶会の会場へエスコートし終わって帰ってきた頃、しばらくすると王太子殿下が宰相執務室を訪れてきた。
「ジーク、来ていたか? クリスの様子を見に行くので付き合ってほしい」
「いいよ、リック。行こうか?」
王太子殿下とジークは愛称で呼び合うほどに仲が良い。王太子殿下の友人と言っても差し支えないだろう。
「私もお供しましょう。アレクとエリーはここでゆっくりしているといい。ジョゼフ二人を頼むよ」
「承知いたしました」
ジョゼフは無表情で答える。ジョゼフは優秀なのだが、表情が乏しいのが欠点だな。
王太子殿下とジークはまず王女殿下がいる席へ向かう。リオも王女殿下と同じテーブルだ。若者たちの邪魔をしてはいけないので、私は近くの木陰から様子を窺うことにする。
リオに向ける王太子殿下の眼差しは愛し気だ。真剣にリオのことを想っているのだろう。
王太子殿下に話しかけられたリオは白銀の長いまつげを少し伏せて、頬に少し朱が差している。
もしかしてリオも王太子殿下が好きなのだろうか?
王太子殿下は王妃殿下に似て流麗な顔立ちをしているので、ご令嬢方は皆王太子殿下に夢中だ。リオも惹かれているとしても不思議ではない。
最後のテーブルでどこかのご令嬢が粗相をして泣き出してしまったので、王太子殿下とジークは早々に切り上げてしまったようだ。
ふむ。王太子殿下が十五歳になってもまだ気持ちが変わらず、リオを好いてくれているのであれば、婚約の話を進めることにするか。
婚約の発表をする際にはサプライズをさせていただくことにしよう。
◇◇◇
今年は忙しくて可愛い甥と姪に会うことができなかった。
せっかく姪のリオが魔法学院に入学したというのに直接祝うこともできない。
ジョゼフめ! ここぞとばかりにハリセンを手に目を光らせている。
おかげで抜け出すこともできない。
宰相補佐官のジョセフ・マーカスライトは優秀だが、真面目すぎる。
だいたい、宰相の私にハリセンなど、不敬にも程がある!
だが、ジョゼフに罰を与えると私が困るのだ。
最近はクリスティーナ王女殿下がちょくちょく遊びに来ていた。リオに会えないので王女殿下が癒しとなっていた。
だが、夏の離宮に行ってしまい、毎日ジョゼフとにらめっこだ。面白くない。
ヒノシマ国との外交が始まってからはさらに忙しくなった。いずれはかの国を訪問しなければならないだろう。
いろいろと問題はあるが、ここが正念場だ! 耐えなければならない。
すべては今年の王宮舞踏会のためだ。
夏休みが明けたある日、王太子殿下が執務室を訪れてきた。
「ポールフォード宰相。計画は順調か?」
「はい、殿下。婚約発表の準備は整いました。ですが、本当にリオの両親へ事前に話さなくてもいいのですか?」
普通、婚約を結ぶ時は両家の両親で話し合いをするのだが、サプライズなので事後承諾となる。
「母上とグランドール侯爵夫人は親友だ。何とでもなる。婚約式の書類までは用意をしたい。頼めるか?」
姪の幸せのためだ。何としてでも王太子殿下の期待に応えなくては!
「承知いたしました」
ひとまず、間に合わない仕事はジョゼフに回すとするか。
むっ! ハリセンを片手に睨んでいる。
さて、社交シーズンに入った。いよいよだな。
「ジョゼフ、王女殿下に見られないように婚約関係の書類は隠してあるな?」
「金庫に保管してあります」
「金庫のカギは?」
ジョゼフは懐からカギを取り出す。彼の懐にあれば大丈夫だな。
王太子殿下の婚約はこれで用意ができた。
あとは当日を待つだけだ。
ふむ。サプライズ方法の予習でもしておくとするか。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)




