10.侯爵令嬢は光の女神から贈り物をもらう
光の女神・フレア様の口調がとあるゲームのキャラに被るとの指摘を受けましたので、大幅に改稿しました。ゲームはあまりやらないので、そのゲーム自体は知りませんでした。
著作権に違反する可能性もありますので、急いで改稿してみました。ご了承願います。
苺の苗を創造することに成功したので、実がなった苗からは苺をもいでいく。この苺を使ってマリーが明日のおやつに苺タルトを作ってくれるらしい。今から楽しみだ。
屋敷に帰る途中、マリーが唐突に口を開く。
「カトリオナお嬢様。ご家族には時を逆行したことをお話しになられないのですか?」
「う~ん。突拍子もない話だから信じてもらえるかどうか分からないし」
「旦那様も奥様もお嬢様のお話を信じてくださると思いますよ。ジークフリート様だって……」
「できれば家族は巻き込みたくないの。前世では私のせいで死なせてしまったから。マリー貴女も……」
マリーは私の前に回り込んで、腰に手を当てる。
「同じことになれば、私は命をかけてお嬢様をお助けします。それにご家族を処刑したのはあのカス王太子ですよ」
仮にも王太子にカスって……。不敬よ。私も同じことを思ってはいるけどね。
「ありがとう、マリー。まだ時はあるし、話すかどうかはじっくり考えることにするわ」
「話す時が来ましたら、教えてくださいね。私も僭越ながらお力になります」
レオンがふふふと笑う。
「レオン、どうしたの?」
「いや。良い主従関係だと思ってな」
そういえば、マリーはどうしてここまで尽くしてくれるのかしら? 執事長を助けたのが私のお父様だから? お父様の娘だから?
私の疑問にはマリーが答えてくれた。
「私はお嬢様がお生まれになった時から、このお屋敷におります。生まれたばかりのお嬢様はまるで天使のようでした。あまりにお可愛いので、つい指を出してしまったら、私の指をお嬢様がぎゅっと握ってくださったのです」
父には叱られましたけどねと、マリーは舌をぺろっと出す。
「奥様が『この子は貴女のことが好きなようね』と仰ったら、お嬢様は答えるように微笑まれたのです。一目惚れでした。この方は一生私がお守りしようと思いました」
一目惚れって……。女同士でいけないわ。マリーは天然ちゃんだから、そういう意味で言ったわけではないと思うけどね。
「良かったな、リオ。お前を愛する人間はたくさんいる」
「レオンも私のことを愛している?」
「もちろんだ」
「ありがとう。私もレオンが大好きよ!」
レオンの額に唇を落とす。毛で覆われているけど、気にしない。
「ませているな。お前は……」
ふいとレオンが横を向く。あれ? 照れてる?
「お嬢様。私は?」
「マリーも大好き!」
背伸びをすると、マリーが私に合わせてかがんでくれる。柔らかい頬に口づけをしたら、嬉しそうに微笑んだ。
* * * * *
フレア様は意外と早く私の元にやってきた。
フレア様にお会いしたその日の夜、本を読みながら部屋でくつろいでいると、窓をこつこつと叩く音がするので、カーテンを開ける。
金色の美しい鳥が嘴でこつこつと窓をつついている。
「わあ。綺麗な鳥さんだわ」
「むっ! 光の神か?」
レオンの言葉に驚く。ええ!? この鳥さんはフレア様なの?
急いで窓を開けると、金色の鳥は優雅に部屋の中に舞い込み、人型になった。本当にフレア様だった。
「は~い。リオ。来たのじゃ!」
「こんな夜更けに来るとはな。非常識なやつだ」
思いきり顔を顰めているレオン。かなり不機嫌そうだ。
「神には夜も昼もないのじゃ」
「フレア様は鳥のお姿なのですね」
「神には決まった姿はないのじゃ。森の神……今はレオン? だったかの。彼も人型になれるはずなのじゃ」
くるりとレオンの方を向く。
「本当なの? レオン、ちょっと人型になってみせて」
「あまり人型は好かん」
「そんなこと言わないで。ちょっとだけでいいから。お願い!」
手を合わせてレオンを拝みたおす。むうと唸ると「ちょっとだけだぞ」と立ち上がる。
ふわっと包み込むような風が吹くと、人型が現れる。白銀の髪に青と金のオッドアイ。長身の美しい青年だ。
「……レオンなの?」
「そうだ」
綺麗。レオンは人の姿になっても綺麗だ。しばらく見惚れてしまう。
「リオはこちらの方が好みか?」
「人の姿も綺麗だけど、もふもふの方が好き」
ふっと笑うと「そうか」と小さな獣の姿に戻る。
「わたくしは人の姿の方が楽なのじゃ」
「光の神。まさかここに居座るつもりではあるまいな?」
「フ・レ・アなのじゃ! 居座るつもりはないが、ちょくちょくリオには会いにくるつもりではいるのじゃ」
ちょくちょくですか? いや。いいけど。フレア様は綺麗だから目の保養になるし、それに仕草が可愛いから、見ていて飽きない。
「ふん! ここに来る時は鳥の姿でいろ」
「どうしてなのじゃ? 人の姿でもいいと思うのじゃが?」
フレア様はぶうと頬を膨らませる。
「お前はよくても、人の世界、特に貴族の世界は人づきあいにうるさいのだ。獣の姿の方が余計な説明がいらんからな」
「ふむ。人の世界はめんどくさいのじゃ。でも分かったのじゃ!」
別にうちの両親ならフレア様は遠い国からやってきた尊い人ですとか言えば……。う~ん。無理があるなあ。
「リオ。『神聖魔法』を授けるのじゃ。そこに跪くのじゃ」
「はい」
レオンの眷属になった時と同じように膝をつき、手を組み合わせる。
フレア様が私の頭に手をかざすと、魔力が流れ込んでくる。
「これでリオは『神聖魔法』を使えるようになったのじゃ。セカンド・マナにしておいたから、鑑定では分からないのじゃ」
「ありがとうございます。フレア様。ところでお聞きしたいことがあるのですが?」
先を促すようにフレア様はうむと頷く。
「フレア様は私の他に光魔法を授けた人間はいるのでしょうか? シャルロッテ・キャンベルという名前に覚えはございますか?」
う~んとフレア様は考え込む。
「リオ以外の人間に光魔法というか神聖魔法を授けたのは百年前じゃからの。そのシャルロッテという人間も知らないのじゃ」
「でも、前世でシャルロッテは光魔法を使っていたのです」
「それはおかしいのじゃ。わたくしはリオ以外に神聖魔法を授ける気はないのじゃ」
「俺が調べてきてやろうか?」
フレア様の影からぬっと黒髪の少年が出てくる。
「わっ! 影から人が出てきた!」
少年はむっとすると、フレア様の影から完全な姿を現す。黒い髪に黒い瞳。着ているものまで黒一色だ。
「俺は闇の神だ。そこの光の神は俺の姉ちゃんだよ」
「闇の神様!?」
フレア様は少年……闇の神様の頭をこつんと叩く。
「姉ちゃんではなく、お姉さまと呼ぶのじゃ!」
光と闇の神様は姉弟神だったのね。今日は驚きの連続だ。
「気になるんだろう? 姉ちゃん……じゃなかった姉上。そのシャルロッテって娘を調べてきてやるよ」
「うむ。頼むのじゃ」
頷くと、闇の神様は私の方に指をつきつけて「言っておくが、お前のためじゃないからな!」と言い放つと、とぷんと影の中に消えていった。
あれ? ツンデレ? 闇の神様はシスコンね。気持ちは分かるわ。私もお兄様が大好きだもの。
「闇の神様はフレア様の弟君なのですか?」
「光の神と闇の神は表裏一体だ。闇の神はたいてい光の神の影で引きこもっている」
レオンが答えてくれた。おおう。闇の神様は引きこもりなのね。
「あやつは影を渡る魔法が使えるのじゃ。リオの知りたい情報を、きっと集めてきてくれるはずじゃ」
闇の神様は諜報活動に向いていそうね。
* * * * *
「そうじゃ! リオにお土産を持ってきたのじゃ」
「お土産ですか?」
神様のお土産って何だろう? 準備するって言っていたのはこのことかしら?
フレア様が斜めがけにしていた小さな鞄から、ピンクのリボンがかかった箱を取り出す。
「可愛くラッピングしてみたのじゃ」
得意気に胸をはるフレア様。ふふ。こういう仕草が可愛いのよね。
「リボン可愛いです。このリボンもいただいてもよろしいですか?」
「もちろんじゃ。箱を開けてみるといいのじゃ」
「びっくり箱ではないだろうな」
レオンが胡乱な目で箱を見ると、失礼なことを言う。
「そんなものはレオンにしか仕掛けないのじゃ。安心するといいのじゃ」
むむと顔を顰めるレオン。フレア様……。レオンにはびっくり箱をプレゼントする気だったんですね。もう一つ箱を持っているもの。
わくわくしながらリボンを解くと、箱を開けてみる。
「わあ! 綺麗!」
中には金の鎖のブレスレットが入っていた。等間隔に小さな金細工の可愛い花がついている。
「そのブレスレットを付けていれば、鑑定眼と同じように人間のステータスを見ることができるのじゃ」
「え? そんなすごいものなのですか? そのような希少なものを私がいただいても構わないのでしょうか?」
フレア様はひらひらと手を振る。
「リオに贈りたかったから、構わないのじゃ。レオンはリオに何か贈ったのかの?」
ちろっと意地悪くレオンを見るフレア様。レオンはふいと顔を背ける。
「……そのうちに贈るつもりでおる」
え? レオンも私に贈り物をしてくれるのかしら?
「姉ちゃん、行ってきたぞ!」
闇の神様がフレア様の影から再び現れる。
「うむ。どうじゃった?」
腕を組むと闇の神様は難しそうな顔をする。
「シャルロッテっていう人の子は『無属性』だったぞ」
え? 光属性じゃなくて無属性? そんなバカな!?
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)