9.侯爵令嬢は他の神様と出会う
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声の主は木の上から降りてきた。輝く黄金の髪と瞳の美しい女性だった。
「その赤い実、美味しそうなのじゃのん。わたくしにも食べさせて欲しいのじゃのん」
話し方がおかしい。語尾に「のん」がついている。口ぐせだろうか? 邪気はないので、魔物ではないだろう。むしろ神々しい。
「……はい。どうぞ」
女性にもぎ取ったばかりの苺を恐る恐る差し出す。口を「あ~ん」と開けたので、食べさせろってことかな? 口に苺を持っていくと、ぱくっとかぶりつく。
「んん。美味しいのじゃ……のん!」
頬に手をあてて、飛び跳ねている。本当に美味しかったのね。なんか可愛い。
「あの……貴女はどなたでしょうか?」
「わたくし? わたくしは……」
「光の神だ」
女性が言い終わる前に、レオンが言葉を遮る。警戒の体勢をしていたのに半眼になっている。あ。これ呆れた顔だ。
「「ええっ!?」」
マリーと私は同時に驚きの声をあげる。
「森の神は相変わらず無粋なのじゃ……のん。わたくしは光の女神なのじゃ……のん」
ふんとレオンが鼻を鳴らす。
「お前は相変わらず気まぐれなようだな。木の上から声を掛けられたら、リオが驚くだろう。まともに姿を現せ」
光の女神様はすたすたとレオンの元に歩いていくと、額を小突く。
「今日は森の神に文句を言いに来たのじゃ……のん」
「分かっている。リオのことだろう?」
むむと顔を顰める光の女神様。でもその仕草は可愛い。
「その子はわたくしが眷属にしようと思っていたのじゃ。横からかっさらうなんてひどいのじゃ!」
ひえええええ! これ、お怒りモードだよね? でも、眷属にされると、破滅ルートまっしぐらだ。ていうか「のん」とれてますけど? 本当は言いにくいのでは?
「あ……あの。光の女神様。聞いてほしいことがございます。マリーにもいつか話すと言ったことがあるでしょう? 聞いてくれる?」
マリーは「もちろんでございます」と頷いてくれる。レオンに顔を向けると「やむを得んな」と納得してくれる。
「うむ。聞くのじゃ……のん。話してみるといいのじゃ……のん」
レオンに語ったことを、光の女神様とマリーに同じように語った。語り終えると、光の女神様とマリーは同時に私に抱きついてきた。
「可哀想なのじゃ! 人間はひどいのじゃ!」
「無実のお嬢様を処刑するなんて……王太子殿下はカスです!」
2人とも号泣している。そういえば、レオンも号泣していたな。神様って涙もろいのかしら?
「信じてくれるのですか?」
光の女神様の私を抱く力が強くなる。痛いです。
「当たり前なのじゃ! リオの魂は綺麗なのじゃ。嘘つくはずはないのじゃ!」
マリーも力強く頷くと、抱く力がさらに増す。
「お嬢様の言うことに偽りがあるはずがございません! マリーは何があってもお嬢様の味方です」
うう。ありがたいけど、苦しい……。レオンに助けてと目で訴える。
「いい加減、リオから離れろ。光の神よ。苦しがっているだろう」
くるりとレオンに顔を向けると、光の女神様はにやりと笑う。涙はどこにいった?
「羨ましいのじゃ……のん? でもわたくしもリオを気に入ったのじゃ。そういう理由があるのなら、神聖魔法をセカンド・マナにするといいのじゃ……のん」
「セカンド・マナって何ですか?」
ふふと光の女神様が笑う。
「セカンド・マナとは名のとおり、二つ目の魔法属性のことだ」
「二属性の魔法を持つこととは違うの?」
レオンは首を縦に振る。肯定の意だ。
「マナとは失われし言葉で人間が秘めている魔力のことだ。神は秘められた力を引き出し、いくつかの属性を授けることも可能なのだ」
「わたくしが説明しようとしていたのに、美味しいところを持っていったのじゃ! 森の神はいけずなのじゃ!」
光の女神様がきぃぃぃと怒っていらっしゃる。レオンはふふんと鼻を鳴らしていた。この神様たち仲が悪いのかしら?
「セカンド・マナはファースト・マナが『創造魔法』になっている限り、人間の鑑定眼では見抜くことはできないのじゃ……のん。でも『神聖魔法』も使えることができるから安心していいのじゃ……のん」
よく分からないけど、鑑定では『創造魔法』としか出ないのね。あ。ロストマジックだから『土魔法』か『植物魔法』か。『神聖魔法』も使うことができて便利ってことかな?
「王太子の小僧は鑑定眼を持っていたな。あれは油断のならない小僧だ」
そういえば、鬼畜王子も鑑定眼を持っていた。あれ便利よね。私も欲しいかも。
「それにしても、時を逆行するなんてあり得るのでしょうか?」
泣き止んだマリーがハンカチで鼻をふきながら、聞いてくる。
「ん~。時の神なら何か知ってるかもしれないのじゃ……のん」
「呼んだか? ピンポロリン」
何もない空間から黒い竜の顔が出てくる。大きい!
「「「きゃー!」」」
女性陣の悲鳴が森に響く。
「時の神か。何もないところから出てくるな。まずはミニサイズになって出てこい」
レオンは冷静なのじゃ……のん。あ。光の女神様の口ぐせがうつった!
「分かった。待っていろ。ピンポロリン」
ポンという音がすると、子猫くらいの小さな黒い竜が現れた。首に時計を下げている。
「これでいいか。ピンポロリン」
「か……可愛い!」
「褒めるなよ。照れるぜ。ピンポロリン」
竜……時の神様はテヘヘと頬をかく。爪が鋭利なので「いてっ!」と言っている。うん。そうなるよね。
「……そのピンポロリンって何ですか?」
「口ぐせだ。気にするな。ピンポロリン」
ものすごく気になります。神様って変な口ぐせをつけるのがステイタスなのかな? レオンがものすごくまともな神様に見える。もふもふだし。
「俺に用があるのか? ピンポロリン」
時の神様にも時を逆行をしたことを語る。聞き終えた後、だーと涙を流す時の神様。やっぱり神様って涙もろいんだ。
「ぐすっ。たぶん、輪廻の帯に亀裂が入っていたんだな。ぐすっ。ピンポロリン」
「輪廻の帯なんてあるんですか?」
「うん。ぐすっ。人間は死を迎えると魂が輪廻の帯に乗って、次の生にたどり着くんだ。ぐすっ。滅多にないことだけど、亀裂が入っていると歪に落ちて、時が戻ることがある。ピンポロリン」
輪廻転生って本当にあるのね。
「なるほど。リオはその亀裂に落ちて時が戻ったのじゃのう」
語尾が「のん」じゃなくなった!? 本当はそっちが素なんじゃないかしら?
でも、これで時が戻った理由が分かった。その亀裂に感謝する。だって時が逆行しなかったら、レオンに会えなかった。
「俺は輪廻の帯を点検してくる。また会おうな。リオ。ピンポロリン」
時の神様は元のとおり何もない空間に戻っていった。
「時の神様って別の空間にいるの?」
「正しくは時空間だな。あやつは過去と未来を行ったり来たりして、輪廻の帯を管理しておるのだ」
「わたくしは神の世界にいるのじゃ……のん。でもリオがいるなら人間界にいてもいいのじゃ……のん」
「いや。帰れ」
レオンが冷たく言い放つと、光の女神様は私に泣きついてくる。
「森の神がいけずなのじゃ!」
「レオン。光の女神様をあまりいじめてはダメよ。男性は女性に優しくしないと」
むうとレオンがうなる。
「甘やかすなよ。リオ。そやつは気まぐれだ」
「森の神はレオンと呼ばれているのかの? そうだ! わたくしにも名前をつけるといいのじゃ!」
ぱっと顔を上げるともう涙が止まっていた。本当に気まぐれかも? それにしても光の女神様の名前か。しばらく思案する。
「では、フレア様はいかがでしょうか?」
「フレア。うむ。いい響きなのじゃ……のん。気に入ったのじゃ……のん」
うふふと頬を染めて微笑んでいる。嬉しいのかな?
「気に入っていただけて何よりです。よろしくお願いいたします。フレア様。それと無理してのんをつけなくてもいいですよ」
「うむ。よろしく頼むのじゃ。時の神がピンポロリンとか可愛く語尾につけるから、わたくしも可愛い語尾がつけたかったのじゃ」
時の神様のピンポロリンが羨ましかったのか。言いにくいと思うんだけど……。
「フレア様はそのままでも、お美しいので普通にお話くださいませ」
「リオが褒めてくれたのじゃ。嬉しいのじゃ! 元の話し方に戻すのじゃ」
ぴょんぴょんと噴水の周りを飛び跳ねるフレア様は可愛い。
「初めから普通に話せばよいのものを……」
ふうとレオンがため息を漏らす。
「それでは、準備をしたらまた来るのじゃ。その時に『神聖魔法』をあらためて授けるのじゃ」
光の女神……フレア様はとうと飛び上がると消えた。
「二度と来なくてもいいぞ」
レオンがフレア様が消えた方向に毒づく。それにしても準備って何かしら?
個性的な神様ばかりです。これからもいろんな神様が出てくると思いますが、個性的なんでしょうね。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)