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冤罪で処刑された侯爵令嬢は今世ではもふ神様と穏やかに過ごしたい【WEB版】  作者: 雪野みゆ
第三部 魔法学院編

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91.侯爵令嬢はオリエンテーション後の打ち上げパーティーに参加する

 結局、クリスとお兄様を連れてシルフィ様とロン様に地上へ戻るようにお願いをした。私たちは秘密裏に動いていたので、他の生徒たちに知られるとまずいのだ。


 私たちはロン様の転移魔法陣でダンジョンの入り口に戻った。


「それで、またここから学院まで転移する気か?」


 三度目ともなると、トージューローさんは転移の浮遊感に慣れたようだが、うんざりとしていた。


「いいえ。こんなに早く帰れると思っていませんでしたので、帰りの分の転移魔法陣は用意していないのです」


「まあ、予想外だったからな。歩いて帰るか?」


「その必要はない。フレアいるか?」


 レオンが呼びかけると、フレア様が空中からぽんと姿を現す。


「何じゃ? いきなり呼びつけるのではないのじゃ! ん? リオなのじゃ! 久しぶりなのじゃ!」


 フレア様は私の姿を見ると、抱き着いてきた。


 何か既視感デジャヴを感じる。


「フレア様。お久しぶりです」


 レオンの魂胆が分かったかもしれない。



 そして、こうなる。


「わたくしをタクシー代わりにするとはあんまりなのじゃ!」


 金色の鳥の背に乗って、魔法学院へ帰還中だ。金色の鳥はもちろんフレア様だ。


「だいたい、レオンが乗せていけばよいのじゃ!」

 

 夜空に金色の鳥は目立つが、まだ世の人々は眠りの最中だ。


「我では三人は乗せられぬからな。鳥のおまえの姿ならばいけるかと思ってな」


「ふふ。フレアは力持ちですね」


 レオンとキクノ様は言いたい放題だ。いくら同じ国の神様仲間でもフレア様がかわいそうだ。


「なあ、ユリエ。タクシーって何だ?」


「異世界の乗り物です。こちらでは辻馬車が近いと思います」


 トージューローさんは「ふ~ん」と首を傾げる。いまいち納得していないようだ。


「フレア様、申し訳ありません。寮に帰れば、マリーが用意をしてくれた軽食がありますので、よかったら食べていってください」


「何!? ご飯が出るのじゃ? 眷属のリオの頼みならば断われないのじゃ!」


 フレア様がスピードをあげる。


 「案外、チョロいですね。フレアは」


「こやつは単純だからな」


 帰ったら、私だけでもフレア様を思い切り労おう。



 何がどうして、こうなった?


 寮に帰ると、マリーが起きて待っていてくれた。


 探索が何日か続くことを見越して、軽食はまだ私の空間に入っている。


 それを取り出し、フレア様に振る舞おうとしたら、思わぬ来客があった。


 シルフィ様とロン様だ。それと隣室のクリスだ。食べ物と聞いて、フレア様の影から出てきたダーク様まで乱入してきて、大騒ぎだ。


「そのサンドイッチはわたくしのじゃ!」


「まあ、こちらのお菓子も美味しいですね」


 このフロアにはトリアとアンジェがいる。悟られないように結界が張られているのだが、気づかれるのではないかと冷や汗が出ているのは私だけのようだ。


「お嬢様、材料がなくなってしまいました」


「一度、タウンハウスに戻りましょうか?」


 食いしん坊さんがたくさんいるので、作り置きの軽食はおろか、マリーに調達してもらった材料までなくなってしまったのだ。


「家に帰るのか? 『転移魔法』で送ってやろうか?」


 私とマリーの会話を聞いていたロン様がそう申し出てくれた。


「でも、タウンハウスには転移魔法陣はありませんよ」


「俺は魔法陣なしでも転移できる。心配するな」


 竜神族、恐るべし!



 タウンハウスへはシルフィ様とロン様、レオンとマリーと私のみ戻った。


「忘れていたが、ユリエにこれを渡したかったのだ」


 シルフィ様は懐から袋を取り出す。


「何でしょうか?」


 袋を受け取り、中を見ると銀色に光る鱗が二枚入っていた。


「もしかして逆鱗げきりんですか?」


「そうだ。残念ながら二枚しかないのだが」


 申し訳なそうなシルフィ様だ。


「とんでもありません。貴重なものをありがとうございます」


 シルフィ様の顔がぱあと輝く。


「ユリエが喜んでくれたぞ。ロン」


「良かったな。シルフィ」


 シルフィ様を見つめるロン様の瞳は優しい。


「シルフィから大方の話は聞いていたが、面倒なことに巻き込まれているな」


「面倒ごとに巻き込んでしまったのは私なのです」


「リオ、気にするな。ロン! 余計なことを言うでない!」


 ロン様はぽかんとしている。


「本当に変わったな、レオン。ユリエ、困ったことがあれば言うといい」


 頭を撫でてくれるロン様だ。


「シルフィ、荷物を運んだら、俺たちは失礼しよう」


「まだ、食い足りないのだが……」


 シルフィ様が名残惜しそうだ。帰り際に何かお土産を渡そう。



 寮に帰ると、皆疲れて眠っていた。


「あら? 皆様、お疲れなのですね」


 マリーはくすっと笑うと、一人一人に毛布を掛けていく。


 シルフィ様とロン様には少し帰るのを待ってもらって、急いでおにぎりを作る。


「よろしかったら、朝ご飯にどうぞ」


 おにぎりを手渡すと、二人は転移で冒険者ギルドに帰っていった。


 ちょうど窓から朝日が昇るのが見えた。


◇◇◇


 ダンジョン出現は自然発生とのことで、引率の教師もその場に居合わせた生徒たちにもお咎めはなしだった。当然の結果だ。 ただ、ダンジョンに落とされたクリスとお兄様以外の生徒は、精神的なダメージが大きかったようだ。学院に戻った後、すぐに家に帰されたとのことだった。


 魔法戦は残念ながら中止になったが、打ち上げパーティーは予定どおりに行われる。


 あんなことがあったからこそ、労いの意味を込めてパーティーを開こうという、学院側の判断だ。


 私はお兄様にエスコートをしてもらい、パーティー会場に入場する。


 ドレスは学院入学前に『サンドリヨン』で何着かオーダーメイドしたので、その中から選んだ。


 薄紫色のエンパイアラインのドレスだ。少し大人びているが、一着くらいはこういうのもいいだろうと注文してみた。


「お兄様、トリアをエスコートしなくても良かったの?」


「まだ、婚約が決まったわけではないからね」


「でも、ダンスは誘ってみてはどうかしら?」


「そうだね」


 お兄様もトリアも少なからず想い合っているはずだ。妹としては協力しないとね。


 ちなみにレオンは控室に置いてきた。さすがに学院主催のパーティーには連れてこられない。


「我も学院に生徒として入学するか?」とぶつぶつ言っていた。


 クリスのエスコートは王太子殿下が務めているようだ。


 立食形式のパーティーは学院長の挨拶から始まった。


 長々とした挨拶が終わると、ワルツが流れ始める。


「踊ろうか? リオ」


「ええ。お兄様」


 それぞれパートナーを決めて、踊り始める。


 中央で踊っていたクリスと王太子殿下のペアと、控えめに端で踊っていた私たち兄妹は妙に注目を集めた。


「ご覧になって。王太子殿下と王女殿下のダンス。ご兄妹だけあって息がぴったりね」


「あら? グランドール侯爵家のご兄妹のダンスも素晴らしいわ。ご両親譲りね」


 そんな会話が流れてくる。


 一曲目のダンスが終わり、礼をする。


 会場は割れんばかりの盛大な拍手で賑わった。


「リオ、何か飲む?」


「それよりトリアをダンスに誘ってあげて。壁の花になっているから」


 会場の隅でもじもじしているトリアに目を向ける。


「分かったよ。リオはどうする?」


「食べ物を物色しているわ」


「うん。僕もダンスが終わったら行くよ」


 手を振ってお兄様と別れる。


 さあ、美味しいものを物色しにいこうとテーブルに向かおうとすると、手を差し伸べられる。


「カトリオナ嬢。私と踊っていただけませんか?」


 王太子殿下だった。


 お断りする状況ではないので、王太子殿下の手をとる。


「喜んで。王太子殿下」


 二曲目のワルツが始まる。


 むむむ。相変わらずリードが上手いわね。


 王太子殿下のリードは、女性が主役になるようにと配慮がされている。


 前世ではここで踊っていたのはシャルロッテだったわね。それから続けて三曲踊っていたよね。


「リオ、ダンスが上手だね」


「王太子殿下のリードが上手だからですわ」


 二人になった途端に愛称で呼ぶのは勘弁してほしい。


「それに……今日の君はとてもきれいだ」


「ありがとうございます」


 何だろう? 王太子殿下の顔が少し赤い。


「リオ、よかったらこの後!」


 王太子殿下が何か言いかけた辺りで二曲目のワルツが終わった。


「何でしょうか? 王太子殿下」


「その……もう一曲っ!」


「はい! そこまでお兄様。お兄様のお誘いを待っているご令嬢がいっぱいいましてよ」


 クリスが王太子殿下の腕を引っ張る。


「リオ、次はわたくしと踊りましょう」


「待て! 女性同士でダンスをするのか?」


「わたくし、男性のパートも踊れますのでご心配なく! 行きましょう! リオ」


 王太子殿下を振り切って、クリスとダンスを踊り始める。


「クリス、次は私が男性パートを踊るわ」


「ぜひ、そうしてちょうだい。お兄様はまだリオと踊る気でいたもの」


「そのようね。婚約者でもないのにまずいものね」


 何となく、王太子殿下が次の曲も誘いをかけているのは分かっていた。


 そして、王太子殿下はその後何人かのご令嬢とダンスをしたようだ。


 私とクリスは調子に乗って、三曲も踊り続けた。


 その後、貴族令嬢の間では、友人同士で踊るという奇行が流行った。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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