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90.侯爵令嬢はダンジョンに潜る(後編)

 十分もしないうちに階層主を倒してきたシルフィ様とロン様に同行して、最下層へ降りる。


 光が全くないダンジョンもあれば、そうでないダンジョンもある。このダンジョンは前者だ。


 人間は本能的に暗闇を怖がる。私は無意識に指に光を灯す。


 もっとも、全ての感覚に優れているドラゴンには光が必要なく、シルフィ様とロン様は先にすたすたと下りて行ってしまった。


 神様であるレオンと元神であるキクノ様も暗闇をものともしない。


「神というのは万能だな」


「トージューロー先生、もう吐き気はおさまりましたか?」


「ああ。ユリエの薬草が効いた」


 おにぎりも食べられないほど吐き気をもよおしていたトージューローさんのために、収納してきた吐き気を抑える薬草を調合したのだ。


 温室でクリスと育てた薬草をいろいろと空間に詰めてきたのだ。


『神聖魔法』の『治癒』のように万能ではないが、けがに有効な薬草もある。


 クリスとお兄様だけであれば『治癒』が使えるのだが、おそらく同じチームの生徒が何人かいるはずだ。うかつに光属性の魔法は使えない。命にかかわるようであれば使うしかないが。


「ユリエ、前に教えた心の眼で見るというのをやってみろ」


 指の光を消すと、私は目を瞑る。


 どんな生き物も大抵、気というものを放っているそうだ。


 はっきりしない光であったり、もやのようなものであったり、捉え方はいろいろだ。


 私はこの気というものが色で見える。


 神様たちはみんな神々しい金色だ。人間は属性によって様々なので、もっとも捉えにくい。


 だが、モンスターはどろりとした黒い色をしている。


 最初、この心の眼で見るという修行を課せられた時、私とクリスはトージューローさんに暗い洞窟に放り込まれた。


 実際にはトージューローさんとレオンが近くにいたのだが、当時の私たちは暗闇で何も見えず、二人の体温だけが頼りだった。


 何日もこの修行を続けていたある日、うすぼんやりと光るものが見えた。


 やがて鮮やかな水色へと姿を変えたものがクリスの気であることに気がついたのは、洞窟を出た時だった。光は私の隣にいて洞窟を出た時、クリスの姿になったからだ。

 時期にクリスも私の姿が靄として見えていたとのことだ。


 最下層に意識を向けると、金色の光が四つ見えた。これはシルフィ様とロン様、キクノ様とレオンだろう。


 その遥か向こうにどろりとした大きな黒い色。近くに鮮やかな水色の光が二つとその他の光が四つある。


「クリスたちを見つけたわ! 近くにモンスターがいる。早く行かないと!」


「落ち着け。ユーリとクリスも同じように気を探っているはずだ。うかつには近寄らないだろう」


 焦る私をトージューローさんが窘める。


 もう一度、気を探ると黒いもの、モンスターから遠ざかるように、クリスたちは移動しているようだ。


 光がある中ではなかなか気を探るというのはしない。視覚に頼っているからだ。


 だが、こういった暗闇の中では集中できるし、有効だ。


 シルフィ様とロン様は素早く行動しているようだ。まもなくクリスたちの下に辿り着きそうだった。


 そこに辿り着くまでに出没していたモンスターは、シルフィ様とロン様が倒してくれたようだ。


 リポップする前に私たちも軌跡を追いかけ、やっとクリスたちの下に辿り着いた。



 大きな黒い色のモンスターはバジリスクという蛇型のモンスターだった。


 バジリスクの牙には毒があり、また眼に注意しなければならない。バジリスクの眼が光った時に対峙した者は石化してしまうからだ。


 バジリスクにはシルフィ様が一人で対峙していた。すかさずトージューローさんが抜刀してシルフィ様の助太刀にいった。私はクリスとお兄様の下に駆け寄る。


「クリス! お兄様! 無事でよかった!」


「リオ、来てくれたのね」


 クリスが私に抱き着いてくる。


「僕は師匠に加勢する。リオ、後は頼むよ」


「お兄様、気をつけて!」


 お兄様も帯剣していた刀を抜刀すると、バジリスクに向かっていく。


「ところで他の人たちは?」


「黒いフードの人が『転移魔法』で外に連れていったわ。わたくしとジーク様は戦力になりそうだから残れって。誰よ? あの人?」


「シルフィ様の旦那様よ。ロン様というらしいわ」


「正確には煌龍ファンロンという」


 声とともに近くにあった転移魔法陣が光るとロン様が現れる。


「シルフィ! 眼が光るぞ。気をつけろ!」


 バリトンの声が階層内に響く。


「分かっている!」


 暗闇の中で赤い光が灯る。あれがバジリスクの眼かしら?


「おまえたちも目を閉じていろ。対峙していないとはいえ、万が一ということもある」


 レオンがクリスと私に覆いかぶさる。いつの間にか獅子姿に変化していたようだ。


 瞼をぎゅっと閉じる。


 なんとか石化は免れたようだ。


 瞼をそっと開くと、暗闇で蠢くものがこちらに向かってくるのが見えた。


 バジリスクが狙いを変えたのだ。


「厄介だな。あの眼を潰せればいいのだが……」


 ロン様が舌打ちをする。


「眼を潰せれば、何とかなりますか?」


「ああ。何か手があるのか?」


 私はすっと立ち上がる。


「リオ!」


「大丈夫よ、レオン。クリスをお願いね」


 うっそりと眼を細めるバジリスクに私は堂々と対峙する。


 眼が光る直前、魔力を素早く練る。


「『神聖創造魔法』光の奔流ほんりゅう!」


 階層内を眩い光がほとばしる。激しい川の流れのような光がバジリスクを飲み込んでいく。


 光が収まると、地に伏したバジリスクの眼は潰れていた。光が赤い両眼を焼いたのだ。

 

 バジリスクは長い胴体を地に叩きつけて苦しんでいる。


「ユリエ、よくやった!」


 トージューローさんとお兄様が放った風の刃がバジリスクの体を断つ。


 断末魔の叫びをあげながらバジリスクは息絶えた。


 ドロップ品が地に落ちる。皮と牙だ。ダンジョンのモンスターからはドロップアイテムが落ちる。


「『神聖魔法』と『創造魔法』の合わせ技か。見事なものだ」


 ロン様から拍手があがる。シルフィ様には抱き着かれ、チークキスをされた。


「私のオリジナルなのです」


 どちらの属性も攻撃に長けた技は少ないが、合わせてみたところ、いくつか攻撃に特化した魔法を生み出すことができたのだ。人前で使うことはあまりないだろうが。


「さて、依頼達成だな。外に出るか」


 シルフィ様が私に抱き着きながら、転移魔法陣を指差す。


「ドロップ品はどうする? おまえたちが倒したのだ。持っていくといい。いい値段がつくと思うぞ」


 ロン様がドロップ品を拾いながら、私たちに差し出す。


 私たちは集まって相談する。代表してキクノ様が辞退の旨を告げる。


「お気持ちはありがたいのですが、あたくしたちは助けていただいた側ですので、ドロップ品はお持ちください」


 シルフィ様とロン様が来てくれなかったら、こんなに早く最下層に辿り着けなかった。何より『転移魔法』を使うにあたって私は未熟だ。皆を転移させられる力がなかった。


「助けにきた冒険者がお主たちで良かった。この国の者を助けてくれて感謝する」


 レオンが二人に頭を下げる。


「ふ~ん。森の神は随分と丸くなったな。もっと尖ってなかったか?」


 ロン様がにやにやとレオンを見やる。


「我は元々こういう性格だ。お主こそ底意地の悪さは相変わらずだな」


「ああ。ユリエのおかげか。良かったな、レオン《・・・》。二度と彼女を放すんじゃないぞ」


 今度は私ににやにやとした笑顔を向けてくる。


「なっ! 貴様というやつは!? リオを見るな! リオが穢れる!」


 レオンがむきになっている。


「阿呆どもは置いて地上に帰ろう、ユリエ」


 まだ言い合っているロン様とレオンに冷ややかな視線をシルフィ様が送る。


「クリス、お兄様。お腹が空いたでしょう? 良かったら食べてね」


 とりあえず、おにぎりを出してクリスとお兄様に渡す。


 シルフィ様も食い入るようにおにぎりを見ていたので、予備のおにぎりを渡した。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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