プロローグ
新連載です。よろしくお願いします。
好きなものを詰め込んだストーリーです。
「カトリオナ・ユリエ・グランドール。何か言い残したいことはあるか?」
私は今、断頭台の前に立っている。これから私が処刑されるところだ。死刑執行人の問いかけに頷き、口を開く。
無実の罪で裁かれ、城の地下牢に放り込まれ、連日の拷問で身も心も疲れ果てたが、これでやっと終われる。最後の力を振り絞り、声を張り上げる。
「私は無実の罪で裁かれ、神のみもとに参ります。私を陥れた者たちに神の裁きがくだらんことを!」
断頭台の正面に設けられた特別席をきっと見据える。私を裏切った王太子殿下と彼の隣に座る女がそこにいた。女は王太子殿下の陰に隠れながら、嘲りの笑みを浮かべている。私を陥れた張本人は私の代わりに王太子殿下の婚約者となった。
だが、王太子殿下はなぜか私に哀しみの瞳を向けている。大好きだった青い瞳……。
(ああ。貴方は私を裏切ったのに、なぜそんな目をしているの?)
「ふざけるな! この魔女め!」
「早く処刑しろ!」
見物人が罵声をあげ、私に向かって石を投げつけてくる。いくつか顔や体に命中するが、最早痛みは感じない。
「それでは、祈りを……」
司教が祈りを捧げているが、私の心には響かない。儀礼どおりの祈りなど、これから死にゆく者に何の役に立つというのだろうか。
祈りが終わり、死刑執行人が断頭台へ私を誘おうとするが、その手を振り切り、自ら断頭台へと向かう。
(どうか来世では穏やかに過ごせますように)
これから神のみもとに行き、あるのかも分からない来世に思いを馳せながら、断頭台に横たわり、目を瞑る。
刃が落ちてくる寸前「リオ!」と呼ぶ声が聴こえた気がする。そこで私の意識は途絶えた。
* * * * *
目が覚めると見慣れた景色が見えた。この可愛い花模様は子供の頃に使っていたベッドの天蓋ね。懐かしい。これが走馬灯というやつかしら?
「リオ! 目が覚めたのかい? 良かった。父様と母様を呼んでくるから、まだ起きてはだめだよ」
「お……おにい……さま?」
お兄様が幼い。ふふ。可愛い。2歳年上のお兄様は子供の頃は天使のようだったのよね。これは確か私が7歳の時に、原因不明の熱で3日ほど寝込んだ時の記憶だわ。
それにしても体が怠い。手を額にあててみると熱い。走馬灯って感覚まで再現されるのかしら?
「リオ!」
お父様とお母様が扉をノックもせず、飛び込んでくる。ベッドに駆け寄ったお母様が私の手を握って、涙を流す。
「目が覚めてよかったわ。3日も熱が下がらなくて……心配したのよ。このまま貴女を失ってしまうかと……本当に良かった」
お父様は私の頭を撫でると、瞳を潤ませる。いつも冷静なお父様が泣くなんて……。
「お父様……お母様……」
父と母、兄にもう一度会えるなんて。10歳下の妹がいないのは残念だが、子供の頃の記憶だから仕方ない。
家族は私が処刑される前に、全員断頭台の露と消えた。妹はまだ7歳だったのに。家族は最後まで私を信じてくれた。そのせいで家は断絶されたのだ。
家族に会えた嬉しさで涙がこぼれた。涙の温かさまで伝わるなんて不思議な走馬灯だ。
「リオ? 苦しいのかい?」
心配そうに兄が覗きこんでくる。
「ううん。嬉しいの。また皆に会えてよかった」
「そうか。さあ。まだ熱は下がっていないんだ。少し眠りなさい」
「次に目が覚めたら、リオの好きな苺の果実水を用意させるわね」
父、母、兄が順に額に口づけをしてくれる。温かい家族だった。まだこの走馬灯を見ていたいのに、意識が遠ざかっていく。
* * * * *
鳥のさえずりで再び目が覚めた。やはり見慣れたベッドの上だ。良かった。まだ走馬灯は続くのね。って! 走馬灯って意外と長いのね。いや。さすがにおかしいでしょ?
ベッドから起き上がると目眩がした。ふらつく体を必死に鏡の前まで運ぶ。鏡を覗くと7歳の私がいた。
処刑される前には、白銀の髪は艶を失い白髪と化し、青灰色の瞳は生気がなく、白磁のようだといわれた肌はかさかさだった。
鏡の中の子供は朝日に照らされた白銀の髪が輝いている。青灰色の瞳は子供特有の澄んだ目をしていて、肌はもちもちだ。
「え? まさか? 時間が戻った?」
やっと事実に気づいた私は大声で「えぇぇぇぇぇ!!!!! 嘘でしょっっっっっ!!!!!」と叫んでいた。
気づいた侍女が駆けつけ、混乱している私をなだめ、ベッドに寝かせるまで大変だったと後で兄が言っていた。
今日はあと1話投稿しております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。