第3話 新しい生活
「さぁ、たくさん食べてくださいね」
そう言ってランさんは手料理を振る舞ってくれた。
見た目と匂いからも美味しさが伝わってくる料理ばかりで、思わず
「ゴクリ」
と喉を鳴らしてしまう。
「ここは見ての通り牧場ですから、食材は全て新鮮なものばかりなんですよ」
とカレンが付け加えてきた。
「この娘ったらいつにも増してお手伝いを張り切っていたわよ」
「ちょ、ちょっとお母さん!? 変なこと言わないでっ! 私はいつも通りしていただけよ 」
顔を赤らめながら必死に否定している。
「何っ!? それは聞き捨てならないな。僕にも詳しく聞かせてくれないかい?」
「もう、お父さんまで……」
そういってカレンはうなだれる。
「セシリーお腹すいた〜」
一連のやりとりに空腹を我慢できなくなったセシリーがお腹を抱えながら呟いた。
「そうね。冷めないうちに食べましょうか。さぁ、召し上がれ」
「「「「いただきます」」」」
僕達はランさんの美味しい手料理に舌鼓を打った。
「そうか。ケント君は旅をしていて元々『ストーリー』を目指していたんだね」
「えぇ。いろんな町を巡りながら、その町のギルドに登録しては路銀を稼いでまた旅に出るの繰り返しです」
「お兄ちゃん、すごいね〜」
「ありがとう、セシリーさん」
純粋な眼で見られると照れてしまう。
「ケント君は若そうに見えるけど、ご両親からの反対とかはなかったのかい?」
「歳は20歳になりますね。両親ですが、僕は赤ん坊の頃、孤児院の前に置かれていたようで、顔も知らないんで……あっ」
「「「!?」」」
見るとよく分かっていないセシリー以外は気まずそうな表情を浮かべている。
「すまないね、ケント君。無神経なことを聴いてしまったよ」
クリフさんが謝ってきたため、慌てて否定する。
「い、いえ! 孤児院の生活も楽しかったですし、みんな家族のようだったので僕は気にしていませんよ! それに、そのおかげでこうして旅が出来ているわけですから、僕は満足しています。 だから気にしないでください」
「そうかい?」
大丈夫とは伝えたが、空気を悪くしてしまったため、話を切り替える。
「それはそうと、この辺りではモンスターに襲われるということがよくあるのですか?」
「うーん。実は最近モンスター達の動きが活発になってきているんだよ。今まではワンダーが威嚇して追い払ってくれるから襲われるってことはなかったんだけどね」
クリフさんがそう教えてくれた。
「でも困ったわね。町へ畜産物の出荷に行かないわけにはいかないものね。ワンダーはしばらく入院だし、また襲われでもしたら」
ランさんが心配そうにつぶやく。
そこにカレンが僕に向けて話し始める。
「それなんですけど、もしケントさんさえ良ければワンダーが完治して帰ってくるまでうちに住んでもらうというのはどうですか?」
「「えっ!」」
僕とクリフさんの声が被った。
ランさんは
「あらあら」
といいながら微笑ましそうにしている。
カレンはそのまま発言を続ける。
「ケントさんは腕が立ちますし、元々この町のギルドに登録する予定だったのですから、うちに泊まればその間宿泊代と食費がかかりませんよ。そのかわり、住む間は町へ行くときの護衛になっていただくということで」
そこにランさんが乗っかかってくる。
「いい提案じゃない。ね、あなた? ケントさんなら信頼出来そうだし、町への往復時に一緒に来てもらいましょうよ。ワンダーがいない今、また襲われたら大変だわ。ケントさんはどうです? 基本的に町へ行く時に、朝と夕方の行き帰りで馬車の護衛をしてもらって、その時間以外は自由にしていただいていいわ」
そんな提案をしてくるランさんとカレン。
そして目をつぶり何か考え事をしているクリフさん。
食、住に困らず朝と夕方の護衛以外はクエストを受けられるか。
受注できるクエストの種類は減るかもしれないが、こちらとしては有難い申し出だった。
「僕としては大変嬉しいお話ですが……」
チラッと黙り込んでいるクリフさんの様子を伺う。
クリフさんは考えをまとめたようで、目を閉じたままゆっくりと話し出した。
「ケント君……」
「は、はい!」
思わず身体に力が入るっ!
「私としても大事な家族の安全を考えると、ぜひとも君に護衛を頼みたい。だが一つだけ君に言っておく」
一体何を言われるのだろう。
その時、閉じていた眼をカッと見開き!
『娘はやらん!!!!!!!!』
そう叫んだ!
僕はガタンっとテーブルに突っ伏してしまった。
カレンとランさんは呆れた眼でみており、セシリーは笑っている。
こうして僕はフロスト牧場に居候することになった。
セリフだけで誰が話しているのか分かるようにしたいです。
カレンの父親は基本穏やかですが、家族のことになると性格が変わる といった感じになります。
父親はこれぐらいで丁度良いと思っています(作者の主観)