第34話 ワンダー
とある夕食の時、おもむろにクリフさんが話を振ってくる。
「あ、そうだ。ケント君、もうワンダーが帰ってくるけど、何も直ぐにここを出て行く必要はないからね。まずは必要なものを買ったり掃除したりと住めるようにしないとだろ?」
「えっと、それだとまたご迷惑をおかけすることになりますよ?」
「今更少し伸びたって変わらないさ。それに君は僕たちの牧場を継ごうとしている。僕たちにとって家族も同然だ。……決して義父ではないがね。」
それに、とクリフさんが虚空を見つめながら話を続ける。
「実は君が牧場をやってみると承諾した日からカレンに頼み込まれていたんだよね。しっかり準備が終わるまで居させてほしいってね。いや、僕としても賛成だしいいんだよ。いいんだけどね……。父親としては複雑で……まぁケント君のことは僕も認めてはいるけど、それとこれとは話が別だし……………」
と、だんだん声が小さくなり、視線が合わなくなったクリフさんが呟いてくれた。
カレンを見ると両手で口元を隠し、恥ずかしさからか目を逸らしている。
隙間から見える肌はピンクに染まっている。
(だって先に行動しておかないと、ケントさんがすぐに出て行っちゃいそうでしたから)
と心の中で呟く。
上の空になったクリフさんはというと、ランさんに話しかけられるまで1時間程放心状態でぶつぶつとなにか呟いていた。
そして日が経ち、今日はワンダーのいるベストオブフレンドに、僕、カレン、クリフさんの3人とミコトが来ていた。
そう。
ワンダーがようやく退院するのだ。
正面玄関にてベラさんとクリフさんが最後の手続きを進めている。
「長い間お世話になりました。な? ワンダー?」
「ガウ!」
ワンダーは大きく尻尾振ってから元気よく吠える。
退院が嬉しいのか今にも飛び出しそうな勢いだ。
「元気になってよかったです。ではクリフさん。大丈夫だとは思いますが、何か異変などありましたらすぐに受診にしきてくださいね。」
「えぇ。そのときはまた宜しくおねがいします。」
クリフさんがベラさんへとお辞儀をしてからこちらへ向かってくる。
足元にはワンダーが寄り添っており、その様子をベラさんが暖かく見守っていた。
僕とカレンもベラさんへとお辞儀をし、病院前に待機してある馬車へと乗り込む。
ワンダーは元気よく飛び乗り、そのあとをミコトが続いた。
ワンダーはカレンの前に座り込み、ミコトは僕の膝の上に座り込んだ。
「さぁ、カレン、ケント君。僕たちの牧場へ帰るよ。今日はワンダーの退院祝いだからね!」
クリフさんは僕たちの返事も聴かずに馬車の手綱を引き、馬たちを走らせた。
「うふふ。お父さんたら、ワンダーが帰って来ることが余程嬉しいのね。」
「ガウ!」
「そういうカレンさんだって、クリフさんと同じくらい嬉しそうに見えるよ。」
「もちろんですよ。家族が帰って来たのですから。セシリーもお母さんもワンダーが帰ってくるのを今か今かと待っているはずです。」
カレンは手を伸ばしワンダーの頭を撫でる。
それをミコトが羨ましそうに見ているため、ミコトの頭は僕が撫でる。
「グルゥゥゥ」
目を細め、満足そうにしている。
そして僕たちを乗せた馬車はフロスト牧場への道を走る。
牧場へ着くと同時にワンダーが馬車から飛び降り、続いてミコトが飛び降り、庭を駆け回り始めた。
「お帰りなさい〜」
家の扉が開きセシリーがワンダーの元へ駆けて行った。
その後ろをノームとウンディーネが続く。
「あらあら、随分賑やかね。みんな、お帰りなさい。」
最後にランさんが家から出て来て微笑んだ。
庭を駆け回るワンダー、ミコト、セシリー、ノーム、ウンディーネ。
それを見守るクリフさん、ランさん、カレン、そして僕。
フロスト牧場にようやく全員が揃った。