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僕の日常物語  作者: todayone
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第29話 ミコト

「行くよ、ミコト! おいで!」


 僕は先日引き取ったサーベレオンの子ども『ミコト』を呼び馬車に乗り込む。


 馬車の手綱を引くのはクリフさんだ。


 すでに町へ卸す品物と共に、カレンが乗り込んでいる。


 ミコトは馬車に乗ると迷いなくカレンの膝に乗り座り込む。


「うふふ。ミコトちゃんが懐いてくれているみたいなので嬉しいです。」


 カレンは微笑みながらミコトの背中を優しくなでる。


 ミコトも気持ちよいのか目を細めてリラックスしている。


「じゃぁ、行ってくるよ。」


 馬車の外からクリフさんの声が聞こえる。


「えぇ。行ってらっしゃい、あなた。」


「お父さん、いってらっしゃ〜い。」


 ランさんとセシリー、そしてセシリーの隣にいるノームに見送られて馬車は走り出す。


 町の近くではモンスターの動きが活発となっていたが、原因となっていたサーべレオンは討伐されているため、ここらのモンスターは徐々に落ち着きを取り戻していた。


 今ならモンスターが現れても威嚇程度の魔法でも大体は追い払うことができるだろう。


 身体の怪我が治っておらず、万全ではないため向かって来られる前に追い払う必要はあるが。


 馬車に揺られること15分。


 町の外壁が見えてきた。


 クリフさんが手慣れた手続きを行い、外壁の中へ入る。


 町に入り、馬車のまま雑貨屋パフェへ向かい品卸を手伝う。


 激しい運動はできないがこれくらいならば可能だ。


 クリフさんは先に馬車から降り、アランさんと品物の話をしている。


「ケントさん、いつもすみません。手伝っていただいて。」


 「これは僕が好きでやっていることだから。それにまだ傷が完治していないし、いいリハビリだよ。」


 そう言いながら僕は牛乳瓶の入ったケースを運び、カレンは卵のケースを運んでいる。


 足元ではミコトが周りをキョロキョロしながら離れないように付いてくる。


 ミコトは町へ数回程連れてきたが、まだ町や人の多さに慣れておらず不安がっているようだ。


 そんな僕たちに近づいてくる人影が1つ。


 エイミーだ。


 「おはよう。2人とも。それにミコトもおはよう。」


「おはよう、エイミー。」


「おはようございます。」


「グルゥ。」


 僕とカレンはエイミーへ挨拶をし、ミコトは首をかしげている。


 エイミーとは会ったことがあり、あまり警戒心は抱いていないようだ。


 大人のサーべレオンは好戦的だったが、ミコトはまだ幼いため、人にも懐きやすいようだ。


 エイミーがミコトに手を伸ばし頭をなでながら話しかけてくる。


「ケントは身体の具合は大丈夫なの?」


「ええ。まだしばらくは完治はしないですが、日常生活する分には問題ありません。」


「そう。なら良かったわ。」


 エイミーはどこから取り出したのかおもちゃの猫じゃらしを持っている。


 おそらく店に置いてあったものだろう。


「ほれっ。ほれっ。」


「シャッ。シャッ。」


 ミコトと遊び始めた。


 2人ともとても楽しそうにしており、それを横目で見ながら品物を運ぶ。


 品卸が終わるころにはエイミーたちも遊び終え、お互いに満足そうにしていた。



「じゃあね、ケント君。またあとでね。」


「私たちはこのまま品卸に回りますので、ベストオブフレンドで会いましょう。」


 クリフさんに馬車でギルドの前まで送ってもらい、一度別れを告げる。


 馬車から降りたのは僕とミコトだ。


 ギルドへ来た理由はクエストのためではなく待ち合わせをしていたからだ。


 ギルドの中へ入ると


「ケント様、ミコト様、いらっしゃいませ。ご足労いただきましてありがとうございます。」


 フレイさんが出迎えてくれ、奥の部屋へと案内される。


 部屋の中ではアルヴィン、ブラッド、シャーロットが椅子に座り待機していた。


「よう、ケント!」


「けがは大丈夫?」


 アルヴィンとシャーロットが声をかけてくる。


 ブラッドは僕と僕についてくるミコトを見てうっすらと微笑んでいる。


 僕とフレイさんも椅子に座り、ミコトは膝の上に座る。


 「まず、皆様に集まっていただいたのは先日のクエストについてです。報酬額が決まりましたのでご確認ください。」


 フレイさんは用紙を配る。


「細かくは紙面にあるとおりですが、Aランクのモンスター2体分の相場の報酬の約1.5倍となっております。迅速な対処を評価させていただきました。」


 それぞれは頷いており、口を挟まないため、納得なのだろう。


「続いて皆様が保護したサーべレオンの子どもについてです。ご存じかと思われますが、ケント様の希望により、ケント様ご自身で引き取られることになりました。本来ならば将来的にAランク相当になると思われるサーべレオンの子どもを現在Bランクであるケント様が引き取ることはできないのですが、今回の功績を踏まえたうえで、定期的に様子をギルドへ報告することを条件として特例許可が下りました。」


 話を聞き終えアルヴィンが口を開く。


「それにしても許可が下りてよかったな、ケント。」


「まさか自分から引き取りたいなんて言うとは思ってなかったわ。」


 続けてシャーロットが口を開き、ブラッドは笑っている。


「ちょっと思うところがありまして。」


 みんなの視線がミコトに集まる。


 自分のことが話されているとはつゆも知らず、いつの間にか眠っていたミコトの背中をなでる。


「現在の様子を見る限りでは暴れたり誰かを傷つける様子はなさそうですね。少し失礼します。」


 見るとフレイさんが僕の前に来てしゃがみ込み、ミコトの背中をなで始める。


「牧場でも他の動物たちと遊んだり、セシリーさんやノームさんと遊んでいますよ。みんな受け入れてくれています。」


「そうですか。それはよかったです。」


 フレイさんは嬉しそうだ。


 フレイさんのきれいな顔との距離が近くて思わずドキドキしてしまう。

 

 今動けばミコトが起きてしまうため、動くことができない。


 気恥ずかしくなり視線をずらすとアルヴィンとシャーロットがこちらを見てニヤニヤして見ていることに気がつく。


 が、素早くそれに気づいたブラッドが睨みを利かせてくれたおかげで2人は硬直し冷や汗を流し始めた。


 心の中でブラッドに感謝しつつ穏やかな時間が流れていった。



 フレイさんからの説明が終わりギルドから出ようとするとシャーロットがこっそり声をかけてきた。


「後でアルヴィン、ブラッド。それにフレイにもちゃんとお礼を言っておきなさいよ。まぁ、ブラッドは嫌がるかも知れないけれど。いくら今回の功績が認められたとはいえ、Bランクのケントにミコト……Aランクのサーべレオンの引き取り許可が降りるなんて普通はないわ。あの二人がケントの力を証言してフレイが上層部に掛け合ってくれたみたいだから。」


 いろんな人に助けられていることを改めて感じる。


 僕がミコトを引き取るのを受け入れてくれた人たちのためにも期待に応えよう。


 こちらを見てくるミコトを見ながらそう決意するのだった。

次回「今後の生活」

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