第28話 想い
期間が開いてしまいました。
以前は出来るだけ早く投稿しなきゃという気持ちがあり、文章が作者から見てもひどかったのと、急ぎすぎて書きたいとこを書いたらモチベーションが一気に下がったので、今回は文章をゆっくりと読み直しながら燃え尽きないようにマイペースでいきます。
良くも悪くも読んでいる方が少なかったので、1話から見直して文章を多々変更しました。
暇つぶしにお付き合いいただける方はお読みください。
「おかえりなさいませ、皆さま」
そう言って暖かく出迎えてくれたのは、受付嬢フレイさんだ。
あたりは暗くなっていたが、朝に見送った後から、ずっとギルドで待っていたようだった。
「早速で申し訳ないのですが、奥の部屋へどうぞ。ギルド専属の医療チームも呼びますので、ケント様は先に身体を診てもらってください」
フレイさんに誘導され、アルヴィンたちはギルド内の奥の部屋へ向かう。
サーベレオンの子どもは、現在シャーロットの腕の中で眠っているため、僕は1人別室へ行きケガの具合を診てもらう。
打撲の処置をしてもらい、しばらくは出来るだけ無理をせずに安静に過ごすように言われた。
処置と説明が終わり、僕は別室にいるアルヴィンたちと合流する。
部屋に入ると、事の顛末を話し終えたところだった。
「皆さま、今回のクエスト、迅速に対応していただきありがとうございました。皆さまのおかげで大きな被害が出る前に対処できました。いろいろと加味した上で、後ほどクエスト報酬を支払わせていただきます」
全ての話を聴き終えたところで、フレイさんがそう話す。
「ところで、このサーベレオンの子どもはどうするんだ? 俺たちも困ってここに連れてきちまったんだが?」
「その件に関しましては一時ベストオブフレンドで預かっていただきます。今はそれほど人に対して警戒をしていないようですが、将来的には分かりません。万が一のことがあっても対応できる施設を探します」
丁度、サーベレオンが顔を上げ、僕と眼が合った。
最初見た時のような警戒心がなくなっている。
その時見た瞳は、やけに印象的だった。
「詳しく決まり次第、追ってご報告いたします。皆さま本日は本当にお疲れ様でした」
僕たちはサーベレオンをギルドに預け、その場を後にする。
「今日はありがとな、ケント。お前と依頼が受けられて楽しかったよ」
「こちらこそありがとうございました。アルヴィンさんの剣撃はとても勉強になりました!」
「いやぁ」
アルヴィンは嬉しそうだ。
「すぐ調子に乗るんだから。そんなんじゃ、いつか足元すくわれるわよ?」
見兼ねたシャーロットが注意している。
「ケント」
今度はブラッドだ。
「剣の練習もいいが、魔法の練習もしろよ? 魔力を練る練習をもっとした方がいい。しっかり練ってコントロールできるようになれば同じ魔法でも威力や使い方に幅が出せる。機会があればコツを教えてやる」
「抜け駆けはずるいぞ、ブラッド! その時は俺も誘えよ!」
「何を言っている。お前とケントじゃ武器が違うじゃないか?」
「確かに武器は違うけど、剣術の基礎は共通しているものなんだよ。ブラッドの魔術だっていろんな属性を使うけど、根本は一緒だろ?」
「確かに一理ある。……お前、そういうところは賢いんだな」
「どういう意味だよ?」
アルヴィンはジト目でブラッドを見るが、ブラッドは気にしていない。
「褒めているんだよ」
「……まぁ、そういうことにしておくさ。でだ、ケント。これは決定事項だからな?」
Aランクの人から剣術や魔術を教えてもらえる機会などそうあるものではない。
「2人とも、ぜひお願いします! 楽しみにしていますね!」
「ちょっと? 私も忘れないでよね!」
「もちろんです。シャーロットさんもよろしくお願いしますね」
その場に和やかな空気が生まれた。
アルヴィンたちとも別れ、ノームとともにフロスト牧場へと帰った。
だいぶ遅くなってしまったため静かに扉を開ける。
「ただいま」
「お帰りなさい、ケントさん! 帰ってきていただけて安心しました」
「ケントお兄ちゃん、お帰りなさい〜。ノームちゃんもおかえりなさい〜。」
「ただいまなの」
どうやら寝ないで待っていてくれたようだ。
今回も僕はボロボロだが、理由が分かっているためか、以前のようにカレンに怒られることはなかった。
「さぁ。2人とも中へ入ってください。暖かいスープを作っておきましたから」
カレンに促され、いつもの食卓へ向かう。
そこにはクリフさんと、ランさんも待っていてくれた。
「2人ともお帰り。調査はどうだったんだい?」
「えぇ。実は……」
サーベレオンが2体いたこと、それにより生態系のバランスが崩れ他のモンスターに影響していたこと、アルヴィンたちと協力し討伐できたことを話した。
「ケントもボクも頑張ったの!」
「ええ。ノームさんがいなければ僕はアルヴィンさんたちが来る前にやられていたでしょう。ノームさんが居てくれて助かりました」
ノームはとても嬉しそうだ。
話し終えるとクリフさんは頭を下げてきた。
「ケント君、この町のためにケガまでしてくれてありがとう。この町の住人として感謝するよ」
「そんな! いいんですよ! 僕は僕を受け入れてくれたこの町が大好きですし、僕自身、もうこの町の住人だと思っていますから」
「それでも感謝させてくれ。ケント君が帰ってくるまでカレンがずっとそわそわしていたことや、最近、ケント君がカレンに対して敬語を使わなくなったことはこの際目をつぶろう」
「ちょっと、お父さん!?」
自身がそわそわしていたことを暴露されカレンが赤面する。
「父親としては複雑だけどね。だけど感謝しているとはいえ、僕の目の黒いうちは娘はやらないからね」
「ははは……」
最後はいつもの言葉が出てきたため僕とカレンは苦笑いをする。
そんな中、ランさんだけは驚いた顔をしてからクリフさんを見て微笑む。
ランさんだけは気付いていた
(いつもは娘はやらんの一点張りだったのに。僕の目の黒いうちは、なんて。ケントさんのこと認めているのね。ふふふっ)
そんなクリフの変化に嬉しくなっていた。
会話が一段落してからクリフさんと向き合う。
「あの、1つお願いがあるんですが……」
僕はクリフさんに言わなければいけないことがあった。
「なんだい?」
「実は先程話したサーベレオンなんですが、産まれたばかりの子どもがいたんです。今はベストオブフレンドで預かってもらっていて、これから引き取り先を探すそうです」
僕が真剣な表情で言ったことで、この後僕が何を言いたいのか伝わったようだ。
「それはつまり、その子をケント君が引き取りたいと? もしかしてそんな相談かな?」
「……はい。今は僕自身もフロスト牧場でお世話になっているし、図々しいお願いだとは思いますが」
僕とクリフさんの話をカレン達は静かに聴いている。
「1つ確認させてくれないか? 何故引き取りたいと思ったのかな? もしかしてそのサーベレオンの親を殺してしまった罪悪感かな? ……僕たちは牧場を経営しているし、動物達からの恩恵や、それこそ『命』ももらっている。生き物の命の大切さは良く知っているつもりだ。もしも罪悪感から引き取りたいと考えているならやめたほうがいい」
クリフさんは極めて静かにそう問いかけてくる。
「……もちろん罪悪感もあります。でもそれは冒険者をしている者ならば、誰しもが少なからず持っていることです。今まで身を守るためやクエストとして多くのモンスターを討伐してきた僕にそれを語る資格はありません」
僕の話をクリフさんは全身を傾けて聴いているため、そのまま続ける。
「ギルドのフレイさんが言っていました。万が一のことがあっても対応できる施設を探すと。その万が一のことが起きてしまったらあの子は……。それに、僕には連れて帰った責任があります。なにより、家族と過ごす幸せを、あの小さなサーベレオンにも教えたいのです」
僕の話を最後まで聴いたクリフさんはゆっくりと口を開く。
「……ケント君の想いは分かったよ。……サーベレオンを引き取るという事は、ケント君の言葉を借りると万が一のことが起きないようにする責任があるんだよ。そんな事態が起きないようにしっかりと愛情を持って接すること、それが条件だ。いいかい?」
「は、はい!」
「みんなもそれでいいかい?」
クリフさんがみんなを見渡す。
「ええ。あなたがケントさんの話を聴いて、そう決めたのなら私は言うことはないわ」
「私はケントさんを信じています。それに動物たちは愛情を注いだ分だけ必ず応えてくれますから」
「わたしは新しいお友達ができるなら嬉しい〜」
「ボクも友達になりたいの!」
誰からも反対は出なかった。
「みなさん、ありがとうございます!」
次の日、フレイさんに話を通し、後日フロスト牧場に新しい仲間が増えた。
メスのサーベレオンの子ども。
名前は『ミコト』
『命』の大切さを忘れないために。