第27話 帰宅
2体目のサーベレオンを倒した僕たちはサーベレオンの素材を回収する。
Aランクモンスターの素材は希少だ。
リサイクルの魔術では魔力の高い部位しか残らないためアルヴィンとブラッドが手作業で解体をしている。
手伝おうとしたが、ボロボロの身体で無理するなとブラッドに怒られてしまった。
さっきまで動かなかった身体は、シャーロットに応急処置をしてもらい、なんとか動けるようになっている。
解体作業が終わるまで2人のことを眺めながら、しばらく身体を休めた。
「これも忘れないようにしないと」
僕の手には鉄のハンマーが握られている。
いつかチェスターにもらったものだ。
またこのハンマーに助けられたのだ。
(今度お礼言わないとな)
そう心に誓い、ハンマーを柄だけになった剣の隣に差し込む。
ノームが作り出した岩の刃は役目を果たしたため崩れ去っている。
「これも落ちていたわよ」
シャーロットの手には僕が折ったサーベレオンの牙2本があり、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
「それはアルヴィンさんたちのものです。3人が来なければ僕は殺されていたのですから」
シャーロットが牙を僕に渡そうとしてきたため、辞退する。
貴重なサーベレオンの牙だ。
売るにしても武器の素材にしたとしても必ずパーティの役に立つ。
助けられた僕がもらうわけにはいかないと思う。
そんな僕を見て
「……確かにサーベレオンにトドメを刺したのは俺だが、その牙を折ったのはケントだ。その牙がなかったから、俺もあの場でトドメを刺せた。俺たち全員で討伐したんだ」
「アルヴィンさん……」
「そもそも臨時とはいえ、今回俺たちはパーティを組んでいる。お前にももらう権利は充分にある」
「ブラッドさん……」
「胸を張って堂々としなさい。それはあなたの戦利品よ」
「シャーロットさん……」
「きっとケントがもらうべきなの!」
「ノームさん……」
みんなに言われ
「分かりました。ありがとうございます!」
僕はサーベレオンの牙をシャーロット達から受け取った。
素材を回収した後、僕たちはサーベレオンを最初に発見した洞窟の入り口へと向かった。
一つ確認することがあるからだ。
歩きながらシャーロットが話しかけてくる。
「それにしてもケント、よくサーベレオンの牙が折れたわね」
「そうだな。俺の大剣なんか刃こぼれしたんだぜ」
「僕の力ではなくノームさんと、このハンマーのおかげですよ。僕一人の力だとこの通り」
僕はそう言い、切断され柄だけになった剣を2本みせる。
「刃こぼれどころか綺麗に折られてしまいましたよ」
思わず苦笑いになる。
「酷い状態ね。そんな状態で何ができたのよ?」
「ハンマーをサーベレオンの口に差し込んで口を閉じれないようにして、剣はノームさんに魔法で折れた刃の代わりに岩の刃をつけてもらいました。正面からいくと防がれるので側面から狙って、叩き折りました」
そう言ってノームへと顔を向ける。
ノームはどこか誇らしげだ。
「……ほとんど奇跡ね。一歩間違えたらハンマーごと切り裂かれていたわよ」
シャーロットは少し呆れているようだ。
「魔法も戦い方も想像力次第だな。柔軟な思考こそ大切といえる」
ブラッドが1人、うんうんと頷いている。
「洞窟がみえてきたの!」
ノームの声で前方を見ると先程サーベレオンが現れた洞窟が見えてきた。
中に入ると薄暗くひんやりしている。
先程は気がつかなかったが地面には金色の毛がところどころ落ちており、よく見ると長さが違うようだ。
「少し奥まで調べてみよう」
ブラッドに促され洞窟内を調べていく。
「本当にいますかね?」
「可能性はある。番のサーベレオンがいたんだ。それにわざわざ奴等が住処を変えてきたということはそこに意味があるはずだ」
しばらく進むとノームが何かに気付いた。
「あそこで何か動いたの!」
ノームが近くの岩陰を指差す。
「みんな、驚かせないよう慎重にな」
アルヴィンが指示をとばす。
僕たちはゆっくり周りを取り囲むように移動する。
すると岩陰から何かが顔を出す。
「ガルゥゥ」
それは小さな身体だが確かにサーベレオンだった。
生後数週間だろうか、急に現れた僕たちに怯え警戒しているようだ。
「やはりいたか。恐らく出産を控えて今までの生息地域から安全な洞窟へと住処を変えたのだろう」
「ブラッド、それでどうするよ」
ブラッドは顎に手を当てて考え始める。
「本来なら退治するべきなんだが……思ったより幼く、危険もなさそうだしな。脅威もない相手を一方的に討伐するのも気が引ける」
ブラッドが頭を悩ませている。
そこへシャーロットが提案する。
「それなら連れて帰ってギルドの判断に任せましょうよ」
「僕もそれがいいと思います。まだ幼く、驚異もないのに無理に討伐する必要はありませんから」
「決まりだな、ブラッド?」
「異論はない。だが問題はどうやって連れて行く? 下手に近付いたら逃げられるぞ」
「僕がやってみます」
戦いで助けられた分、僕にできることをしなくては。
そう思い立候補する。
「ケント、大丈夫なの?」
「任せてください」
「よし、ケント。お前に任せた!」
アルヴィンたちの了承を得て僕一人でサーベレオンの子どもに近づく。
「シャァ」
子どもながらも、ハッキリと威嚇をしてくる。
僕はしゃがみ、出来るだけ視線をサーベレオンの子どもへと合わせる。
そして警戒させないようにゆっくりとにこやかに近付いていく。
「よ〜し、よ〜し。こわがらな『フシャッ』いっ!」
手を伸ばしたところで引っかかれてしまった。
引っかかれたところから血が滲む。
子どもとはいえさすがサーベレオン。
鋭い爪を持っている。
「大丈夫だからね」
「ガルゥ」
僕は先程と同様にこやかに、先程よりも慎重に手を伸ばしサーベレオンの子どもを抱きかかえる。
まだ警戒は解いていないが引っかかれたりはしなかった。
「よ〜し、よ〜し」
僕は腕の中にいるサーベレオンの背中をゆっくりなでる。
慣れたのか次第に落ちつき始めサーベレオンは眼を細めていく。
「もう大丈夫そうですよ、みなさん」
「よくやった、ケント!」
「ケント、すごいの!」
アルヴィンとノームがほめてくるが、急な大声に腕の中のサーベレオンがビクッとする。
「こら、2人とも。大声出すとサーベレオンがまた警戒しちゃうわよ」
「あ、ごめん」
「ごめんなさいなの」
今度は小声で話す2人。
「まぁ、何はともあれクエスト達成だ。町へ戻るぞ」
「はい」
僕たちはサーベレオンの子どもを連れ山道を降り始めた。
そしてストーリーの町へと向かう