第22話 調査2
次の日、僕とノームは明け方に起き出していた。
もちろん、アルヴィンたちと調査へ行くためだ。
早朝に牧場の仕事もある中、カレンが見送りをしてくれる。
隣には眠そうなセシリーもいる。
「じゃぁ、行ってくるからね」
「ケントさん、くれぐれも無茶をしないでください。怪我でもしてきたら泣いちゃいますよ」
カレンが冗談めかして言ってくるが、その表情は本気で心配してくれている。
「もちろんです。だから安心して待っていて下さい」
「はい。信じています」
カレンは笑って送り出してくれる。
この笑顔を見ていると、何でも頑張れるような気持ちになり、又、帰ってくる場所があることに幸せを感じる。
「ケントお兄ちゃん、ノームちゃんも頑張ってね……」
セシリーは眠そうな眼を擦すっている。
いつもはまだ寝ている時間だろうに、頑張って起きてくれたようだ。
僕はそんなセシリーの頭を撫でる。
「ボクも頑張ってくるのー」
ノームはセシリーにしがみつく。
セシリーは満足そうに笑っている。
そして僕とノームはギルドへ向かう。
ギルドではすでに支度を終えたアルヴィン、シャーロット、ブラッド、そしてフレイさんが待っていた。
「ケント様、ノーム様、おはようございます」
「おはよう、2人とも!」
「おはよう」
「…………」
「みなさん、おはようございます」
順番にフレイさん、アルヴィン、シャーロットが挨拶してくれた。
ブラッドは無言でチラッとこちらを見てくるだけだったが、これもこの人なりの挨拶だと解釈する。
「フレイさんはどうして? 今はギルドの受付時間ではないですよね?」
ギルドは何かあった時のため基本的に24時間誰かが常駐するが、今は受付のフレイさんがいる時間ではないはずだ。
「それはもちろんケント様たちをお見送りするためですよ。ケント様は本来Bランク。ケント様の実力を私も信頼しておりますが、これはAランククエスト。危険を伴う可能性が含まれます。せめてギルド職員として冒険者様たちの無事を祈って見送らせていただきます」
そう言って丁寧にお辞儀してくる。
僕たちを見送るために、わざわざ来てくれたようだ。
シャーロットが口を挟む。
「なんか私たちはケントの見送りのついでみたいね」
「そんなことはございません。私はギルド職員として皆様の無事を祈っております」
フレイさんが、にこやかに微笑む。
「とりあえず出発しようぜ」
アルヴィンさんの掛け声で僕たちは山へと向かう。
そんな僕たちの後ろ姿をフレイさんは見送ってくれた。
「みなさま、御武運を」
町から西へ出て山へ向かう。
以前、ハングリーベアと戦った山だ。
「もうちょっと先なの」
僕たちはノームの案内で謎のモンスターが生息するであろう地域へと向かっている。
ノームは僕の肩に乗り頭にしがみついて道案内をしている。
近接戦闘のできるアルヴィンが先頭を進み、次にシャーロットが続く。
アルヴィンにすぐ支援魔術をかけるためだ。
そして僕とノーム。
最後尾が多彩な攻撃魔術を使えるブラッドが歩く。
ブラッドならば、万が一後ろから奇襲を受けてもある程度対応できる。
何かあっても対処できる布陣だ。
僕たちは周りに目を凝らしながら突き進む。
そんな中、僕は改めて確認する。
「あの、アルヴィンさん? 本当に僕が来て良かったんですか? やはり足手纏いでは?」
「何を心配しているんだ? もちろんいいに決まってるだろ。それに初めて会ったとき、ブルーム亭で言ったじゃないか。そのうち一緒にクエスト行こうって。な?」
ニコニコと笑っている。
(あれは本気だったのか)
「では、その約束を果たすために?」
「あぁ、そうさ。まぁ、どこかの誰かさんは俺よりも先にケントとクエスト行ったみたいだけどな」
アルヴィンはジト目でブラッドを見やる。
ブラッドはすまし顔で聞いているが何も答えない。
「なーに黙っているのよ、ブラッド。アンタ、あの時ケントのことを褒めていたじゃない。それに新しい魔術が嬉しかったみたいで、いつもより珍しく饒舌だったわよ」
「確かにな。俺もブラッドからその話を聞いていたから、早くケントとクエストを受けたいと思ったんだぜ」
「う、うるさい! そろそろいつモンスターが出てもおかしくないんだ! 気を引きしめろ!」
初めてブラッドが取り乱したのを見た気がする。
意外な一面だ。
長年一緒にいるアルヴィンたちだからこそ見せれる表情なのだろう。
そんな話をしながら僕たちはさらに奥へと進んでいく。
ガサガサッ!
近くの茂みが音を立てて揺れる。
明らかに風ではない動きだ。
「構えろ!!」
アルヴィンが声を上げる。
それを合図にシャーロットは防御支援魔術を唱えて全員に付与する。
ブラッドもすぐさま魔法を放てるよう魔力を高める。
僕も自分の二本の剣を構える。
飛び出てきたのは茶色い狼型の魔物だ。
すでにこちらに敵意を持っているようだ。
「グルルルッ」
ノームがモンスターを見て名前を教えてくれる。
「あれは『ソイルファング』なの。いつもはもっと大人しくていきなり襲ってくることはないの」
説明してくれるノームは悲しそうな表情を浮かべていた。
アルヴィンが自身の記憶を探る。
「ソイルファング? 確かB−ランクだっけ? 目的のモンスターではないようだな」
「来るわよ!」
ソイルファングがこちらに向かって駆け出してくる。
「アイスダーツ!」
ブラッドが高めた魔力を使い魔術を放つ。
ブラッドの目の前に鋭い氷柱が複数並び、ソイルファングに向かって発射される。
ソイルファングはギリギリで飛び上がり、身体を捻りながら避ける。
「チッ」
ブラッドが悔しそうに舌打ちする。
ソイルファングはそのままの勢いでシャーロットを狙って鋭い爪切り裂こうとしてくる。
僕はその間に入り二本の剣でその爪を受け止める。
ガキン!
爪と剣が一瞬競り合う。
「く!」
押し負けると思った瞬間、力が湧いてきた。
シャーロットが今度は攻撃支援魔術を僕に付与してくれたようだ。
「はぁっ!」
僕はそのままソイルファングを弾き返す。
「良くやった、ケント! 後は俺が!」
僕がソイルファングを弾き返すと同時にアルヴィンが駆け出し大剣を構える。
バランスを崩しているソイルファングに対して一閃。
B−ランクモンスターを一撃の元、倒してしまった。
「いやぁ、ケント。さっきはありがとな。お前ならきっとシャーロットをかばうと思っていたよ」
アルヴィンは上機嫌だ。
「あの時はシャーロットさんの防御支援魔術と攻撃支援魔術のおかげですよ。それがなければ弾き返すことはおろか、押し切られてやられていたかもしれません」
「それでもあなたのおかげで助かったのは事実よ。ありがとね」
シャーロットに感謝され照れてしまう。
「それに比べて誰かさんの攻撃は簡単に避けられていたしね。ふふふ」
シャーロットはニヤニヤしながらブラッドに眼をやる。
「ふんっ」
ブラッドは不機嫌そうだ。
それを見たアルヴィンがフォローを入れる。
「まぁまぁ、俺の攻撃もケントのおかげで相手がバランスを崩していたおかげで当たったようなもんだ」
「いやぁね、もちろん冗談よ。それにこんな山の中じゃブラッドの得意な広範囲魔法や炎の魔法はなかなか使えないし仕方ないわ。だからそんな怒らないで」
(そもそも怒らせたのはシャーロットさんだけどね)
シャーロットはブラッドをからかい、様子を見て楽しんでいたようだ。
危険なクエストの最中でも普段通りの3人だ。
これがこの人たちの強さなのだろうと思えた。
山の中を進んでいると
「これは?」
先頭を突き進んでいたアルヴィンが何かを見つけたようだ。
そこは木々がなぎ倒され、モンスター同士が争った跡があった。
辺りには2種類の毛が散らばっている。
茶色い毛と金色の毛だ。
そして一直線に何かを引きずった跡と血の跡が続いている。
「この茶色い毛はさっき俺たちが倒したソイルファングと同じだな。ノーム。この金色の毛に見覚えはあるか?」
アルヴィンが金色の毛を手に取って僕の肩にいるノームに確認する。
「これは知らないの。少なくともボクが知る限り、この山に金色の毛を持つ生き物はいないはずなの」
「ということはこの金色の毛の主が今回の調査対象とみて間違いなさそうだな」
アルヴィンはみんなを見渡し
「敵は近い。ここからは慎重にいくぞ」
僕たちはこの血の跡をたどっていく。




