第20話 異変
「ケントさん、ちょっとご相談があるのですが……」
ある日の夕食後、カレンが僕に切り出してきた。
「どうかしたの?」
「実はセシリーのことなんです」
カレンは少し困った顔をしている。
「セシリーさんの?」
「えぇ。最近ちょこちょこ家を抜け出して離れの物置き小屋に向かっているようなんです……。何をしているのか聞いても教えてくれなくて」
「クリフさんには相談したのかい?」
「いえ、お父さんに言うと大事になりそうですし……。お母さんに相談したところ、そしたらケントさんを頼りなさいって」
……確かにクリフさんに言うと大変なことになりそうだ。
そして信頼されていることが嬉しい。
「分かったよ。ちょっと調べてみるね」
「ケントさん、すみません。よろしくお願いします。」
後日、僕は遠くから小屋を見張ることにした。
「あれかな?」
昼過ぎから小屋を見張り始めて、3時間程経ったころ、小屋に向かって走る影を確認する。
セシリーだ。
手には小さなバスケットを持っているようだ。
バスケットには布が被せてあり、何か入っているようだが中身は見えない。
セシリーが小屋に近づきキョロキョロしながら小屋の中に入って行く。
10分程経つとセシリーが小屋から出てきた。
変わらず辺りをキョロキョロと見回している。
よく見るとバスケットに被せてあった布がなくなっている。
中身もなくなっているようだ。
セシリーはそのまま小屋をさり家へと戻って行く。
セシリーが離れたことを確認してから、僕は小屋へと近づき、ゆっくりと小屋の中に入ってみる。
小屋には農作業用の道具やら肥料やらが置いてあるが誰もいない。
足元を見てみると何か黄色いものが散らばっている。
手に取ってみると牧場で作っているチーズのかけらのようだ。
(なんでこんなところに? セシリーさんが持ってきていたのはこれかな?)
他に手がかりがないため今日は諦め、一度カレンに報告してから翌日また調べることにした。
次の日、今度は小屋の中の物陰に潜み様子を探ることにした。
ざっざっざっざっ
足音が聞こえてくる。
どうやらきたようだ。
ギィィ
扉が開き、セシリーが入ってくる。
昨日と同様、手にはバスケットを持っている。
「持ってきたよ〜」
セシリーが誰かに向かって小声で話し掛ける。
すると、ぽわぁぁぁぁっと地面から光が出たと思うとそこには小さな小人が現れた。
体長は30cmほどだろうか。
頭に茶色い頭巾をかぶっている。
「待ってたの。今日も来てくれて嬉しいのー」
小人が話す。
「遅くてごめんね〜。今日はうちで作ったハムを持ってきたよ〜」
そう言ってセシリーはバスケットからハムを取り出して小人に与える。
「ありがとうなの! (もぐもぐ。ごっくん。)美味しいの!」
小人は自分背の丈ほどのハムにかぶりついている。
セシリーはそれを満足気に見つめている。
そして思い出したかのように小人が言う。
「ところで今日はなんで他の人間がいるの?」
「えっ?」
どうやら気付かれていたようだ。
僕は隠れていた物陰から姿を現わす。
「ケ、ケントお兄ちゃん。なんでここにいるの!?」
セシリーは目を見開いて驚いている。
「実はカレンさんに相談されたんですよ。セシリーさんが1人で何かをしているみたいだから心配だと」
「お姉ちゃんが?」
「ええ、もちろん僕も心配していましたよ。ところでそちらの方は?」
先程から気になっている小人へと話を振る。
「ボクはノームっていうの。土の精霊なの!」
「精霊!?」
この世界には精霊と呼ばれる種族が存在しており、火の精霊は火の力を司り、土の精霊は土の力を司る。
僕たち人間が使う魔術とは、本来精霊たちが使うものを模倣したものだ。
それが人間の世界で広まり独自に発達した結果、現在の僕たちの魔術文化へと繋がっている。
ノームというのは、そんな土の精霊の中でも上位種族のはずだ。
それが何故こんなところに。
そんな疑問が伝わったのか、ノームが説明してくる。
「実はボクは元々この近くの山に住んでいたの。でも最近強いモンスターが現れたせいで、環境が変わってしまったの。そのせいで山に住んでいる他のモンスターも気が立っているみたいなの。それで山から離れて彷徨っていたらこの小屋を見つけたの。ここは広い畑もあるし土の精霊のボクは過ごしやすいの。」
「なるほど。そしてセシリーさんと出会ったというわけですね」
「そうなの!」
僕はチラリとセシリーをみる。
セシリーは怒られると思っているのか俯いている。
そっとセシリーの頭にそっと手を置く。
セシリーは一瞬ビクッとなるがこちらを見上げてくる。
僕はしゃがみ、セシリーと視線を合わせる。
「大丈夫ですよ、セシリーさん。誰も怒ったりしませんから。セシリーさんは困っている人助け……精霊助けをしただけですから」
「ホントに怒られない?」
「もちろんですよ。」
セシリーが安心するようにできるだけ優しく話しかけた。
「………………と、言うわけなんです」
僕はセシリーとノームを連れて家へ戻り、クリフさんたちを集めて経緯を説明した。
「みんな怒ってない?」
セシリーはまだ不安なようだ。
カレンがセシリーに近づきギュッと抱きしめる。
「大丈夫よ。みんなセシリーの味方だから。この子を助けてあげて偉いわ。でも今度からはちゃんとお話ししてね」
「……お姉ちゃん、ありがとう!」
セシリーに笑顔が戻る。
クリフさんが口を開く。
「うんうん。何かあればみんなで考えればいいんだよ。それが家族なんだからね。……ところでカレン。何故お父さんには話してくれなかったんだい?」
「えっ? えーとそれは……。も、もちろんお父さんに心配をかけたくなかったからよ。ね、お母さん?」
「当たり前じゃない。あなたは心配すると仕事も手につかなくなるでしょ。私たちはあなたのことが心配だったのよ」
「なんだ、そうか! 2人ともありがとう!」
クリフさんは理由に納得したようだった。




