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僕の日常物語  作者: todayone
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第1話 出会い

改変作業中です

 遡ること数か月。


 冷たい雪が溶け、長い冬が終わり、代わりに暖かな日差しが降り注ぎ始めた春のことだった。


 森に囲まれた道の真ん中で一人の青年が立ち止まり地図を広げていた。


 茶髪にバンダナ。


 手首には青いリストバンドをしている。


 服装は動きやすそうな革の鎧を着ており、腰には鞘に入った二本の剣を吊り下げている。


 背中には旅の荷物であろうリュックを背負っていた。


「ふぅ。もうすぐ『ストーリー』の町か」


 地図上で町までの距離を確認し、その青年は歩きだした。




 僕の名前はケント・スタイン。


 冒険者として各町を周りながらモンスターと呼ばれる生き物を討伐している。


 この世界には魔力と呼ばれる力があり、どんな人でも動物でも少なからず持っている力だ。


 そんな動物たちの中で、自身の体内で一定以上の魔力を生み出せる動物はモンスターと呼ばれている。


 モンスターは魔力に伴って強力な力を持っており、人間に害を与えるものも数多く存在する。


 しかし様々な道具の素材として使われてる事もあり、また共存できるモンスターもいるため人間の生活にとって切っても切れない関係にある。


 旅をしていて、もちろん危険なこともあるが、新しい景色を見たり新しい町で新しく知り合った人と話すのが楽しいから旅を続けている。




 町へ向かう道を歩いていると風に乗って血の匂いが漂ってきた。


 立ち止まり剣に手を掛けながら辺りを見回すが、特に変わったことは見られない。


「風上はあっちか⁉︎」


 血の匂いが漂ってきた風上へ耳をすませると木々のざわめきに混じって


「ガウッガウッ」


「「ヴモ〜〜〜!!」」


 微かに複数の鳴き声が聞こえてくる。


(モンスターか?)


 鳴き声がした方向へと森の茂みをかき分けながら慎重に進んでいく。


 茂みを抜けると少し開けた場所にでる。


 そこには2体のイノシシ型のモンスター『タスクボア』がおり、その先に青ざめた表情をした女の子が座り込んでいた。


 そして女の子を守るように犬型のモンスター『ガーディアンドッグ』がタスクボアに向かって威嚇をしていた。


 タスクボアとは下顎から上へ伸びた牙が発達したモンスターで、その牙は自身の頭部の位置よりも高く伸びている。


 タスクボアは臆病な性格で好戦的ではなかったはずだが、二体のうちの一体の牙からは、真っ赤な血が滴っている。


 女の子を守っているように見えるガーディアンドッグは前脚付近から大量の出血しており、タスクボアの牙で貫かれた跡が見受けられる。


 必死に身体を起こそうとしているが、立ち上がることすらままならない。


 あのままでは長く戦えそうになく、出血多量で命も危ないかもしれない。


 状況を確認するとタスクボアは興奮しておりこちらにはまだ気づいていないようだ。


(好都合だ)


 僕はすぐさま両手を前に出し魔力を込める。


「ファイヤーボール!」


 両手の前に光が集まると直径30㎝程の炎の球体が出現し、タスクボアに向かって放たれた。


 魔力を使用して放つ魔術と言われる力だ。


 バーンッ!


「ヴモーーー!」


 爆発音とともに響くタスクボアの叫び声。


 完全に不意を突いた形で一体のタスクボアに直撃しその動きを止めた。


 もう一体のタスクボアは仲間がやられたことに気づくと、こちらに向きを変えてくる。


 その眼は怒りに燃えており、攻撃に移ろうとしている。


 だが遅い!


 タスクボアがこちらを向いた時点で、すでに僕はタスクボアの目前へと迫り一本の剣を抜いていた。


 その剣で


 ザシュッ!


 剣がタスクボアの心臓を貫いた。


「ヴモッ!」


 手ごたえを感じてから即座にバックステップで距離を取る。


 相手は野生に住むモンスター。


 心臓を貫いたといえ、油断は禁物だ。


 だが、心臓を貫かれたタスクボアはそのままゆっくりと膝を着き、ドサッと倒れた。


 それを見届けてから、最初にファイヤーボールを浴びせたタスクボアへゆっくりと近づき、トドメ刺しとして剣で心臓を貫いた。


 周りを見渡し、他に危険がない事を確認してから倒れているタスクボアへと向かって


「リサイクル」


 魔術を唱える。


 その瞬間タスクボアが光に包まれると毛皮や牙などの素材、そして紫色の結晶……モンスターの魔力の結晶である魔石へと変換される。


 モンスターの死体を放置するとアンデット化したり他のモンスターを呼び寄せることに繋がるため、これは冒険者の必須の魔術だ。


 リサイクルという魔術は解体作業を簡略化するために生み出されたもので、モンスターの特に魔力が高い部位を残すように作られている。


 タスクボアでいえば、魔力で成長した長い牙や強靭な毛皮は残るが、魔力があまりない全身の肉や内臓は残らない。


 リサイクルの魔術に耐えられず、消滅してしまうためだ。


 直接解体した方が多くの素材を手に入れられるメリットがあるが、冒険者として活動しているときに解体している時間を確保するのは難しく、技術や手間がかかるためリサイクルの魔術を使う冒険者が多い。


 僕は剣の血を拭い鞘へと納め、女の子と向き合う。


 ところどころ汚れてはいるが、白い服に黒髪がよく似合う可愛らしい女の子だった。


 長い黒髪で、前髪の両脇を三つ編みにして後ろで纏めている。


 花をあしらった模様をしている服を着ており、黒髪の彼女の魅力を引き出しているように感じた。


 僕より少し歳下だろうか。


 本当に可愛らしい少女だった




「大丈夫ですか?」


 僕は座り込んだままの彼女に尋ねる。


「えっ? あっ!」


 彼女は一瞬何が起きたのか分からないといった表情を浮かべたが、すぐさま助かったことに気付き、ホッと胸をなでおろす。


 彼女は立ち上がりながら


「危いところを助けていただきありがとうございます。私は大丈夫ですが『ワンダー』が私を庇って怪我を……」


 そう言って彼女の前で倒れているガーディアンドッグに駆け寄る。


 このガーディアンドッグはワンダーという名前らしい。


 ガーディアンドッグは人懐っこく知能も高いため、さまざまな人達から重宝されているモンスターだ。


 僕もワンダーと呼ばれているガーディアンドッグに近づき怪我を確認する。


 もう起き上がる力もないのか、弱々しく横になっている。


 前脚の傷口は出血が多く真っ赤に染まっているためよく見えないが傷は深く、全体的に腫れてしまっているようだった。


 もしかしたら骨も折れているのかもしれない。


「これはひどい傷ですね。どこかこの子の治療ができるところはありませんか? 僕が運びます」


 僕は一度タスクボアがいた場所に移動し素材化したものを拾ってからワンダーのところへと戻る。


 彼女は驚きに眼を開いた後、不安な表情で


「……よいのですか?」


「ええ。この状況を見て放ってはおけませんから」


 リュックから水筒と包帯を取り出し、水筒の水で傷口を流してから包帯で止血する。


 水をかけた瞬間、ワンダーはビクッと痛そうな反応するが抵抗する素振りは見せない。


 骨折の可能性があるためタスクボアの牙を添え木代わりにして足を固定し、体温が下がらないように毛皮でワンダーを包みこむ。


 そしてワンダーを抱え上げた。


 それなりに重いが持てない重さではない。


「……この先の町に獣医がいますので、そこで診てもらえます。申し訳ありませんがよろしくお願いします」


 彼女は泣きそうな表情で僕に頼んでくる。


「もちろんです。直ぐに行きましょう! 道案内をお願いします」


「はい!こっちです」


 彼女に案内されながら急ぎ町へ向かう。




 しばらく進むと町の入り口にたどり着く。


 町には外敵の侵入を防ぐ為の外壁があり、常に衛兵が常駐している。


「おお、どうかしたのか!?」


 ワンダーを抱えてやってきた僕らに、ほかの衛兵より少し立派な装飾をつけた一人の男性が近づきながら話しかけてきた。


「俺の名はザック。ここの責任者だ。お前は見ない顔だな? それにそっちはフロスト牧場の娘じゃないか」


 ザックは目線を落としワンダーを見る。


「この怪我は? 何があった?」


「実は……」


 彼女はモンスターに襲われたこと、僕が助けたこと、ワンダーがかばって怪我をしたのですぐに病院に連れていきたいことを簡潔に伝えた。


「よし、話は分かった。2人はこのまま病院へ行け。ただ……」


 ザックは振り返り、他の衛兵へ向けて


「誰か1人は馬車にこいつら乗せて病院へ連れていってやれ! そして3名はここに待機し残りは俺についてこい。念のため町付近のパトロールに行くぞ!」


 ザックは大声でそう叫ぶ。


 そして僕たちへ向けて早く行け、と目配せをしてくる。


「「ありがとうございます!」」


 僕たちは同時にお辞儀し馬車に乗り病院へと向かった。




 病院は二つの建物が連なっており、向かって右が人間の病院、左が動物&モンスターの病院になっている。


 僕たちは左の建物に入る。


「ベラさん! アレックスさん! いらっしゃいますか!?」


 彼女がそう叫ぶと奥の扉が開く。


「そんなに慌ててどうしたの?」


 50代頃だろうか?


 白衣を着て、眼鏡をかけた女性が現れた。


 この人がベラさんだろう。


「タスクボアに襲われた私をかばってワンダーが怪我を……」


 僕が抱えているワンダーをべラさんが確認する


「この傷は……、すぐ手術するわ! あなたたちはここで待っていなさい!」


 ベラと呼ばれた女性は僕たちに待機を指示し奥へとワンダーを運んで行った。

 



 2時間程経過し、彼女がベラさんに呼ばれて奥へ消えていった。


 15分ほどすると彼女が戻ってくる。


 その表情からは不安が消えていた。


「ここまで付き合っていただいてありがとうございます。ワンダーは無事手術が終わりこのまま入院させてくれるそうです。今は麻酔で寝ています。ベラさんが念のためもう少し付き添ってくれるそうですので、今日はひとまず帰って良いそうです」


 僕も胸をなでおろす。


「大事に至らなくてよかったです」


「あなたのおかげです。えっと……」


 この時初めて互いの名前すら聴いていないことを思い出した。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。僕はケント。ケント・スタインです」


「私はカレン・スノーです。ケントさん、本当にありがとうございました」


 そういって彼女、カレン・スノーは柔らかく微笑んだ。


 その微笑みを見た瞬間、僕の鼓動は静かに高まっていた。


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