第17話 誕生日
カレンのプレゼント作製のため『サンジュゴ』を倒し素材を手に入れた僕。
プレゼント作製は次の日から行うため、今日はそのままフロスト牧場へ帰る。
扉を開けるとカレンが出迎えてくれた。
「ケントさん、お帰りなさい。遅かったですねー」
そう言って僕を見て眼を見開くカレン。
「って、何でそんなにボロボロ何ですかっ!? 一体何をしてきたんですかっ!?」
「ははは……。ちょっとモンスターが手強くて……。でも何とか倒せましたよ」
悪いことをしているわけではないが、理由が言えないため、曖昧に弱々しい返事をしてしまう。
「そういう問題じゃありません! 病院には行ったのですか?」
「えーと……実はまだ行っていないです」
「では、明日は念のためしっかり病院で身体を診てもらってください!」
カレンは怒っていたが、急にしゅんと肩を下げ
「……私はケントさんの身体が心配なんです。ホントに無茶をしないでくださいね?」
そう言って泣きそうな眼で見つめてくる。
「すみません……」
そして僕もカレンを見つめ返す。
「うぉっほん!!」
なかなか入ってこない僕たちの様子を見にきたクリフさんがわざとらしく咳払いをして僕を睨んでいた。
妙な迫力が感じられる。
「やぁ、ケント君お帰り。立ち話も何だしとりあえず部屋へ行こうか。身体の汚れも落とさないとだね。さぁ早く行こう!」
クリフさんは有無を言わさず僕の背中を押し歩き始める。
そしてボソッと
「娘はやらんからね」
次の日僕はメオトーデに行く前に、カレンに言われた通り病院へ向かった。
ワンダーの入院しているベストオブフレンドの隣にあるベストオブライフへと入る。
ベストオブフレンドと同じような作りだった。
受付にはムーンが座っていた。
ムーンは病院のため看護師の格好をしている。
「あら、病院で会うのは初めてね。今日はどうしたの?」
「えっと、モンスターと戦って怪我をしてしまいました。」
「この間注意するように言ったばかりなのに」
「努力はしたんですが、ちょっと手こずっちゃいまして」
「まぁ、冒険者なら傷は付きものよね。じゃあ、問診票を書いたら呼ばれるまで待合室で待っていてね」
待合室に行くと、親子連れからお年寄りの方まで幅広い年齢層の人たちがいる。
何人か呼ばれた後、僕が呼ばれる。
男性の声だ。
部屋に入ると白衣を着た男性が椅子に座っており、僕のであろうカルテを持っている。
その後ろにルナが立っていて、僕に会釈してきたため、僕もかるく挨拶をかえす。
男性が話しかけてくる。
「初めまして。ケント君だね。僕はこの町で病院を経営しているアーサー・ロバートだよ。君のことはルナ君ムーン君それにアレックス君から聞いているよ。今日はどうしたんだい?」
「初めまして。ケント・スタインです。実は昨日サンジュゴというモンスターと戦ったんですが右脇腹に一撃貰ってしまって、念のため診てもらおうと思ったんです。」
「冒険者だから多少の怪我は仕方ないよね。とりあえず自分で動けているようだし、大きな怪我はないみたいだけど、ちょっと診ていくね」
そう言って触診を始める。
「骨にも内蔵にも異常はないね。ただ打ち身や擦り傷はいたるとこにあるね。特に攻撃を受けたという右脇は内出血になっているよ。あたりどころが悪ければ骨が折れて大怪我になっていたところだよ。気をつけてね。今日は塗り薬と痛み止めを出しておくからね。ルナ君、これを」
そう説明し、ルナへカルテを渡す。
「では、お大事にね」
薬を受け取り、僕はメオトーデへと向かった。
「やぁケント、いらっしゃい。遅かったじゃないか。」
チェスターが出迎える。
さすがに今日はエイミーは居ないようだ。
「実は念のためアーサーさんの病院へ行ってきたんだ」
「……カレンにでも言われたか?」
「ははは……。」
さすが幼馴染だ。
すべてお見通しらしい。
「それはそうと始めるか。師匠には許可を得ている」
「ありがとう!」
僕とチェスターは気合を入れて遅くまでプレゼント作りに打ち込んだ。
そして怪我をしているのにこんなに遅く、と今日もカレンに怒られるのだった。
5日後の午前中。
「ケントさん、雑貨屋に用って何なのですか?」
「ええ。雑貨屋で渡すものがあるんですよ。」
僕はカレンをストーリーへと誘い出し、誕生日を祝う準備がしてある雑貨屋パフェへと向かっている。
先程まではカレンとともにクリフさんの納品作業の手伝いをしていたが、雑貨屋に用があると伝え一緒に来てもらっている。
クリフさんにはもちろん説明済みだ。
クリフさんも
「娘のためにありがとう!」
と喜んでいた。
もちろん
「だが娘はやれないからね」
の一言を添えて。
雑貨屋パフェに着いたため店内へ。
「こんにちは」
「いらっしゃい。おや、2人ともきたんだね。エイミーとチェスターは部屋にいるから上がっておくれ」
アランさんに促されエイミーの部屋へと向かう。
「雑貨屋で渡すものってアランさんにじゃないんですか?」
「ええ。僕が用があるのは別の人です」
エイミーの部屋の前へたどり着く。
コンコンコン
ドアをノックする。
この3回のノックがカレンを連れて来た合図だ。
「はーい、どうぞ〜」
返事があったためカレンにドアを開けるよう促す。
ガチャ
「「パーンッ!!」
「「「誕生日おめでとう!!!」」」
カレンが部屋に入った瞬間、エイミーとチェスターがクラッカーを鳴らす。
そして3人でお祝いを述べた。
カレンは一瞬の出来事で理解が追いついていないようだったが、ようやく状況を理解したようで嬉しそうにする。
部屋の中には誕生日を祝うための飾り付け、そして料理やケーキが並んでいる。
「エイミー、チェスター、ケントさん。ありがとうございます! 今日はなんて良い日なんでしょう!」
「これだけじゃないわよ。チェスター!」
「ああ! これは俺たち3人からの贈り物だ。」
チェスターは丁寧に包装されたプレゼントをカレンへと渡す。
「……開けてもいいの?」
「もちろんよ。カレンのためのプレゼントなんだから。」
カレンが包装を解いていくと赤く輝く結晶を使った髪留めが入っていた。
結晶は兎の形をしている。
「可愛い!」
プレゼントを見て子どもの様に喜んでいる。
気に入ってくれているようだ。
チェスターが説明する。
「ケントが素材を取ってきてくれたおかげだ。それを俺が加工してエイミーが包装したんだ。」
「ちょっと、それじゃあ私包装しかしていないみたいじゃない! この飾り付けとか料理は私が用意したんだからね!」
「大丈夫よエイミー。私は分かっているから。3人ともありがとう。」
エイミーがニコニコし始める。
「さすがカレンね。ねぇ、付けてみてよ。」
エイミーに促され、カレンが髪飾りを後ろ髪へ装着する。
長い黒髪に赤く輝く兎がとても似合っている。
「カレン、ステキね!」
「作った俺が言うのもなんだけど、良く似合っているよ。なぁ、ケント?」
チェスターがにやけながらこちらに話を振ってくる。
「えぇ、とても。ホントに可愛いです。」
「えっ!? か、可愛いなんて……」
カレンがもじもじしている。
僕も自分で言ったことが恥ずかしくなり顔が赤くなる。
そして僕たちをみてニヤついているチェスターとエイミー。
「私たちがほめた時と比べて反応が違うわね」
「ああ。なんでだろうなぁ」
そんなことを話している。
そしてエイミーがわざとらしく言葉を発する。
「あー。そういえばジュースを用意し忘れちゃったー。ちょっと私買ってくるわねー」
続いてチェスター。
「おぉー。それは大変だなー。量も多いだろうから俺も付いていくよー」
2人は部屋から出て行く。
あきらかに棒読みだ。
その際チェスターは僕とすれ違いながら
「ここならクリフさんに邪魔されないぞ」
と呟き、エイミーを見るとウインクをしてくる。
部屋には僕とカレンが取り残された。
「ここって雑貨屋だからわざわざ買いに行かなくても売っているんじゃないんですか?」
カレンがもっともなことを言っている。
あの2人は意外と抜けているようだ。
でも、僕がプレゼントを渡すタイミングを用意してくれたことに心の中で感謝する。
「あのカレンさん!」
「?。 何でしょう?」
カレンが僕を見てくる。
僕はポケットに入れていたプレゼントをカレンに差し出す。
「これは僕からカレンさんへの誕生日プレゼントです。チェスターに加工の仕方を習いながら日頃の感謝を込めて作りました。上手く出来ていないかもしれませんが受け取っていただけませんか?」
「……ケントさんから、これを私に?」
カレンは眼を開いて驚いている。
そしてプレゼントと僕を見比べる。
「開けてみてください。」
カレンは先ほどよりもゆっくりとした動作で包装を剥がしていく。
そして中身を確認する。
自分の作ったものをプレゼントするなんて初めての経験だ。
心拍が高まり時間が永遠に感じる。
カレンは中身をその手に取る。
カレンの手にはネックレスがあり、青い結晶で出来たアクセサリーがついている。
それは言葉通りの結晶。
僕は雪の結晶を模したアクセサリーを作ったのだ。
「綺麗…………。」
カレンはそれ以上の言葉が出てこないようだった。
「貸してもらえますか?」
僕はカレンからネックレスを受け取り後ろへ回る。
髪には先ほどの赤い兎が輝き、髪を束ねている。
そしてカレンの細い首元へネックレスをかけた。
カレンの白い雪のような肌に青く輝く幻想的な雪の結晶が輝いている。
「ケントさん。」
カレンが後ろを向いたまま話しかけてくる。
「何でしょう?」
「もしかしてですけど、最近帰りが遅かったり、この間身体がぼろぼろだったのはこれのためですか?」
「ええ。カレンさんにはお世話になっていますし、喜んでもらいたかったので。」
「そう……ですか。私のため、だったんですね……」
後ろから見たカレンの肩は少し震えているようだった。
*
カレンの心の中ではいろいろな想いが交差している。
ケントの怪我が自分のためだったこと、プレゼント作りのせいで遅くなったのに、それを知らずに怒ってしまったこと、こんな素敵な物をプレゼントしてくれたこと。
気づくとカレンの眼から涙が溢れていた。
そして今までは何となく持っていた自分の想いが確信に変わった。
手で涙を拭き、ケントに想いを伝えるため後ろを振り向く。
*
カレンの肩が震えている。
抱きしめたくなる気持ちを押さえて声を出そうと息を吸う。
その瞬間カレンが動いた。
手を顔へ持っていき、少し動かす。
そしてこちらに振り向いた。
「ケントさん、プレゼントありがとうございます。とても嬉しいです。必ず大切にします。それから…………」
ダッダッダッダッダ、バタンッ!!!!!
扉が勢い良く開き、そこにはジュースを持ったクリフさんが立っていた。
後ろには両手を合わせ「すまないっ!」「ごめん」とジェスチャーをしているチェスターとエイミーがいた。
「いやぁね、カレンの誕生日会をしているはずのチェスター君とエイミーちゃんが外にいたものだからどういうことか問いつめ……ううん、教えてもらってね。2人の荷物が多そうだから一緒に運んであげたんだよ」
と言ってクリフさんは笑っているが、こめかみがピクピクしており、何より眼が怖い。
「さぁ!! カレンの誕生日のお祝いをしようじゃないか!」
クリフさんが妙に高いテンションで、僕の肩を力強く叩きながら言ってくる。
そしてクリフさんも加わりカレンの誕生日会が開かれた。
クリフさん、チェスター、エイミーの3人はカレン以上に盛り上がっている。
そんな中、カレンは先ほど言えなかった言葉を誰にも聞こえないようつぶやく。
『それから…………私はケントさんのことが好きみたいです』
カレンは首からかかっている青い雪の結晶を握りながら、その瞳にケントを映すのだった。




