第15話 ブラッド・クロス
今日はクリフさん、ランさんと町へ来ている。
朝のうちに牧場仕事を行い、留守番をカレンとセシリーに託し、ストーリーへとやってきた。
もちろん僕は馬車の護衛だ。
町へ向かう途中、ゴブリンに襲われそうになったが、ファイアボールを放つと一目散に散っていった。
この辺りのモンスターは少しの威嚇で追い払うことができる。
稀に向かってくるモンスターもいるが。
町に着いた僕はクリフさんたちと別行動になる。
「僕たちは各店への納品と挨拶周りに行ってくるよ。また夕方になったら落ち合おう」
「じゃあまた後でね、ケントさん」
クリフさんはランさんが馬車に乗るのを確認し、馬の手綱を引く。
2人は馬車に乗ってその場を離れていった。
馬車が道を曲がり見えなくなるのを確認してから
「さて。今日は何をしようかな」
ギルドへ行くか、町の依頼を受けるか、鉄鋼石を採掘しに行ってからチェスターに鍛治を習うのもいい。
どうするか思案をしていると、見覚えのある人影が見えた。
「あれは……」
青い髪をした男性である。
(あの人は宿屋に泊まっている冒険者の1人、確かブラッド・クロスさん? と言ったかな。)
無口な印象だったため名前もうろ覚えだ。
僕は声を掛けるため近づく。
「ブラッドさん?」
若干、疑問形になってしまった。
「ケントか」
ブラッドは振り向き、僕を確認する。
疑問形だったのは特に気にした様子は無さそうだ。
そしてブラッドはしっかりと僕の名前を覚えていたようで申し訳ない。
「ケントは何をしているんだ?」
「それが何をしようか考えていたところだったんですよ」
「ふっ。なんだそれ」
正直に答えるとブラッドがクールに笑う。
「ブラッドさんはどちらへ?」
「俺は図書館に行くところだ」
「図書館? 何か調べ物ですか?」
「それもあるが、この町の図書館では同時に魔術書の販売も行っているんだ」
「魔術書の販売ですか? 図書館なのに珍しいですね」
基本的に魔術書は専門の店があり、主に商会が組織的に販売を行っている。
魔術書とは熟練の魔術師が一つ一つ手作業で魔力を込めながら書き記し、魔術を広めるための書物である。
魔術を覚えるために、本に込められた魔力を少しずつ自身に吸収しながら、内容を読み解くことで本に書かれた魔術を会得することができる。
その性質上、一度読み解くと本に魔力がなくなるため、一冊につき1人しか魔術を会得できない。
強力な魔術程、本に魔力を込めることが難しく流通自体も少なく、又、オリジナルの魔術をわざわざ広めようとする者も少ない。
そのため専門の店ではリサイクルなどの一般的な魔術を安定して提供できるようになっている。
「図書館だが、そこの司書が魔術師でな。そいつが集めた珍しい魔術書や自分で作った魔術書を販売をしているってわけだ」
冒険者としても魔術書や魔術書を作り出せる人物に興味があった。
「……一緒に行くか?」
僕が行きたそうなのが分かったのだろうか?
そう言ってくれた。
「是非!」
僕はブラッドの後を付いていく。
ブラッドは歩くスピードが速いため付いていくのがやっとだ。
だが離されることはない。
これでも僕に合わせてくれているらしい。
しばらく進むと古い大きな建物へと辿り着き中へと入る。
図書館の中にはパッ見ただけでも数万冊の本が並べてあった。
(一生かけても読みきれないだろうな)
そんな感想が浮かんだ。
奥にはカウンターがありその前の椅子に1人の女性が座っている。
ウェーブのかかった長くエメラルド色をした髪、モノクルを掛けて何かの本を読んでいる。
よく見ると耳が少し尖っているようだった。
エルフと呼ばれる種族の特徴だった。
服装は胸元があき、スカート部分には長いスリットが入っている。
神秘的な女性だった。
彼女はゆっくりと本を閉じこちらを見ずに話しかけてくる。
「ブラッド、またきたのね」
「あぁ。ここには興味深い本が多いからな」
「当然よ。この私が集めたのだから。ところで珍しいわね。あなたが誰かを連れてくるのは」
そう言って女性は初めてこちらを向く。
「コイツが魔導書に興味がありそうだったからな。」
「 うふふ。私はエリアル・クルス。ここで司書をしているわ」
「 僕はケント・スタインです。冒険者をしています」
「そう。……あなた、良い眼をしているわね。冒険者として大成するわよ、きっと」
「そんな。お世辞でも嬉しいです」
「お世辞ではないわ。それに大成=貴方の強さというわけではないわ」
「? それってどういう……」
そこへブラッドが会話に入ってくる。
「話途中で悪いが『ウッドプラント』について調べたいんだが?」
「それなら奥から二番目の棚の右端にあるわ」
「分かった」
そう言い残し奥へと消える。
「無愛想ね」
呟いてはいるが顔は笑っている。
「エリアルさんは、どこに何の本があるか覚えているのですか?」
ブラッドの問いに即答したエリアルに感心する。
「当然でしょ。私、物覚えは良い方だから」
自慢するわけでもなく淡々と言っているため、見栄を張っている様子もない。
おそらく事実なのだろう。
僕は数万冊ある本を改めて見て、唖然としてしまう。
「で、あなたはどうするの? 魔術書に興味あるらしいけど?」
エリアルの声でハッと我に返り目的を伝える。
「僕は魔術書が欲しいのですが……」
「じゃぁ、何か魔法の希望はあるかしら?」
「特には決めていないんですけど、エリアルさんのおススメってありませんか?」
「そうね〜。ちなみに今は何の魔法が使えるのかしら?」
「初級魔法のファイアボールとライトニング、あとはリサイクルだけですね」
「そう。分かったわ、ちょっと待っていてね」
エリアルはカウンターの内側に入りカウンター下から本を選んでいる。
「よいしょっと!」
カウンターの上に3冊の本を乗せた。
「とりあえずこの辺りが使いやすくておススメよ。『エアスラッシュ』『アクアジェット』『ロックウォール』」
僕はそれらを手に取り眺める。
「エアスラッシュは複数の小さな風の刃で相手を切り刻むわ。斬撃タイプの魔法よ。アクアジェットは高水圧の水を相手に叩きつける魔法。ロックウォールは土の壁を作り出す防御魔法ね。どれも初級魔法で使い勝手が良いわ。初級魔法とはいえ炎と風、水と雷などの魔法同士を組み合わせて使うと威力を高めることができるわよ。魔法を使うなら複数の属性があった方が便利ね」
エリアルが分かりやすく説明をしてくれた。
「ありがとうございます! ちょっと考えてみます!」
風魔法なら僕の覚えているファイアボールと相性がよい。
水魔法ならライトニングと。
防御もあるといざという時に助かる。
少し高くつくが、今後のためにも僕は2冊の本を買うことにした。
「お買上げありがとうございます」
エリアルがにこにこしている。
「決まったのか?」
ブラッドが戻ってきた。
「ええ。とりあえずは」
「そうか。では次は俺が魔術書を買おう」
僕は今ブラッドさんと町外れでゴブリンの巣を探している。
手に入れたばかりの魔術を試しに来たのだ。
「ギギッ」
ゴブリンが5体現れた。
「ケント、分かっているな」
「はい!」
ゴブリンがこちらに突っ込んでくるところに向かって右手をかざし魔術を放つ。
「ファイアボール」
そして左手をかざし
「エアスラッシュ!」
2つの魔法が両手から同時に放たれる。
ファイアボールの火がエアスラッシュと混ざり合い、炎を纏った風の刃は切り裂くと同時に相手を焼ききる。
通常のファイアボールと違い、いくつもの小さな風の刃で広範囲に攻撃ができ複数の敵を倒すことができる。
「ギガ!?」
だが1体が残っていた。
否!
残しておいたのだ。
独りとなったゴブリンは踵を返して慌てて逃げていく。
「良くやった! 追うぞ!」
ブラッドが叫ぶ。
僕たちはゴブリンを見失わないように追いかける。
僕たちは作戦を立てていた。
わざと1体残し巣まで案内させるのだ。
「あそこのようだな。いくぞ」
僕たちは巣へと近づく。
見張りのゴブリンがこちらに気づいた。
手には弓矢が握られていた。
弓矢を構え矢を射ってくる。
「ケント!」
「ロックウォール!」
地面から土の壁がせり上がり、弓矢を弾き消滅する。
騒ぎを聞きつけてたゴブリンたちが集まりだした。
「今度は俺の番だな。」
ブラッドは笑っている。
好戦的な笑いだ。
そして集中し一気に魔力を高める。
『メテオレイン!!!!!』
上空に直径1m程の火の玉が複数構築されゴブリンに降り注いでいく!
僕の先程の魔法とは比べものにならない高威力の広範囲魔法だ!
ゴブリンは逃げ惑うがどこへ行こうと逃げ場がない。
一瞬にして壊滅させてしまった。
僕は驚きに眼を開く。
その光景を見ながらブラッドが語る。
「今度討伐予定のウッドプラントなんだが、本体は動かず地面に根を張り、どこまでも伸びる枝やツタで攻撃してくる。地面から栄養を吸収し、切っても切っても再生してくる厄介なモンスターだ。倒すには高い威力で本体を一撃で仕留める必要がある。」
僕に振り向き
「これならバッチリだ!」
好戦的な笑いではなく純粋な笑顔で言うのであった。




