第14話 春の感謝祭2
「ストーリーの町のみなさん。今日は春の感謝祭です。皆で食事を作り、食す。食事はもちろん、他者との会話も楽しみながら過ごす時間にしてください。会話と笑顔こそ最高の調味料です。そして………………」
……今皆の前で拡声器に向かって話をしている人が町長のブライアンさんらしい。茶色い長髪と立派な髭を生やし、堀の深い威厳のある顔つきをしている。
挨拶が終わり、感謝祭が開催される。
集まった料理人達にランダムに食材が割り振られる。
食材をみて頭を悩ます者、すぐに調理に取り掛かる者、様々だ。
キャロルはすぐに調理を始めており、アーロンさんは少し考えてから調理を開始している。
出来上がるまで時間がかかるため、僕たちは場所を移動する。
人混みの中に見知った顔があったため話しかけにいく。
チェスターとエイミーだ。
「チェスターにエイミーさん、こんにちわ」
僕は先日からチェスターから鍛治を教えてもらっている。
その時、よそよそしいのはやめようと互いに敬語を使わなくなっていた。
「やぁ、ケントも来ると思ってたよ」
「こんにちわ」
2人が挨拶を返す。
エイミーは僕たちを交互に見た後に、カレンに近付き
「よかったわねー、カレン?」
「ちょっとエイミー、どういう意味よ!?」
「ふふ。別に深い意味はないわよ」
エイミーはカレンの反応を楽しんでいるようだ。
(確か幼馴染なんだっけ?)
おそらく昔から色々から、からかわれていたのだろう。
チェスターがまたか、という顔で見ている。
僕はチェスターたちに質問する。
「2人はデートかい?」
「そんなんじゃないよ。ただの昔からの遊び仲間だからなんとなく一緒に行動しているだけだよ」
「私だって良い人がいれば、チェスターなんかとじゃなくて、その人と一緒に過ごすんだけど」
「俺だって。
ふたりしてそんなことを言っている。
カレンがこっそり
「なんだかんだで息ぴったりなんです、この2人」
と教えてくれた。
しばらく話をした後、2人と別れて再びその場を移動する。
「あ、ダリウス君だ〜」
タッタッタッタ
「セシリー、待って。急に走らないの!」
セシリーは友達のダリウスを見つけてかけて行った。
僕とカレンも後を追う。
セシリーが向かった先にはダリウスとアレックス、そして見知らぬ女性2人と一緒にいた。
「ダリウス君、お兄ちゃんにお姉ちゃん、こんにちわ〜」
「こんにちわ」
セシリーの挨拶に対しそれぞれが答える。
「やっと追いついた。もう、セシリーったら」
僕たちが追いつくとアレックスが話しかけてくる。
「ケント君、カレンさん、こんにちわ。いつもセシリーちゃんには弟のダリウスの良い遊び相手になってもらっているみたいで」
「いえいえ、ウチのセシリーこそお世話になっています」
そう言ってお互いにお辞儀をしあっている。
すると横から
「ねぇ、アレックス? そろそろアタシたちも話に参加してもいいかな?」
2人の女性のうち、1人が聞いてくる。
「ああ、ごめんごめん」
アレックスはとなりの女性たちに話を譲る。
「こんにちわ。アタシはムーン・ライト。となりにいるのは妹のルナ・ライトよ。アタシたち、双子なの」
「……ルナ・ライトです……。よろしくお願いします……」
2人は双子らしいがタイプ的には正反対のようだ。
姉のムーンは薄いピンクの髪色で、ショートカットヘア。
スレンダーで活発な印象だ。
対して妹のルナは薄い水色の髪でストレートロングヘア。
前髪で目元が隠れている。
スタイルが良く全体的におどおどしている印象だ。
が全体的な雰囲気は似ている。
「アタシたちは2人ともこの町の病院『ベストオブライフ』で看護師をしているの」
ベストオブライフはアレックスのいるベストオブフレンドの隣にある病院だ。
ワンダーのことでベストオブフレンドに行くが、そちらの建物には入ったことがない。
アレックスが補足する。
「病院のドクターであるアーサーは自分の親友なんだよ。今日は来なかったみたいだけどね」
「ドクターなら、何かあったとき僕が病院にいないと困るからって病院に残ってるわ。ね、ルナ?」
「……はい……」
心なしか寂しそうにみえる。
こちらも自己紹介を行う。
「僕はケント・スタインです。冒険者をしているので、今後お世話になるかもしれないですね」
すると
「…………お世話に……なるような……怪我を……したら……ダメ……です…………」
先程よりも声色を強くしたルナに怒られた。
強く発言するような印象では無かったため驚いてしまう。
「その通りです。ケントさんが怪我をしたら私は悲しいですから。本当に気をつけてくださいね」
さらにカレンに怒られた
「そうね。病院なんてこないに越したことはないわ。元気が一番!」
そしてムーンが締めくくる。
みんなに注意され申し訳なくなる。
「怪我のないよう努力します」
それしか言えなかった。
そろそろ料理が出来上がるらしい。
すでにいくつかの行列ができている。
もちろんキャロル&バリーとアーロンさん&オードリーさんのところにも列ができている。
僕たちも並ぶ。
アレックスたちも一緒だ。
まずはキャロル&バリーのところへ並ぶ。
「私たちのところにはカレンさんとセシリーちゃんの用意していたチーズと卵が運良く当たったため、半熟卵をのせたチーズグラタンを作ったのですわ!」
「味には自信あるんだ」
自信満々にキャロルが勧めてくる。
アツアツで美味しそうだ。
「「「いただきます」」」
「「「いただきます」」」
「…………いただき……ます……」
ルナは少し遅れて言っている。
濃厚なチーズにとろりと半熟卵がからんでとても美味しい。
「この卵、セシリーが持ってきたんだよ〜」
「とっても美味しいよー」
「えへへ〜」
セシリーとダリウスがそんな会話をしている。
チーズグラタンに満足しているようだ。
次はアーロンさん&オードリーさんの列に並んで料理をいただく。
「俺たちはケントの持ってきたタスクボアの肉や野菜を使ったスープだ。食べてみてくれ」
食材の味が染み込んだ暖かいスープを一口。
身体だけでなく心まで温まるようだ。
スープに含まれる全ての栄養が身体を駆け巡る。
「やっぱりアーロンさんの料理は美味しいわね。今度、ドクターを誘ってご飯行きましょうよ。ねえ、アレックス?」
「いいね〜。もちろんルナも行くだろ?」
「この娘なら必ず行くわよ。ねぇ、ルナ?」
「…………はい……」
ムーンはニヤニヤ笑い、ルナは顔から火が出そうなくらい真っ赤にしている。
その後もいくつかの料理を食べて回った。
閉会式。
再びブライアンからの話がある。
優勝発表だ。
「今回も大変に美味しいものばかりだった。その中で最も評価が高かったのは
…………アーロン・ブルームとオードリー・ブルームに決まった! おめでとう!」
アーロンさんたちが表彰される。
拍手の中アーロンさんが誇らしげにしている。
「悔しいですわ。何がダメだったのでしょう?」
広場の片付けを終えた頃、キャロルとバリーが反省会をしていた。
「ガッハッハ。そりゃお前たちがまだまだってことだ!」
アーロンさんは上機嫌だ。
「……親父さん、俺たちには何が足りないのか教えてもらえますか?」
「お願いですわ」
「それは私が説明しようか?」
現れたのは町長のブライアンさんだ。
「アーロンさん、改めておめでとう」
「はっは。ありがとうございます」
ブライアンさんはキャロルとバリーに向き合う。
「さて、何がダメだったのか。それは食材の活かし方だよ」
「活かし方?」
「そうだ。料理の腕では君たち2人はアーロンさんたちに引けを取っていなかったと思う。君たちはチーズという一つの食材をベースに料理を作り上げていた。それに比べてアーロンさんはタスクボアの肉をを始め複数の食材の味を上手くまとめ上げ一つの料理にした。一つの味で複数の食材をまとめあげるか、複数の食材で一つの味を作り出すか、そこに違いが生まれたのだよ。あともう一つ。この町は若者よりも年配者が多い。チーズという濃い味付けよりも優しい味が好まれたのだよ」
キャロルたちは今回は割り当てられた食材を見て運が良いと思っていた。
濃厚なチーズというインパクトのある食材に頼ってしまったのだ。
「良く分かりましたわ。説明ありがとうございます」
「次はもっと上手くやってみせます!」
2人は闘志を燃やしているようだ。
そんな2人を満足気に見守るのはアーロンさんとオードリーさんの優しい眼だった。




