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僕の日常物語  作者: todayone
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第13話 春の感謝祭

 ハングリーベアを討伐した後、僕は気付いたことがある。


 戦いの最中ではタスクボアの血かと思い気にしていなかったが、良く見るとハングリーベアの肩から血が垂れた後があった。


 血はすでに赤黒く凝固しており、その部分の体毛をずらしてみる。


 ハングリーベアが激怒していた理由がそこにあった。


 ハングリーベアの肩には大きな歯型がついており、おそらく犬歯に値する部分は肉体を貫通していた。


 タスクボアを食べなかったのも僕を狙ってきたのもハングリーベアの空腹ではなく怒りによる八つ当たりだったようだ。


 だが怒り任せで周りが見えていなかったことが奴の敗因だった。


 それと同時にこの歯型の持ち主に対して恐怖を覚えるのであった。


 僕は山を降りギルドへ向かう。


 フレイさんへの達成報告を済まし、今後Bランククエストを受注できるようになった。




「いやぁ、それにしてもハングリーベアに噛み付く相手か。そうなると最低でもBランク以上のモンスターになるね。充分に気をつけていかないと。いざとなったらケント君、頼んだよ」


 そう言ってくるのはクリフさんだ。


 夕食後、僕は昼間のできごとについて話していた。


 無駄に怖がらせては悪いと思い、セシリーが寝たのを確認してから話をしている。


「あなた、そんなに強いモンスターならケントさんに無理はさせられないわよ。ケントさんも、いざとなったらまずは自分の身を守るんですよ」


 ランさんが心配をしてくれる。


「私は心配していませんよ」


 カレンがそう言い放つ。


 そして


「だってケントさんのことを信じていますから。」


 カレンは微笑みながら、まっすぐ僕を見てくる。


 僕は嬉しくも恥ずかしい、そんな気持ちになってくる。


 思わずカレンを見つめてしまう。


 改めて見ても可愛らしいと思っていると


「おっほん!」


 クリフさんが咳払いをし睨んでくる。


「ケント君、娘はやらないよ」


 そう釘を刺してきた。




 今日はカレン、セシリーと町へ来ている。


 道中ゴブリンに出くわしたが問題なく撃退した。


 僕達は町の中央に位置する広場へと足を運ぶ。


「今日は春の感謝祭の日です! 春感謝祭は町の人達が、春の実りに感謝をし、野菜や食べ物を持ち寄ってそれを調理したものを食べようという町の行事なんです! ちなみにこの感謝祭行事は春夏秋冬ありますよ」


 とカレンが自慢気に説明してくれた。


 さらに補足をすると、これも町の活性化のためにという町長ブライアンさんの考えらしい。


 そんなカレンが持ち寄った食材は牧場で取れた牛乳を加工したチーズだった。


「わたしこの行事好きなんだぁ。美味しいものがたくさんあるんだもん!」


 セシリーの手には卵が持たされている。


 そして僕はこの日のために討伐したタスクボアの肉を持ってきた。


 リサイクルの魔術を使うと肉は残らないため、町で借りたリアカーを持っていき、倒したタスクボアを乗せて町のギルドまで運び解体してもらったのだ。


 この世界ではモンスターの肉も流通は少ないが食材として扱われるものも多い。


 みんなが喜ぶと思い張り切ってしまった。


 広場には沢山のテーブルが並んでおりその上には調理器具と調味料、そしてみなが持ち寄った食材が置かれていた。


 そして町の料理自慢達が集まっている。


 この行事では、最後にどの料理が一番美味しいかの投票も行われる。


 持ち寄った食材は完全にランダムに振り分けられ、その場で作るものを決める。


 あり合わせのものを使い、即興で作るからこそ、その腕が試されるのだ。


 時々、意外な料理が出てくるためそこが楽しいらしい。




 その中にブルーム亭の店主、アーロンさんとその妻のオードリーさんがいた。


 2人に近づく。


「こんにちわ!」


「あぁ、ケントか。お前も来てたんだな」


「料理、楽しみにしていてね。あたしたちはこれでも優勝候補なんだからね」


 2人は過去に何度も優勝しているそうだ。


 そこへ


「今回の優勝こそは(わたくし)たちですわ」


 聞いたことのある声がする。


 ブルーム亭の娘のキャロルだ。


「今回の優勝はお父様方ではなく、(わたくし)たちが優勝する姿を御覧に入れますわ!」


 可愛らしいピンクのエプロンをつけているキャロルが近付いてくる。


(わたくし)たち?」


 僕は首をかしげる。


「それは俺のことさ」


 キャロルの後ろから1人の男性が現れる。


 髪は短髪で、僕より少し年上のようだ。


「やぁ、はじめまして。俺はバリー・ディオン。ブルーム亭で、住み込みで働かせてもらっている。キミがケント君だね」


 短髪の爽やかなお兄さんといった感じの青年が現れた。


「はじめまして」


 僕たちは挨拶を交わし、隣でアーロンさんとキャロルが会話を続けている。


「言うじゃないか、キャロル。そりゃぁ、いつかはブルーム亭はお前たち任せることになるし、その時には俺たちを超えてもらわなければ困る。だが今はまだお前たちには負けんよ」


「そんなことはありませんわ。それを今日証明してみせますわ。そうよね、バリー?」


 キャロルは急にバリーの手を取り話を振る。


「いや、俺なんかじゃまだまだ親父さんの腕には及ばないよ。俺は自分のできる全力で料理をするだけさ」


「もう、バリーはもっと自信を持った方が良いですわ」


「そうだぜ。じゃなきゃ、いつまでも俺を超えられないぞ」


「そうよ。あんたには期待しているんだからね。」


「え? いつのまにか俺が責められてる?」


 いつのまにかキャロル達、ブルーム一家の意見が一致し、バリーの責めに回っている。


(仲が良いんだなぁ)


 微笑ましい光景を目撃した後、僕達はその場を離れ受付へと向かう。




 受付でカレンが食材を差し出して


「これ、お願いします。」


 僕とセシリーもそれに続いて食材を受付へと渡す。


 もうすぐ開会の挨拶が始まるらしい。


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