第11話 チェスター・ガルド
チェスターからの依頼と、ギルドからのクエストをクリアしたため、ストーリーの町へと向かって歩いている。
リュックに入っている鉄鉱石が重いが今は気にならない。
新しい町で初クエストをこなし、さらに住人の依頼を達成できたため清々しい気分だからかもしれない。
自然と足取りも軽くなるというものだ。
町へ入り、まずはギルドへ向かう。
ギルドはクエストを終えた冒険者で賑わっているが、僕は人混みを避けながらフレイさんの受付へと並ぶ。
「ケント様、おかえりなさいませ。ご無事で何よりです」
フレイさんが優しく出迎えてくれる。
「ではクエストの報告をお願いいたします」
フレイさんに促され、クエストの達成報告として魔石を提出する。
「グラトニーキャタピラー9体にグラトニーピューパ1体ですか。戦いの最中に進化とは滅多にないのですが運が悪かったですね。では、その分報酬に上乗せさせていただきます。それと討伐時の他の素材の買取はどういたしますか?」
「一緒にお願いします」
フレイさんが素材を鑑定してくれ、金額を算出する。
僕はフレイさんから報酬と、買取をしてもらった素材の代金を受け取る。
「ありがとうございます」
「ではまたお越しくださいませ」
フレイさんに丁寧に見送られた。
(次はチェスターさんのところだ!)
僕はメオトーデへと足を運ぶ。
「カーン! カーン!」
扉を開けると椅子に座ったチェスターが竃と向き合い、何か作っているようだ。
額から汗が滴るのも気にせず火の色を見つつめ、時々取り出してはハンマーを振り下ろしている。
集中しているため邪魔しないように遠くから見守る。
途中、ディックさんがやってきて僕がいることに気付き、チェスターを呼ぼうとしていたが、作業を中断させるのも悪いと思い、終わるまで待たせてもらっている。
ディックさんが椅子とお茶を用意してくれたため、ありがたくいただく。
リセという植物の葉から作られるお茶らしく、疲労回復に良いそうだ。
1時間ほど経った頃
「ふぅ〜」
チェスターがそんな声をあげた。
一段落ついたようだ。
「おつかれ様です」
「えっ!? わ、わっ!?」
バタンッ!!
急に声をかけたため驚かせてしまったようだ。
チェスターはバランスを崩し倒れてしまう。
「大丈夫ですか!? チェスターさん!」
僕は慌てて駆け寄りチェスターに手を差し伸べる。
「すみません、ケントさん。来ていたんですね。話しかけてくれれば良かったのに」
チェスターは僕の手を掴み立ち上がる。
「ええ。でも集中しているようでしたので」
そこへディックさんが笑いながら声をかけてきた。
「はっはっは! そういうお主もだいぶ集中して見ていたようじゃがの。そんなにチェスターの鍛治作業が面白かったのか?」
「はい。鍛治をしているところをじっくりと見る機会なんてあまりありませんから。それに冒険者としても、武器が作られているのを見ていて新鮮でしたし、奥が深くて面白いなと思いました」
「いやぁ、俺なんかの見ても仕方ないですよ。まだまだ半人前ですから」
そう言ってチェスターは照れながら頭をかいた。
「ふぅむ」
その様子を見ていたディックさんが何か考えるように自分の髭を撫でていた。
僕は依頼されていた鉄鉱石と借りていたハンマーをチェスターへと渡す。
「ハンマーありがとうございました。実は森に行く際に討伐クエストも受けていったんですが、討伐対象のモンスターに斬撃も魔法も効かなくて……。このハンマーを使わせてもらっちゃいました。おかげで討伐できたのですが、勝手に使ってしまい申し訳ありませんでした」
僕はチェスターに向かって頭を下げる。
「いいですよ、それぐらい。むしろ役に立ったみたいでよかったです。それに俺の作ったものがモンスターに通用することが分かりましたし、このハンマーも喜んでいますよ」
そう言ってにこやかに笑ってくれる。
そして
「ケントさん、もし良かったらこのハンマーをもらってくれませんか? 俺の作ったものが冒険の役に立っていると思うとモチベーションが上がりますから!」
チェスターがハンマーを渡し返してくる。
「いいんですか? でも……」
僕が受け取るか迷っていると再びディックさんが口を開いた。
「もらってやってくれ。チェスターは確かにまだ半人前じゃが筋と才能は良い。そのハンマーはいろいろと役立つじゃろうて。……それとこれはワシからの提案なんじゃがな。ケントよ。先ほど鍛冶のことを、奥が深くて面白い、と言っておったな。鍛治に興味があるならチェスターから鍛治を学んでみんか?」
「「えっ!?」」
僕とチェスターが同時に声を上げる。
「何を言っているんですか!? 俺は今、師匠が言ったように半人前です! 人に教えるなんて無理ですよ!」
チェスターがディックさんへ必死で訴えている。
ディックさんは慌てているチェスターと向き合い、ゆっくりとした言葉で語りかける。
「お主が半人前なのは百も承知じゃ。だからこそじゃ。人に教えるからこそ己の修行にもなる。理解しているからこそ人に教えられる。逆を言えば教えられないということは己が理解していないということじゃ。正しく教えられないところがそのままお主に足りないこととなる。そしてケントよ」
今度は僕と向き合い語り掛けてくる。
「お主は基本、チェスターに教えられることになる。無論、手が空いたらワシも見てやるがの。その代わり、チェスターが練習に使う鉄鉱石を定期的に持ってきてくれんか? チェスターがもっとるハンマーを使ってな」
話しながらチラッとチェスターの手にあるハンマーを見やる。
僕はその場で考える。
(なるほど。僕に教えることによりチェスターさんの成長につながる。そして僕が教わる代わりに鉄鉱石を持ってくることでチェスターさんが練習の材料に困ることがなくなる)
弟子思いのディックさんの気持ちに胸が温まるのを感じる。
(こういう関係、いいな~)
そんな弟子想いのディックさんの気持ちも踏まえて僕は答えを決めた。
『ぜひお願いします!!』