第10話 一石二鳥
町の人→依頼板→依頼
討伐系なし
アイテムや素材集め。
ちょっとした頼みごと
ギルド→クエストボード→クエスト
モンスター討伐系
こんな感じで区別しています。
チェスターから受けた依頼を果たす前に僕はある場所へと向かう。
チェスターから渡された鉄のハンマーは剣と一緒に腰に吊るしている。
大通りを歩き向かったのは町のギルドだ。
「あった!」
何故ギルドへきたのかというとクエストを探しにきたのだ。
チェスターの依頼である鉄鉱石を採掘するのは町を出て北に向かったところにある森の入り口だった。
森ならばモンスターが出るため何かクエストがあるのではと思い、クエストボードの確認にきたのだ。
『グラトニーキャタピラー 討伐クエスト C−ランク』
というものが見つかった。
グラトニーキャタピラーとは暴食の芋虫。
強さはそこまでではないが、集団でいるため放っておくと森一つをすぐに食い尽くしてしまう。
僕はクエストボードから剥がした紙を受付にいるフレイさんへと持っていく。
「ケント様いらっしゃいませ。申し訳ありませんが、受けていただくBランククエストはまだ選考中なんです」
「いえ、今日はCランクを受けようと思いますのでこれをお願いします」
「グラトニーキャタピラーの討伐ですね。手続きをいたしますので少々お待ちください」
そう言ってテキパキと書き物を始めた。
やはり仕事のできる女性のようで、手際の良さに思わず見惚れてしまう。
「……お待たせいたしました。クエストは受理されました。クエストはキャンセルするとキャンセル料が発生し、またギルドからの評価が下がりますのでお気をつけください。ですが無理は禁物です。御武運をお祈りします」
そう言って僕を見送ってくれた。
町から北に進んでいく。
道沿いには川が流れており、セツナという木が等間隔で植えてある。
セツナという木は春になるとそれは綺麗で鮮やかな花を一斉に咲かせるのだが、1週間という短い期間しか咲くことはない。
それ故にセツナという名前なのだ。
まだ蕾のようだが、いずれ綺麗に咲き誇るだろう。
1時間ほど歩くと森が見えてきた。
すぐに森には入らず、先に採掘場へ向かうため森の入り口から西に向かって、さらに20分ほど歩く。
広い崖が見えてくると、そこにいくつかの壁穴が空いていた。
付近に見張り台があり、チェスターからの依頼書を見せて採掘の許可をもらう。
適当な穴に入ると、中は照明が設置してあり以外と明るい。
洞窟が崩れない様に補強がされており、比較的新しい部分もあるため定期的に補強を行っている様だ。
奥の壁に近づきチェスターから預かった鉄のハンマーを構え振りかぶる。
ドーン! パラパラパラパラ。
少し壁が崩れる。
ドーン!パラパラパラパラ。
ドーン!パラパラパラパラ。
ドーン『カキン!!!』
壁がある程度まとまって崩れ、その中から目的の岩を丁寧に取り出す。
赤黒い色をした岩が取れ、チェスターから預かったものと比べて同じものと確認する。
同じ作業を繰り返し、複数の鉄鉱石を手に入れた。
それをリュックに詰め込み、ハンマーは再び腰へと戻す。
これでチェスターの依頼は達成した。
次はグラトニーキャタピラーの討伐クエストだ。
再び20分かけて森の入り口に戻ってきた。
そして周りを確認してから一番高い木に登り、周りを確認する。
「あそこか!」
視線の先には一面緑の中にポッカリと茶色く拓けた部分があった。
グラトニーキャタピラーが木々の葉を、食べたせいで木の枝と地面が丸見えなのだ。
僕は気配を潜めながらその場所へ向かう。
森の茂みからグラトニーキャタピラーを確認する。
全長2mほどの巨大な芋虫が一心不乱に葉を食べている。
数は10体だ。
僕はゆっくりと腰の剣を2本抜く。
まずはタスクボアの時と同じく先手必勝。
10体のうち、満腹なのか、後方で休んでいる1体に狙いをつける。
そして
「ファイヤーボール!」
剣を持ったまま手を突き出し、魔力を込めてそう唱える。
手の前に30cmほどの炎の玉が構成され、グラトニーキャタピラーに飛んでいき……1体へと命中した。
「グギャァァァ」
グラトニーキャタピラーは煙と共に断末魔の叫びをあげる。
森の中で火の魔術を使うのはきけんだが、幸い周りの燃えそうな草木はグラトニーキャタピラーによって食べられているため燃え移る心配はない。
僕は間合いを詰めるためグラトニーキャタピラーに向かって走りだす。
残りの9体が一斉にこちらを向き、一斉に糸を吐いてくる。
糸は幅が1cmほどあり、浴びれば身動きが取れなくなってしまうため当たるわけにはいかない。
右へ左へかわしながら一番手前にいた1体へ近付き袈裟斬りをし、グラトニーキャタピラーが倒れる。
倒れたグラトニーキャタピラーの後ろで別の個体が身体を持ち上げ、その2mある身体でのしかかろうとしてきた。
それを横っ飛びでかわしながら斬り伏せる。
体勢を立て直し、残り7体のグラトニーキャタピラーがいる密集地帯へと駆け出し懐へ入る。
そこで2本の剣で回転斬りを行い5体をまとめて倒す。
1体は敵わないと思ったからか、逃走を始めた。
それを逃すまいと、逃げる後ろ姿へ向けて、再び
「ファイヤーボール」
を唱える。
「ふぅ」
これで動く敵はいなくなった。
「さて、これはどうするか」
動く敵はいないが動かない敵が残っていた。
最初、糸を吐いてきたうちの1体は僕を狙うのではなく自らの身体に糸を巻きつけていた。
…………サナギになるために。
グラトニーキャタピラーは幼虫型のモンスターであり、変態し成虫型のモンスター『グラトニーバタフライ』へと進化をするのだ。
グラトニーバタフライは1体で森を食べ尽くし、針のような口で大地の養分まで吸い取ってしまう。
討伐ランクは最低でもA−以上に属する。
緑豊かな土地を、やせこけた大地へと変えてしまう恐ろしいモンスターだ。
羽化させる訳にはいかない。
が、サナギ……グラトニーピューパになることで動けないことと引き換えに防御力が格段に上がり斬撃も魔法攻撃も効き辛くなるのだ。
動かない敵という事でランク的にはC+ほどだろうが、防御力に関してはそれ以上だろう。
本来は洞窟など安全な場所でグラトニーピューパになるのだが、僕と言う敵が来たことで追い詰められたに違いない。
今は硬い殻の中で変態の途中だろう。
ドクン、ドクンと脈打っているのが伝わってくる。
「はぁ!」
カキン!カキン!
僕は2本の剣を使い必死で打ち込むが、まるで歯が立たない。
手に魔力を込めて
「ファイヤーボール」
ドーン!
爆発し煙が立つも……表面が少し焦げただけだった。
(どうしよう。僕の力では剣も魔法も歯が立たない)
八方塞がりといった状況で頭を悩ます。
解決策を考えていると自然と視線が下に下がっていき腰にさしてあるチェスターのハンマーが目にとまる。
「……これだ!!」
僕はグラトニーピューパと向き合い、その手にはハンマーを握っている。
「よし!」
僕はハンマーの柄を持ったままその場で回転しはじめる。
ハンマーの重心、重量を利用して回転し、遠心力によりだんだんとスピードが上がっていく。
回転しながらグラトニーピューパに近づき、狙いを定める!
(物理や斬撃が効かなくても打撃による衝撃ならどうだ!)
「いっけー!」
遠心力も加わった重いハンマーの一撃がサナギを襲う。
『ガッコーーーン!!!!!』
グラトニービューバは硬い繭ごと大きく吹き飛び、木に叩きつけられた。
そしてドクンドクンと打っていた脈が止まるのを感じる。
表面は頑丈でも中身までとはいかなかったようだ。
「リサイクル」
倒したグラトニーキャタピラー、グラトニーピューパを魔石と素材へと変換する。
グラトニーキャタピラーの上質な糸とグラトニーピューパの殻。
そして、それぞれの魔石を入手する。
僕は初めての依頼とクエストをクリアし、ストーリーへと帰るのであった。