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酒
「酒は飲んでも飲まれるな……」
テーブルの上で両腕を重ねる。
そこに顎を載せながら、
窓の外をぼんやりと見ていた。
いつもと変わらない風景。
けれどここに、
あなただけがいない。
あなたが好きだったお酒を飲んでも
悲しみだけが込み上げて、
少しも酔うことができない。
グラスの中を滑る氷が
微かな音を立てた。
不意に笑みが零れる。
私の心へ寄り添ってくれている
つもりなのだろうか。
グラスの縁を指先でなぞる。
湾曲したその形が
月のように丸い円を描いた。
くるりと回って、巡り巡って、
あなたも私の下へ
戻ってきてくれたらいいのに。
「どうか今夜だけは……」
そう願わずにはいられない。
もう一度だけでいいから。
せめて夢の中で微笑んで欲しい。
角掛みなみ様がYou Tubeにて展開されている「サカイメの書架」。
五月の応募作品です。





