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初夏
「俺の田舎に来たいなんて、
君も物好きだよね」
浴衣姿で夜のあぜ道を並び歩く。
この空気と匂いは
あの頃と少しも変わらない。
その感覚を全身で味わうように、
君は大きく息を吸い込んだ。
「好きな人がどんな所で育ったのか。
知りたいと思うのは変?」
「分かち合いたい、共有したい、
そういう気持ちは凄くわかるよ」
「だったら素直に喜んでよ」
俺の実家で、
幼少時代の写真を目にした彼女。
自分が知らない俺の過去を
必死に心へ焼き付ける横顔が
とても綺麗に映った。
「俺が見せたかったのはこれ」
田んぼのあちこちで瞬く蛍の群れ。
「綺麗。光の絨毯みたい」
蛍にはしゃぎ、君はくるりと回る。
その瞬間、過去の風景と現実の君が
ひとつに混ざり合った。
角掛みなみ様がYou Tubeにて展開されている「サカイメの書架」。
四月の応募作品です。





