70/136
金木犀
どれだけ時が流れようと、
甘く強いこの香りは
変わることがない。
君が好きだった金木犀。
その季節が今年もやってきた。
秋晴れの下、
紅葉に色付いた街を散策するけれど、
なんだかそれも物足りない。
やはり、独りは寂しい。
舞い散るイチョウの葉を追いかけていた
柴犬のキン。あの子が逝ってから、
もう何年が過ぎただろう。
両手一杯にどんぐりの実を拾い、
この道を一緒に歩いた息子も独立。
もう、私の助けはいらない。
そんな過去を想いながら、
他愛ない話を繰り返した君がいない。
その事実が胸を締め付け、
夜な夜な寂しさに襲われる。
足下へ落ちた枯れ葉に、
自分が重なる。
私の記憶に生きる君も、
やがて色を失うだろうか。
それが、たまらなく恐い。
角掛みなみ様がYou Tubeにて展開されている「サカイメの書架」。
九月の応募作品です。





